第二十六話
話し終わった後、私たちはお店の中に入った。…んだけど、ルイがなぜかひそひそと私に話しかけてきた。
「何か、奥の方から音が聞こえないか?」
そう言われて耳を澄ましてみると、確かに何かが聞こえる。人の話し声、かな?
「ゼン~。早く!そろそろ帰ってきちゃうよ?見つかったらまずいって…」
「あと少しだから待って。それと、ジェシカが静かにしてくれないと集中できないんだけど…」
しばらく私たちはその場にいたけれど、向こうは全くその場から動かない。…というか、私たちに気付いてない?それに、この声、どこかで聞いた気がする。しかし、ルイはしびれを切らしたらしく、忍者みたいに物音を立てずに素早く移動して、奥へと移動した。何なの、その技術…。日本の戦国時代だったら重宝されてただろうな。
「誰だ!?泥棒か?」
だから、すぐ泥棒扱いするのやめようよ…!?強盗殺人犯だったらどうするの?
「ほらー!だから言ったんだってば、侵入するのやめよう、って!」
「だってしょうがないだろう。これが一番手っ取り早かったんだし」
「今の状況ちゃんと見なさいよ。また泥棒扱いされちゃったじゃん!」
やっぱり聞き覚えのある声、そして、やり取り。もしかして、この人たち、昨日の宿探しの人たち…?とりあえず反撃して来なさそうなので、私も部屋に入ってみた。
「やっぱり。昨日の人たちだ。そういえば、さっき、ヘルさんと話してた時にもいたよね」
「そうなのか?もしかして、あんたたち、ヘルの手先?」
ルイが表情を厳しくする。何か怖い。迫力がすごい…。もうちょっと迫力抑えようよ。二人が怖がってる…。でも、二人はきっぱりと言った。
「「絶対違う!」」
わ、はもった。しかも、向こうの迫力もすごい。というか、ヘルさんのことが嫌いな人、多すぎる。
「逆よ。わたしたちはあの魔術師を追ってるの!絶対に捕まえてやるんだから!」
「ちょっと、ジェシカ…。そのことは言っちゃダメだって。隊長に注意されてたのに…」
ジェシカさんがはっとしたように口を押えたが、もう聞いてしまった。
「そういえば、さっきも道で魔術師がどうこう言ってましたよね?」
私がそう言うと、ジェシカさんたちも思い出したらしく「あっ」と声をあげた。
「そういえば、君もあの場所にいたよね。魔術師と話してたけど、どういう関係?君こそあの魔術師の手先なんじゃないの?」
ゼンさんが怪しむような目を私に向けた。が、ルイが私の前に出てかばってくれた。
「違う。こいつはただ巻き込まれてるだけだ。それに…、あんたたちもヘルのことをかなり知ってるみたいだけど、何でだ?それに、捕まえる、って…」
ジェシカさんとゼンさんは顔を見合わせた。そして、ぼそぼそと相談する。少しすると、二人は私たちの方に向き直った。ゼンさんが告げる。
「本当は、このことを言っちゃいけないんだけど、君たちは色々知ってるみたいだし、あの魔法の被害に遭いかけたみたいだし、本当のことを言うよ。これ以上被害者を増やすわけにはいかないしね。…と、その前にもう一度詳しく聞かせてもらいたいんだけど、魔術師―、君たちがヘル、って呼んでる人とはどういう関係?」
「俺の身内の側近。俺はヴェリエ国出身なんだけど、そいつが俺を連れ戻そうとしてる。それから、ヘルはこいつ…、結花をどこか遠くに行かせようとしてる」
「つまり、あなたたちにとって魔術師は敵ってことね!だったら、やっぱり教えておいた方がいいわね。…この世界の、隠された真実」
いや、「敵」ってほどじゃないけど…。ジェシカさんは小さく息を吸うと、再び話し始めた。
「ええと…。どこから話そうかな?魔法がこの世界から消えた時の話は知ってる?」
「あ、ヘルさん本人から聞きました。ヘルさんの作った魔法で世界が大混乱に陥った、って話ですよね?確か、その魔法を解く方法はない、って…」
「そんな話もしてたのか!?聞いてない…」
そりゃそうでしょ。言ってないんだから。大したことないかな、って思ったから言ってなかったんだけど…、ダメだったかな?
