第三十二話
次の日は、普通にお店の日だったのだが、とても眠い。というのも、昨日、なかなか眠れなかったのだ。私、相当ジェシカさんに言われたこと気にしてるよね…。自分でも分かっているのだが、どうにもならない。
「おーい、起きろ起きろ。今、六時ちょうどだ」
庭からルイの声が聞こえたので、屋根裏部屋の窓を開けると、ちょうどそこにルイがいた。
「起きてるよ。というか、何だったら、鍵かけてないし、入って来て良かったのに?」
「は!?お前な、不用心すぎるだろ!夜くらいは鍵閉めとけよ…。何かあったらどうするんだ…」
「何かって、何?」
「例えば、急にヘルが現れたり、とか?」
すると、急に私の後ろでがばっとジェシカさんが起き上がって言った。
「ヘルが現れたら、絶対に今度こそ、捕まえるんだから!だから、大丈夫だよ!」
すると、建物の方からゼンさんが出て来て、呆れたように言った。
「だから、ジェシカ…、そんな簡単に捕まってたら、魔法協会はとっくになくなってるはずだよ?くれぐれも油断はするな、って隊長も言ってたし…」
「う、うるさいな。そこは、ゼンが頑張ってくれれば何とかなるんじゃないの?」
「急に人任せにするのはよくないと思うけど…?そこは、一緒に頑張る、って言うところでは?」
今日も二人はとても仲がいい。不意に、昨日の夜、ジェシカさんと話したことを思い出した。やっぱり、この二人って、お似合いだと思うんだけどな…。というか、普通に付き合ってる、とか言われても違和感を覚えない気がする。そんなことを考えていると、ルイが言った。
「取りあえずこの二人は置いといて、早く降りてこい。あと三秒で。三二一」
いや、数えるの早すぎる!そもそも、短すぎるよ!この前も同じことをやっていた気が…。絶対に面白がってるな、これ…。三秒は無理だけど、なるべく早く下に降りるために私は窓を離れ、屋根裏部屋を出ることにした。一応、ジェシカさんに声をかけておく。
「ジェシカさん、先に降りてますね」
…が、当のジェシカさんはゼンさんと言い合っているせいか、全くこっちの言葉に反応しなかった。…まあ、いつか我に返る…、はずだよね?
「ようやく来た。三分二十八秒かかったな。余裕で三秒超えてる」
「細かい!!!わざわざ時間計らなくていいから!あと、タイムリミット短すぎる…」
そう言いつつも何か、落ち着かない。たぶん、昨日の夜のジェシカさんとの会話のせいだ。うう…。何か、よく分からないけど、どうしたらいいか分からない…!でも、ルイは私の様子がおかしいことに気付いたらしく、不思議そうにしていた。
「何か今日、おかしくないか?何かあったのか?」
「え!?いや、えっと…、あ、昨日なかなか眠れなかったからじゃないかな?!」
適当にごまかすと、なぜかゼンさんが話に加わった。
「もしかして、ジェシカがうるさかったりしました?すみません、僕から注意しておくので…」
「いえ、全然!偶然、眠れなかっただけですよ。ジェシカさんのせいではないです」
「そうですか…?」
ゼンさんは少し疑っていたみたいだったけど、結局それ以上何も言わなかった。
私とルイは花のお世話をすることにした。ゼンさんが興味深そうに見ている。ちなみにジェシカさんはまだ屋根裏部屋にいる。身支度に時間がかかっているのかもしれない。
「ラベンダーとか、そろそろ終わりだな…。花が萎れてきてる」
ルイが少し寂しそうに言ったので見てみると、確かに少ししんなりしてきていた。ラベンダーは、基本、7月までが開花時期だから、しょうがないと言えばしょうがないけど…。
「でも、ポプリとか、ハーブティーとかどうしよう?作れなくなっちゃうよね…。ビニールハウスとかがあれば便利なんだけどね…」
「その、びにーる何とかって言うのは、置いといて、今のうちに採った方がいいかもな。ポプリとかは乾かしておけばいつでも作れるだろうし」
私はそれに賛成し、ゼンさんにも摘み取りを手伝ってもらうことにした。そのおかげで、量は多かったけど、意外と早く終わった。でも、時々、ゼンさんが屋根裏部屋を見ていたことに私は気付いていた。
摘み取ったハーブを持って屋根裏部屋に行くと、ジェシカさんはまだそこにいた。端っこの方でなぜか落ち込んでいる。私はハーブを置いてジェシカさんに近寄った。
「ジェシカさん、どうしたんですか?具合でも悪いですか?」
「……また、ゼンに突っかかっちゃった。気をつけてるのにいっつもそうなるの…」
「でも、ゼンさんはたぶん、気にしてないと思いますよ?」
慰めるつもりで言ったのだが、ジェシカさんには逆効果だった。その場で急に倒れこむ。
「ってことは、やっぱりゼンはわたしに興味がない、ってことなのかな!?」
「それはないと思いますよ。さっき、一緒にラベンダーとか摘んでたんですけど、その時、屋根裏部屋をちょこちょこ見てましたから」
すると、今度はものすごい勢いで立ち上がった!そして、私をじーっと見る。
「ほんと、ほんと?本当に本当?!」
「本当です。何だったら、ルイにも聞いてみてください。たぶん、ルイも見てましたから」
それを聞いたジェシカさんは嬉しそうに屋根裏部屋から降りていった。その変わりように少なからず驚く。ついさっきまであんなにしょんぼりしてたのに…。そう思いつつ、私も再び屋根裏部屋から降りた。
