第二十四話
時間が遅くなってしまいすみません…。
「よーやく着いた!意外と遠かったね…」
ジェシカとゼンはシェーロン国の魔法を感知したシステムが設置されている場所に着いていた。
「そうだね。僕たちは基本外に出ないし、特訓で体力づくりしていても、なかなか長い時間歩かないからね」
「うー、疲れたー。ね、ゼン。今日はもう宿探ししようよ。で、明日から頑張ろっ!」
「しょうがないね…。じゃあ、ジェシカの言う通り、宿探しするか…。って言っても、ここら辺詳しくないんだけど。宿あるのかな?」
辺りを見てみたが、普通のお店ばかりだ。でも、夕方ということもあり、どこも混んでいる。
「お店の人とかに聞いてみる?その方が早いよね?」
その時だった。ゼンがとある店の前で立ち止まった。ジェシカは止まらずに先に進んでいたが、ゼンがいないことに気付き、戻ってきた。
「どうしたの?このお店はやっていないみたいだけど…?」
「違うよ。このお店から、薄いけど何か感じない?たぶん、あの魔法の気配なんだけど…。これくらい薄いとかけられた方がここにいたのかもね」
「え、嘘だー。全く感じないんだけど…??ゼンの方がそういう気配感じやすいのかな?」
「そうなんじゃない?それか、日頃の練習の成果じゃないかな。ジェシカはいつも攻撃魔法しか練習してないし」
図星だったので、ジェシカは聞こえないふりをした。
「……で、ここは何屋さんなの?人、いなさそうだけど…?話聞けなさそう」
「大丈夫、この中に入っちゃえば魔法で過去を読み取れるはずだよ?」
どこか楽しそうな表情でそう言ったゼンを見て、ジェシカはゼンが何を言いたいか分かった気がした。
「窓ガラスを割ればその隙間から侵入できそうだよね!ということで、早速…」
「ちょ、ちょっと待って。ストップストップ!」
ジェシカは慌ててゼンを止めた。ゼンの手は窓ガラスに触れる直前で止まった。
「何?あ、ジェシカが割りたい?」
「違う!ゼン、もしこの中に人がいたらどうするの?それに近所迷惑だよ!?あと、割れたガラスどうするつもり?」
「人の気配はないし、もし見られたらその人の記憶を消せばいいし、何とかなるはずだよ。ガラスは魔法で直せばいいはずだし…」
「いやいやいや…。帰ってきてからお話聞く方が絶対穏便に済むはずだよ!?」
「だって、何て説明すればいいのさ?魔法の話をしたって信じてもらえないと思うけど…」
二人でしばらくその店の前で言い争っていると、不意に誰かが話しかけてきた。
「…ここ、俺の店なんだけど、入りたいからどいてくれる?というか、あんたたち泥棒?」
すると、傍にいた少女が慌てたように言った。
「ちょっと、ルイ!初対面の人にその言い方はないでしょ…。泥棒扱いしちゃダメだよ…」
「でも、怪しくないか?閉まった店の前に人がいるって…」
「そうだけど…。泥棒は言い過ぎだって…。ちゃんと話を聞いた方がいいと思うよ?」
今度は戻ってきた方が議論し始めてしまった。だんだん加速していくその勢いに、ジェシカはどうすればいいか困った。しかし、ゼンは物怖じせず、二人に話しかけた。
「すみません。僕たちは宿を探しているんですけど、ご存じですか?」
すると、少女は少年の方を見た。少年は少し考えてから言った。
「確か、ここからもう少し行ったところにあった気がする。ただ、けっこう人気だから部屋が空いてるかは分からない。早く行った方がいいんじゃないか?」
「ありがとうございます。早速行ってみますね」
ゼンはそう言ってジェシカの腕を引っ張り、教えてもらった方角へ向かった。
「ちょ、ゼン、あの人たちに聞かなくていいの?せっかく帰ってきたのに…」
「でも、警戒されちゃったからね。それに、さすがに夜にずかずか入るわけにもいかないし…。お店みたいだから明日の朝、お礼も兼ねて行けばいいと思う」
ジェシカは一瞬後ろを振り向いた。既にさっきの二人の姿はない。でも、何となく、とてもうっすらと魔法の気配を感じる。気配を読み取るのが苦手な自分でも感じるということは、もしかしたら、この近くにまだ魔術師がいるのかもしれない…。そう考えると、少し怖かった。
「ルイ、ストレートすぎだよ…。いつもは素直じゃないくせに…。何で変なところで素直なの!?」
さっきの二人が去っていき、お店に入った私はルイに文句を言った。初対面の人に泥棒、とか言ったら普通怒ると思う。さっきの人たちは怒らなかったから良かったけど…。
「俺のこと素直じゃないって言ったの、結花だろ…。そもそもあの二人はどう考えても怪しかった。さっき店は閉まってた。それなのに、その前で何か話してるとか、明らかに怪しい。絶対怪しい」
「はいはい。とにかく怪しいと思ったってことね。でも、なんだかんだ二人に宿の場所教えてあげてたよね?」
