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私の異世界花記録  作者: 立花柚月
二章 異世界花屋と魔法の花
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番外編 昼休みの後で

今回も番外編です。ルイ視点になっています。

アケビと別れ、植物屋の外に出ると、空がびっくりするほど青かった。ただ、今日みたいにすごく暑いと夕立が降るかもしれない。店へと続く道を歩きつつ、俺はさっきのアケビとの会話を思い出した。

『ルイってなんだかんだ結花ちゃんのことが好きだよね?』

正直、自覚はない。でも、アケビに俺の結花に対する言動や行動を指摘されると、なぜかそのことがすんなりと入ってきた。とは言っても、やはりよく分からないのだが…。俺は自分が誰かに恋をする、とか考えたことがなかった。それはたぶん、母さんを見ていたからだろう。母さんが一人で苦労していたのを俺は誰よりも知っていた。だから、恋なんてあるわけがない、と思っていた…。

「……あ、ルイ。お帰り」

気がつくと、店の近くに着いていた。結花の方が帰ってくるのが早かったらしく、店のドアにもたれかかっている。鍵を渡しておけば良かった、と少し後悔した。

「遅くなってごめん。熱中症とかになってないよな?」

「大丈夫。ここ、ちょうど日陰になってるから。ルイこそ、植物屋さんからの道、暑かったんじゃない?」

そう言って結花は少し心配そうに俺の顔を見つめた。それだけのことなのに、なぜか、緊張する。思わず目を逸らす。そして、その後で後悔した。これでは、まるで、結花を嫌っているみたいだな、と…。思った通り、結花は少ししょんぼりとしている。俺は慌てて言った。

「ちょっと暑かったけど、いつもこんな感じだし、慣れてる。そういえば、花は渡せたのか?」

「うん。店主さん、喜んでくれたよ!でね、そこにおじいさんもいて、作ってほしい、って頼まれちゃった。どうしよう?」

そう言って嬉しそうに笑った。いつもの感じに戻ったので、ほっとする。

「作ってやればいいんじゃないか?普段、俺はじいさんに何もしてないし」

「ええ…。ルイ、いけないんだー。でも、ルイの方が綺麗に作れるからルイが作った方がいいんじゃない?」

「いや、結花が頼まれたんだし、結花が作った方がいいだろ」

結花は納得したらしくうなずいた。

「あ、そういえばね、ルイに伝えたいことがあるの」

「伝えたいこと……?」

改まった調子で言われたので、再び緊張する。もしかして、一週間後、ここを出るか出ないか、という話だろうか?

「昨日話してた、誰がネネ様に私のことを教えたか、って話なんだけど…」

…そっちか。ほっとしたような、がっかりしたような…。俺は少しもやもやしていたが、結花の次の発言で一気にそれが吹っ飛んだ。

「さっきね、ヘルさんに会ったんだ。ちょうど、その場におじいさんも来たんだけど。二人の話から、何となくだけど、犯人が分かった気がするの」

「それを先に言えよ!!あー、俺が一緒についていけば良かったのに…。数時間前の自分がむかつく!結花、何もされてないよな、怪我してないよな!?」

結花は俺の剣幕に目を白黒させたが、こくこくうなずいた。でも、不意にその表情が影が落ちたように暗くなる。

「…でも、私はその時のヘルさんの質問に答えられなかった。ごめんね、ルイ」

「質問?何の?変な質問でもされたのか?」

「…うん、変って言えば変かもしれない。…、元の世界に、戻りたくないか、って聞かれたの」

「……っ!」

一瞬、心臓が止まるかと思った。だって、結花が元の世界に戻る、ということは…、自分が考えないようにしていたことだったから。でも、魔法じゃあるまいし、一体どうやって…?

「…結花は、そのことについてどう思ったんだ?」

「正直、分からない。家族に会いたい、とは思う。でも、このお店を、…、ルイの傍を離れたくないな、とも思う。自分のことなのに、何だかはっきりしない…。どうすればいいんだろう?」

「………………」

今、こいつ、さらっと驚くこと言った気がする。本当に不意打ちすぎる…!心臓に悪いのでやめてほしい。俺が何て言えばいいか分からなくて黙っていると、結花は怪訝そうな表情になった。