朝食の後のこと。いつも通り、お皿を洗った後、開店の準備をしようとした私に、ルイが頼んできた。
「植物屋のアケビのところまで行ってきてくれないか?昨日、屋敷に行くって決めたからそのことを伝えないといけないし…。渡すだけなら、開店時間には十分間に合うだろ?」
そう言って封筒を手渡された。たぶん、この中に手紙が入っているのだろう。私はそれを受け取って、早速植物屋さんに行くことにした。すると、ジェシカさんが言った。
「それなら、わたしも一緒に行ってもいい?ヘルが現れた時、わたしがいれば何とかなるだろうし、アケビさんにもう一回会ってみたいし。ダメ?」
「俺は別にいいけど。じゃあ、開店準備はゼンにしてもらうか」
「え、僕ですか?!ジェシカ、もしかして、自分が準備したくないから、一緒に行きたい、って言ったわけじゃないよね?」
ゼンさんがジェシカさんに疑いの目を向ける。ジェシカさんはそれを否定した。
「まさか!それに、そんなにわたし、怠け者じゃないよ?」
「どうだろうな…。前に協会で、モニター確認の当番さぼってたの誰だったっけな?」
「え、えーと、誰だったっけ?わ、忘れちゃったな…。あは、あははは…」
ジェシカさんはごまかしたが、何か分かりやすい…。というか、そんなこと言ってたら行く時間がなくなってしまう。とりあえず私は植物屋さんに行くことにした。
「行ってきまーす。ジェシカさん、結局どうしますか?」
「行く行く!それじゃーね。ゼン、帰ってきたら、魔法の練習でもしよう!」
私は封筒をしっかりと持って、慣れてしまった、植物屋さんへの道を歩いた。ジェシカさんは町の建物などをきょろきょろ見ながらついてくる。どうやら珍しい物が多いらしい。
「すっごい。協会にいると、全く外に関することが分からないから、久しぶりに出ると、何だか新鮮!この前も宿に行くためにここら辺を通ったけど、そんな余裕なかったし…。本当にすごいなあ…」
「…ゼンさんといなくて良かったんですか?」
「え!?な、何言ってるの?!ずうっと一緒にいたら緊張しすぎて酸欠になっちゃうから…」
酸欠!?そんなに緊張するの!?私は驚いたが、それに関してジェシカさんはそれ以上何も言わなかった。代わりに、私に質問してきた。
「そういう結花は、ルイと一緒に行かなくて良かったの?」
「?!ま、まあ、確かにそうかもしれないですけど…。でも、お店の準備がありますしね…」
「あ、そうだ、アケビさんに聞いてみようよ。昨日、わたしが言ったこと!」
それ、本気だったんですか?!もしかして、ついてきたのって、これが目的だったりして…?
「や、やめておきましょうよ。アケビさんだって忙しいでしょうし…。聞くとしても、また今度にしましょうよ?」
「ええー…。聞く、絶対聞く!すっごく気になるんだもん!」
そんな風に押し問答をしているうちに、植物屋さんに着いてしまった。ルイが貸してくれた許可証を見せて、中に入る。そして、アケビさんのお店のスペースへ向かった。
「あれあれ?結花ちゃんと…、ジェシカちゃん?二人ともどうしたの?」
「これ、ルイから預かってきたんです。サーニャ様に渡して頂けますか?」
アケビさんは私が差し出した封筒を一通り確認すると、一つうなずいた。
「うん、大丈夫だよ。任せておいて。ちゃんと、渡しておく。今日、サーニャ様がここにいらっしゃる日だし、ちょうど良かったね」
すると、スイさんが奥から出てきた。
「師匠。こちら、確認が終わりました。異常なしです。あ、あるとすれば、昨日が提出期限だった書類がまだ出されていないことくらいでしょうか?早急にお願いします」
「ううー…。朝から辛いよ…。書類なんて、なくなればいいのになあ…」
「ええ、そうすれば、私も師匠の書類管理の仕事がなくなるので、一石二鳥かもしれませんね」
スイさんが朝から辛辣だ…。すると、私たちに気付いたらしく、スイさんがにこっと笑った。
「どうも。師匠が本当にご迷惑をおかけしています。ルイ様にもよろしくお伝えくださいね」
「いえ、こちらこそ。また来ますね」
私はそう言って立ち去ろうとしたのだが、ジェシカさんが私の腕を引っ張って引き留めた。
「ちょ…、ジェシカさん、どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも、あの質問をまだしていないでしょ?」
「?あの質問、って?何か聞きたいこととかあるの?」
あー…。アケビさんが興味を持ってしまった…。
「昨日、結花とコイバナみたいなことをしてたんですけど、アケビさんから見て、結花は誰かに恋してますか?」
うわ、めちゃめちゃストレート…!そんなにはっきり聞くと、聞かれた方も戸惑う気がするんだけど…?私がそう思っていると、アケビさんは笑い始めた。
「そうだねー。ここで私が言っちゃうのは簡単だけど…、それじゃあ、つまらなくない?」
アケビさんは優しい笑顔を浮かべて不思議なことを言った。
「自分の気持ちは、きっと誰よりも自分がよく分かってるんじゃないかな?たぶん、今は気付いてなくても、いつか絶対に気付くと思うよ。だって、自分のことだもん」
アケビさんのその言葉は、その時の私にはよく分かっていなかった。
読んで下さり、ありがとうございました。
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