「まあまあ落ち着いて、ルイ君。で、話の続きね。その後、魔法協会、って言う機関がその混乱を治めるために魔法の解き方を見つけて、何とか混乱は終わったの。そして、その後、魔法を使うための花は全部切られて魔法はこの世界から無くなった。ただ、そこで問題が起きたの。その魔法を作った張本人…、つまり、ヘルとかいう奴が逃げちゃったのよ。で、ずーっと生きてるわけ。わたしたちはヘルを捕まえて二度とそう言う魔法が使えないようにしようと動いてるの」
「なるほど。…って、その前に、何で俺の名前知ってるんだよ!?」
確かに。お互い自己紹介はしてなかったはずだけど…。すると、ジェシカさんはあっけらかんと言った。
「そういえば言ってなかったっけ?わたしたちは魔法協会に所属している魔法使いなの。だから、そういうのはお茶の子さいさいなのよ。って言っても、まだまだ修行中だけど。実は、ヘルを探しだす中心になってるのは魔法協会で、今も密かに存在しているのよ。ヘルが混乱の原因になった魔法を使ったらすぐに動けるようにしているの」
何かすごい展開になってきてる気がする…!というか、ヘルさん、よくこれまで逃げてこられたよね…。
「そうなのか…。で、そっちが言ってた『あの魔法』って何なんだ?」
そう言ってルイがゼンさんの方を見る。
「あ、僕のことはゼンと呼んで下さい。こっちの落ち着きがない方はジェシカ。どうやら結花さんはもう名前を分かっていたようですが…。で、さっき僕が言った『あの魔法』っていうのは、魔法がこの国からなくなる原因になった、ヘルが作った魔法のことなんです」
はい!?ヘルさん、何で今さらそんな怖い魔法をネネ様にかけてるの!?
「その魔法は……、人の心を操る力。ヘルは欲望深い人たちに近付いてこの魔法をかけ、その人たちが自分の望みを叶えられるようにしました。これのせいで、1000年前、多くの人の人生が狂わされた…」
すると、ルイが何か思いついたらしく、はっとした。
「もしかして、ヘルがあの家にいたのは…、父が欲深いから…?」
「…そうかもしれません。失礼なことを聞きますが、そんなにその方は欲があるのですか?」
「ある。いつか国を乗っ取りそうなくらい。狙った物は全部奪う、が座右の銘みたいな人だ」
「それだとそうかも。でも、だったら何でヘルは魔法を使わなかったのかしら?あの魔法を使ったら一発で気付くはずなのに…」
ジェシカさんが口を挟む。すると、それを聞いたゼンさんは何かを思い出したのか苦笑した。
「確かにあの音はひどかったね…。でも、ジェシカの言うことには一理あります。どうして魔法を使わずにただ、同じ場所にずっといたのか…」
話がこんがらがってきた。ヘルさんの目的は、何なんだろう…?
「ってか、その魔法、解けるなら早く解いてくれ。そうじゃないと、結花があの人に絡まれ続ける」
ルイ…、ネネ様のことを「あの人」って言っちゃダメだよ…。貴族なんだから…。
「ああ…。そのことなんだけど、それが分かんないんだよね…。それに関する書物がなくて。でも、できるだけ早く対処するつもり。だから安心して」
ジェシカさんはけっこう軽く言ったけど、それ、けっこうピンチでは!?安心できないよ!?ジェシカさんは苦笑いした。
「あ、そうだ。肝心なこと忘れてた。わたしたちがここに来たのは、ゼンがこのお店からあの魔法の気配を感じたからなの。良かったら、その時の話をしてくれない?一応、魔法で読み取ったけど、直接聞いた方がいいもの」
ルイが少し心配そうに私を見た。
「話すの嫌だったら、俺が説明するけど…。どうする?」
「ありがとう。でも、大丈夫。もし無理だったら途中からルイに代わってもらうね」
ルイは納得したらしくうなずいた。私はジェシカさんたちに昨日の出来事を話した。
「…とまあ、こんな感じで。お二人のお話を聞いた後で考えると、本当に怖いですね」
私がそう締めくくると、なぜか二人はじっと私を見た。…私、上手く話せてなかったかな?私の心を読んだのか、ゼンさんが慌てたように言った。
「分かりやすい説明でしたよ。…ただ、どうしても気になることがあって」
「うん。わたしも思った。…だからさっき、ヘルは結花さんの元に現れたんじゃないかな」
気になること…?何かあったっけ。
「結花さん。どうしてあなたにはそれが効かなかったの?わたしたちの研究だと、99.9%の確率でその魔法は効くんだけど…」
「うーん…。思いつくことはないですけど。私がその確率の残りの0.1%なんじゃ?」
私がそう答えると、ルイは少し呆れた口調で言った。
