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私の異世界花記録  作者: 立花柚月
一章 異世界花屋と私
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第二話

「ところで、私は何をすればいいの?掃除とか?」

「そう…だな。あと、接客とか。とは言っても、この店はそんなに繁盛してないし、客が来てない時は花について説明する。…とかでいいか」

「とかでいいか」って…。割と適当…?私は首をかしげた。…けど、もしかして。

「今までアルバイトとか従業員とかいなかったの?」

「あるばいと?…って何だ?」

あ、そうか。話すのに日本語が使えるから忘れてたけど、そういえばここ、異世界だった。アルバイトって言葉、ないのか…。そもそもここにはアルバイトって概念がないのかな?

「えっとね…、アルバイトって言うのは…簡単に言うと、副業してる人、みたいな感じ」

「なるほど。それなら答えは簡単だ。俺は従業員もアルバイトってのも雇ったことはない。一人で十分だ」

良かった、副業って言う言葉はあるみたい。この世界にある言葉とない言葉もちゃんと知っておく必要があるかもしれない…。後で何かで調べてみようかな。


それにしても、16歳で一人って寂しくないのかな?家族はどこにいるんだろう?気になったけど、他人も同然の私が聞くことではない気がする。…家族、という言葉で元の世界を思い出す。今頃、心配してるだろうな…。

「おい、結花、ぼーっとすんな。さっさと掃除しないと追い出すぞ!」

ぼんやりしていた私をルイが脅してきた。同い年なのになぜかすごい迫力…!私は慌てて返事した。

「はい、分かりました!店の前を掃除すればいいんだよね?」

ルイはうなずいていつの間にか持ってきてくれていた掃除用具を私に手渡す。準備が早い。…んだけど。一つ、謎の道具が混ざっている。

「これ、箒は使い方分かるけど、ちりとり(?)はどうやって使うの?」

「それくらい自分で考えろ。俺は忙しい」

あっさりとそう言って奥へと消えた。適当だな…。追いかけていっても良かったけど、入っていいか分からなかったので、仕方なく外へ出る。日向にでた私を容赦なく太陽の光が照らしつけた。

「あっつー。この時間って一番暑いよね、絶対。早く終わらせよう」

ちりとり(?)の使い方はよく分からないので、一旦放っておく。建物の壁に立て掛けてから、箒で道に落ちた大きな葉っぱを一か所に集めた。…とはいえ、夏だからか、そこまで葉っぱは落ちていなかったので、すぐに終わった。

「というかこれ、本当にどうやって使えばいいの?」

私は問題のちりとり(?)を手にした。このちりとり(?)はただの棒だ。しかも、穴が全く無い。というか、そもそもちりとりなのかもわからない。箒のペアと言ったらちりとりかな、と思っただけなのだ。色々いじっていると、端っこの蓋がぱかっと開いた。

「もしかして…、壊しちゃったかな?」

蓋をつけ直そうと思ったが、なかなかはまらない。その時だった。

小さな機械音がした、と思った瞬間、目の前の葉っぱたちが、棒の蓋が取れてしまった方に吸い込まれてしまった。地面には何も残っていない。

「…え、え、これ、大丈夫なの?」

私が混乱していると、ようやくルイがやって来た。

「ルイ!これ、葉っぱを吸い込んじゃったよ!?」

すると、ルイは呆れたような表情で私に言った。

「当たり前だろ。ゴミを吸い取る機械らしいから。元の世界にはなかったのか?」

らしい、って…。使ったことないのかな。説明なしだった理由、それ?

「…もしかして、これ、掃除機みたいなものなの?だったら箒、いらなかったんだけど…?ルイ、これ、使ったことある?使い方、ちゃんと教えようか?というか、今までどうやって使ってたの?」

「だ、大丈夫だ。お前が使えるなら、俺が使えないわけないだろ。…たぶん」

そう言って、すぐにお店の中に戻ってしまった。私は怪しいな、と思いつつも、暑いのでルイを追って中に入った。


その後、私はルイと一緒にお店番をすることになった。…しかし。

「…お客さん、来ないね。暑いからかな?」

暇すぎる。午後になってから人が全く来ない。外はすごく暑いけど、中は快適な温度になっているので、お昼寝したくなる。静かだから余計に寝たくなる。

「…寝たらすぐに外へ追い出すからな」

ルイが容赦なく脅してくる。さすがに店番している間は寝ないと思う。というか、外に追い出されて地面で寝るの嫌だし、外は眩しいし、暑いし。

「寝ないから大丈夫。というか、誰も来ないなら花の説明とか私にしてた方がいいんじゃない?」

ルイは自分で言ってたことなのに忘れていたらしく、私の言葉にはっとしていた。

「…い、今そう思ったところだ。わざわざ言わなくてもいい」

素直じゃないなー。でも、それを言ったら怒られそうなので止めておいた。


私はルイにこの世界の植物図鑑を見せてもらった。綺麗な写真が載っているのを見ると、この世界にもカメラがあるみたい。けっこう発展してる。デジカメなのかな?