「どうしたの?固まってるけど…。私、何か変なこと言った?」

「……、今、俺の傍を離れたくない、って」

よくこの言葉を言えたな、と結花の勇気に感動していると、結花はぎょっとした。

「え、私、そ、そんなこと言ってた!?無意識?!うわああ、めちゃめちゃ恥ずかしい…!」

「…でも、そう言ってくれたことは、その、…嬉しい」

「え…、あ、ありがとう…。…って、ごめん、話ずれたね。ネネ様に私のことを教えた犯人はヘルさんだと思う」

そう言いつつ微妙に顔が赤くなっている。照れているみたいだ。でも、内容がシリアスに戻ったので、一旦頭を切り替えることにした。

「ヘルさんは、魔術師らしくて、何かの魔法をネネ様にかけたみたい」

ヘルが…、魔術師??魔法はもう、ないはずなのに…?疑っているような表情になってしまったのか、結花は慌てたように言った。

「それはたぶん、本当のことだと思う。だって、私の目の前で魔法を使ってたから」

「何もされてないよな!?」

「大丈夫だってば…。その場に一瞬、雪が降っただけだよ」

暑い夏に、雪…。本当にヘルは魔術師なのか…。別に結花の言っていることを疑ったわけではないが。

「でも、それがどうつながってるんだ?それに、どうやって魔法を解くんだか…」

「魔法の解き方自体はヘルさんも知らないみたい。考えてもいなかったらしくて。で、本題に戻ると、さっきおじいさんから話を聞いたんだけど、私が異世界人なんじゃないか、ってヘルさんに話したのはおじいさんだったんだって」

急に登場人物が増えた。何でじいさんがそのことを…?

「前に、メモが無くなった事件、あったでしょ?その時にメモを盗んだのはおじいさんで、私の書いた字がおじいさんの家にある日本語で書かれた本の字と共通している物が多かったから、分かったみたいなの」

「何でそんなことを…。ヘルとどうつながっているんだ?」

「ヘルさんはおじいさんに私の情報を持って来たら、借金を返すためのお金をあげる、って言ってたらしくてそれにつられたみたい。でも、結局何も貰えなかったって…」

じいさんの奴…。今度会ったら、説教決まりだな。

「たぶん、そのことを知ったヘルさんはネネ様のところに行ってそのことを伝えたんだと思う。ネネ様に魔法をかけた張本人だし、事前に接触していてもおかしくないんじゃないかな」

「…悪いな、俺の事情に付き合わせて」

まさか、ヘルがここまで結花を巻き込むとは思ってなかった。しかし、結花はぽかんとした。

「そんなことないよ。というか、私がいるせいでルイの方が巻き込まれてない?たぶん、ヘルさんは私をどこかに行かせたいだけだから、私がいなかったらこんなことにはならなかったと思う。たぶん、ネネ様だって…」

結花は申し訳なさそうにそう言った。

「だから…、二週間したら、ここを出た方がいいのかも。そしたら、たぶんヘルさんも今みたいにしつこく構ってこないと思うよ…」

…。俺はそれに反対だ。それに、どっちにしろいつかはヘルはここに来ていただろう。

「……俺は、このままでもいい。でも、最終的な判断は結花に任せる」

何か曖昧な言葉になってしまった。言葉って難しい…。もっとはっきりと、ここにいてほしい、と言いたかったのだが…。でも、結花は驚いていた。

「え…。それは、本当に…、本心?気を遣ってる、ってわけじゃなくて…?」

…何で信用されていないのだろうか?確かに、結花には素直じゃない、とか散々言われているが。

「本心に決まってるだろ。ってか、ここで本心言わないでどうするんだよ?」

「そっかあ…。それもそうだよね。ルイ、ありがとう」

「いや、お礼言われるようなこと何もしてないけど…。何かした?」

「うん。だって、このままでもいい、って言ってくれたから。…本当は午前中とかの態度的に私、いなくなった方がいいのかな…、とか考えてたけど」

でも、結花はそう言いつつも、今日の空のように晴れやかに笑っている。

「でも、私はここにいたい。迷惑かけまくるかもしれないけど、ここがいい。…だから、その…、今週で、最初に言ってた二週間は終わっちゃうけど、その後もここにいていいですか?」

急に改まった調子で言われると、何か緊張する。ってか、そのセリフ…

「本当は俺が言いたかったんだけど…」

「え???何を?もしかして私、セリフ取っちゃった?なんかごめん…!」

「いや、結花は悪くない。俺はさっき、このままでもいい、って言ったけど、もっと言うと、ずっとこの店にいてほしい、って思ってる。でも、俺といると、これからもヘルみたいな奴が絡んでくる可能性が高い。それでも、いいか?」

結花は再び明るく笑った。

「うん。大丈夫!それでもここがいい。だから、これからもお願いします」

そう言って超丁寧に頭を下げた。これからも、結花といられる、というのがなぜかそれだけのことなのにすごく嬉しかった。

「こっちこそ、よろしくな」

これから、どうなるかは分からない。もしかしたら、ずっとここにいるかもしれないし、ヴェリエ国に帰らざるをえなくなるかもしれない。でも、できれば今のような時間ができるだけ長く続けばいい。そう思った。

読んで下さり、ありがとうございました。次回からまた普通のお話に戻ります。

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