「お前、肝心なところで抜けるなよ…。自分がどこ出身か覚えてない、なんてことないよな?」
「え?あー…。でも、関係なくない?そしたら、ネネ様だって魔法にかからない気が…」
私たちがごちゃごちゃ話していると、ジェシカさんが「あのー」と入り込んできた。
「何か心当たりがあるなら、間違っててもいいから教えてほしい、かも…」
言っちゃっていいのかな…。そんな気持ちでちらっとルイを見ると、ルイはうなずいてくれた。
「えっと、信じてもらえるか分からないんですけど。私、異世界から来たんです。つまり、この世界の人間ではないんですよね」
「え。えええええ!?それ原因でほぼ確定じゃない?」
「あー、ただ、たぶん違いますよ。魔法をかけられた本人…、ネネ様も異世界出身みたいですし」
「!?!?」
ジェシカさんたちが顔を見合わせる。そして、ぼそぼそと再び相談し始めた。
「…結花さん、明日とか、お時間ありますか?」
相談し終えたゼンさんが私を見る。唐突だな…。
「明日は…、このお店、定休日、だったよね?」
「そうだな。でも、何でだ?」
ルイが私の言いたいことを代弁してくれた。
「ちょっとした実験がしたいので、魔法協会まで来て頂けないかと…」
「いや、ダメに決まってるだろ。結花に何するつもりだ」
ルイが速攻で断った。その早さとオーラが少し怖い…。
「大したことはしません。異世界から来た方に魔法は効くのか、魔法をかけられた人からの影響はあるのか、などを危険じゃない範囲で調べるだけです。何だったら、ルイさんも付いてきては?それに、ネネさんへの対策を考えられるでしょうし…」
どうしようかな…。でも、私がここで受けちゃえばちょっとは役に立つのかな?
「結花、やめとけ。変なことされたらどうするんだよ?しかも、ほぼ初対面の奴らだ」
「えー…。でも、このままだとネネ様が…。それに、ルイだってこのままだと、ネネ様にかけられた魔法の影響受けちゃうかもしれないし…」
「………」
ルイは迷っているみたい。すると、ジェシカさんが
「大丈夫!魔法協会のみんなは優しいし。何だかんだいい人ばかりだから!それに、誰にも知られてない場所にあるから安全だよ!」
「ジェシカ…。それ、いいところって言ってるようで不信感しか与えてないよ。誰にも知られてない、ってことは、いざという時、どうもできないって場所ってことだし…」
すると、なぜかその一言でルイが
「結花がいいなら行く。あと、念のため、俺も」
え、今の会話でなぜ決まった!?脈絡がない…。
「だって、本当に悪い奴なら、不信感がどうこうって話はしないだろ?」
単純だな…。でも、ジェシカさんたちは嬉しそうだった。
「やった!…って、待って、隊長の許可取ってないよ!?どうするの?」
「そこはジェシカに任せるよ。まあ、せいぜい頑張って」
「丸投げしないでよ!?」
すると、ちょうどその時、その部屋にふわり、と光の輪が現れ、そこから一人の男性の姿が現れた。なんかすごい。というか、これ、どう考えても魔法だよね!?
「隊長!?どうしてここに!?」
ジェシカさんが素っ頓狂な声を出した。この人が…、隊長さん??
「今の話を聞いていたんだよ。…隊長の名において、この二人を魔法協会に連れてくることを許可する。くれぐれも、道中気をつけるように」
「「了解しました!!!」」
その返事を聞いた隊長さんは満足そうにうなずき、こちらに向き直った。
「この二人が迷惑をかけてすまなかったね。明日、よろしくお願いします」
そう言うと、再び光の輪が現れ、隊長さんはその中に消えていった…。
「そういうわけで、明日、よろしくお願いします」
ゼンさんがにこやかにそう言うと、ジェシカさんが私に抱きついてきた。
「ふふふっ!魔法協会の外に友達ができるなんてすごく嬉しい!普段、外に出ないからなかなか友達ができないのよ…。結花、仲良くしてね?」
「え、あ、こちらこそ…」
ちょっと苦しいかも…。すると、ゼンさんがジェシカさんの頭を掴んで私から引き離してくれた。
「すみませんね。この子はまだ精神年齢が一ケタなんですよ…」
「何ですって!?ねえ、ゼン、それ、どういうことかなあ?」
「そういう風にすぐに突っかかってくるからそう思ったんだけど…、違った?」
それを聞いたルイは大笑いした。私もつられて笑ってしまう。
「もー!ゼンのせいで笑われちゃったじゃん!許さないんだから。今度、攻撃魔法でめためたにするから、覚悟してなさいよ…!」
その後も夕食が終わるくらいまで二人はこのお店にいてくれたので、とても賑やかだった。
読んで下さり、ありがとうございました。