この世界にある花は元の世界の花とあまり変わらない。名前も聞いた限りではほぼほぼ同じ。ただ、この国の書き言葉はさっぱり分からないので、写真の下に書いてある説明が読めないのが残念だ。できればちゃんと、説明も読みたい。ルイに読んでもらってもいいけど、あまり時間を取ってもらうのも申し訳ない。図鑑をパラパラとめくり、ルイに説明してもらって気付いたのだが、花の中には時々元の世界にはあってもこの世界にはないものがあった。もちろんその逆も。…まあ、当たり前なのかもしれないが。でも、このことは私が本当に異世界に来てしまったことを感じさせた。

そう思いつつ見ていると、あるページの植物が私の目にとまった。

「あ、ハーブだ!ジンジャー、カモミール、ジャスミンも!」

「この三つはこの店にもあるが。後で庭に行ってみるか?」

わーい。いい香りに癒されたい。楽しみだなー。あ、ハーブといえば…。

「ところで、この世界にはポプリとかあるの?ジャスミンティーとか?」

「ぽぷり?じゃすみん…?何だそれ、食べ物か?」

どうやらないようだ。あったら絶対、女の人の間で人気になると思う。

「ポプリって言うのは、花を乾燥させて、トースターでカリカリにするの。いい香りがする」

この世界にはトースターってあるのかな…。自然乾燥だけしても多分何とかなるはずだけど。

「なるほど…、それを売ったら物珍しさに人が集まって繁盛しそうだな…」

どうやら結構真剣に考えてくれているみたい。後で試しに作ってみようかな。

「あと、ジャスミンティーっていうのは葉っぱか何かをお湯に入れる?みたいな?それか、緑茶にジャスミンの花を漬けるとか。だった気がする。リラックス効果があるって聞いたことがあるよ。…って言ってもあんまり飲んだことないからよく分からないけど」

もうちょっと学んでおけばよかったな…、と少し後悔。

そこで私はルイが全く反応していないことに気付いた。どこかをぼーっと見つめ、全く動かない。

「ルイ、どうかしたの?大丈夫?」

私が声をかけるとようやく我に返ったようだ。

「悪い…。母さんのこと、思い出してた。…母さんは異世界出身だったんだ」

「え、嘘!ルイのお母さんに話とか聞けないかな…!?今、どこにいるの?」

思わず立ち上がった私にルイは短く答えた。

「5年くらい前、死んだ」

「ご、ごめん…、私、無神経に…」

「別に。…母さんはお前みたいに花が好きだった。母さんが生きてた頃は全く興味がなかったが、死んでから気になって育て始めた。そしたら意外と楽しくてさ…。この国に来たのも花に関することで色々と気になることがあったからなんだ。でも、花を育て始めたら、ちゃんと異世界の話とか、花の話、聞いときゃよかったな、って…」

お店に沈黙が落ちた。しかし、ルイが再び話し始めた。

「そういえば昔…、俺、そのジャスミンティーってやつ、飲んだことあるかも」

「…は?どういうこと?っていうか、急にどうしたの?」

急に驚くべきことを言わないでほしい。でも、ルイのお母さんが私と同じ世界にいたなら、あり得ない話ではない。気になるので、続きを促した。

「すっごく前の話だがいつもと少し違うお茶を飲まされたことがあった。飲んだ瞬間、ふわーって何かすごい、いい匂いが広がって…。何のお茶か聞いたら、…最後にティーってついてた気がする」

待って。それ結構曖昧だよね?最後にティーがつくお茶って色々あるよ!?紅茶とかでもミルクティーとかレモンティーとかあるし。ハーブティーでも、ジャスミンティーの他にもカモミールティーがあるし…。

私がそう考えていると、ルイがこっちを見ているのに気付いた。どうしたんだろう?

「なあ、結花、お前、そのジャスミンティーとか作れないか?」

唐突すぎて困るが、話を聞いてみる。

「最近、暑い日が続いてるし、ここに来た客に出せば喜ぶと思う。俺も久しぶりに飲んでみたいし」

…さらっと言ったけど、結構難題じゃないですか!?ハーブティーと言ってまず最初に思いつくのはジャスミンティーだけど、ルイのお母さんが作ったの、それじゃないかもしれないし…。そもそも作ったことないんだよね…。と、私が渋っていると、ルイは痺れを切らしたのか突然、

「じゃあ、頼んだからな。よろしく。母さんのお茶、懐かしいなー」

と言って、外に出てしまった。その場に私一人が取り残される。

「横暴すぎるでしょ―!?」

慌ててルイの後を追いかけ、言った。

「私、ハーブティー作ったことない!絶対に無理!」

するとルイがどこかわざとらしく、残念そうに言った。

「そうか、確かにお前、不器用そうだもんな?やっぱり頼まない方が良かったか…」

何なんだその言い方…。ものすごくルイに対していらつくのは私の心が狭いからだろうか…?

「わ、私だって、それくらいお茶の子さいさいなんだから!」

「ほー、それならさっさと作ってみろよ?お茶の子さいさいなんだろ?」

「いいよ。楽しみに待っててくれていいからね!」

私がそう言うと、ルイはにやりと笑って言った。

「ああ、猫の額くらいだけ期待しておく」

そこまで来て私はルイの口車に乗せられたことに気付いた。…というか、「猫の額くらいだけ」ってどういうこと?少しだけしか期待してないってことじゃん!そもそも微妙に使い方が変な気がする。

でも、ああ言ってしまった以上、やるしかないよね。私は店の中に戻り、大人しくルイのお母さんが作ったティー作りをすることにした。はあ…。何か不安である。


「取りあえず、ジャスミンかな…」

私はお店の庭にあるハーブコーナーで腕組みしていた。さっきは紅茶の線も考えていたけど、ルイの話によると、どうやらこの世界では庶民も貴族もなかなか紅茶の葉っぱを手に入れることができないらしい。なので、ハーブティーから攻めた方がいいかな、と思ったのだ。

ルイからは許可をもらったので、花を摘むことにしたのだが…。ルイのお母さんのティーは本当にジャスミンティーなのか?という考えが私の中にあった。まあ、何にしろ、おいしいことには全く変わりがないので(お茶の入れ方とかが良かったら)、とりあえずジャスミンティーにしよう。私は花をいくつか摘み取った。…少ない、かな。香りをつけるには足りないかもしれない。それを台所に持って行き、丁寧に洗う。…ここからどうすればいいのだろう?こんな時にスマホがあればものすごく便利だけど…。残念ながらスマホは元の世界。私が途方に暮れていると、悪いタイミングでルイが台所に入ってきてしまった。

「おー、やってるやってる。順調か?」

絶対、順調じゃないって分かっててここに来てるよね!?

「ルイ、お母さんがそのティーを作ってた時の様子、覚えてないの!?」

「覚えてない。残念ながら、直接は見てないから。勉強とかの休憩時間に持ってきてくれただけだから」

なんで肝心なところだけ覚えてないのかな…。どの葉っぱや花を使ったかを調べる前に作るところで挫折しそう。でも、そしたらルイに何て言われるか分からないので、意地でも完成させるつもりだ。

「えっと…、まず緑茶を入れて。それから何かの容器に移し替えて…。その中に花を入れて待てばいいのかな?自信ない…。やっぱりスマホが欲しい…」

最初にお湯を沸かすことにした。やかんがないので、鍋に水を入れる。そして、コンロらしきところにそれを置いた。…、あれ、ない、スイッチがない!でも、心配する必要は無かった。コンロから急に火が出た。

「すごい、これ、自動なの?元の世界より進んでる気がするよ、これ」

しばらくすると、お湯が沸いたので、緑色の粉を入れた。緑茶の元になる粉が入っている筒はなぜかちゃんと日本語で「緑茶」と書いてあったのだ。たぶん、ルイのお母さんが書いたもの。

「…うん、とりあえず緑茶は入れられた。味もたぶん、いけてるはず…?」

空の瓶を探しだし、洗ってから緑茶を入れた。そしてその中にジャスミンの花を入れた。

「これで待てばいいよね。うまくできてるといいけど…」

読んで下さり、ありがとうございました。

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