「ああ。そうだな。教えたな。でも、確かできたばかりだから、一年以上予約待ちだった気がする」
「ええー!?ルイ、何でそんな大事なこと言わないのよ!?」
「部屋が空いてるかは分からないって言ったけど。ダメか?」
「ダメです。それ、けっこう大事だよ?というか、何でそこを紹介したわけ!?」
絶対に明日、あの二人に怒られそうだな…、と思った。いや、今すぐ来てもおかしくない気がする。やっぱりルイは素直じゃないんだな…。
「そもそもここら辺、そこしか宿がないんだよ…。あそこができる前はこの辺りには全く宿がなかった」
「そうなんだ…。そこまでちゃんと言えば良かったのに…」
「別に説明を詳しく求められたわけじゃなかったからな。まあ、何とかなるだろ」
私はさっきの二人組のことがものすごく心配になった。窓の外の道を見てみたが、もちろんそこには誰もいない。二人が無事に泊まる場所を見つけられたらいいな、と思った。
「そういえば、ネネ様をあの状態で帰したけど、屋敷の人たちは大丈夫なのか…?」
「あー…。確かに。どうだろうね?でも、今のところ大騒ぎにはなってなさそうだよね。だけど、早めに対処しないと、何か大変なことが起きるかもね…」
「だろ?ただ、問題はどうやってネネ様を元に戻すか、ってことだ。原因が分からないからどうやって元に戻すかが分からないんだよな…。どこかに資料とかがあったらいいけど、普通ないだろうし」
図書館とかがあったら置いてありそうだけど。でも、私はシェーロン語が読めないし、手伝えないんだよね…。日本語版の本があったらいいけど、あるわけないし…。やっぱりこの国で暮らしていくんだから、シェーロン語も少しはできるようにしないといけないな…。
「とりあえず夕食作ってくるから待ってろ」
「何か手伝うことある?どうせやることないし…」
でも、ルイは「ない」と短く言ってさっさと台所に入ってしまった。その場にポツンと私だけが取り残された。本当にやることないな…。私は暇つぶしするために千智さんの日記を読むことにした。でも、それは小屋にあるので、取りに行かなければならない。私は椅子から立ち上がり、庭へと向かった。
庭からは綺麗な星空が見えた。天の川が空の真ん中を通っている。本当にこの国では星空がよく見える。元の世界ではあまり星を見る習慣はなかったけど、ここに来てからはほぼ毎日見ている。
「こういうことになるって分かってたら星のこと、ちゃんと勉強してたのにな…」
私が知っている星と言えば、夏の大三角形くらいだ。あと、さそり座のアンタレスとか。……って、ずっと見ているわけにもいかない。日記を取りに行こうと思ったんだった。思い出した私は小屋に入って日記を取り出し、建物に戻った。
ぱらぱらとページをめくっていると、ルイがやって来た。どうやら夕食作りに一段落ついたみたいだ。
「結花、その日記、本当に好きなんだな…。毎日のように読んでる気がする」
「うん、だって、このノートは私がこの世界で読める数少ない文章の一つだもん。それに、共感できるところも多いし。私もシェーロン語が読めればいいんだけど…」
「前も言ったけど、シェーロン語はすごく難しい。なかなか覚えられないと思うけど、それでもやりたいなら誰かに教えてもらえばいいと思う」
「え?ルイは教えてくれないの?」
数字の時はルイが教えてくれたので、もし頼んだらシェーロン語も教えてくれそうだと思ったけど…。
「俺?別にいいけど、あと一週間だし、今から教えると中途半端になるんじゃないか?」
「…………そうだよね。もともと、二週間って約束だったもんね。ごめんね、変なこと言って」
「え…。あ、ああ、いや、……。あ、そろそろ魚が焼ける頃だ」
そう言ってルイは行ってしまった。…避けられた?何となく、失敗した気がする。なんだかんだ私は二週間以上ここにいられる、ってことを前提に考えていた気がする。確かに、あと何日…って考えることはあったけど…。私がここにいても、ルイにとっては迷惑でしかないよね…。この前はヘルさんに絡まれちゃったし、今だってネネ様との問題があるし…。
ふと、アケビさんに服を買って頂いた日を思い出す。確かその時アケビさんは
『何だかんだ言ってルイも結花ちゃんにずっとお店にいてほしそうだし』
と言っていた。でも、ルイは今、「一週間」って言っていた。何でそう言われたことがこんなに悲しいのだろう?ずっとここで働きたいと思っているのもあるが、何となく、それだけじゃない気がする。…でも、私にはそのもう一つの理由が分からなかった。
「……。今のうちに、働ける場所、探しておいた方がいいのかな…」
意味はないけど、つぶやいてみた。でも、そうしてみたところで状況が変わるわけではない。それでも言ってみたくなった自分の心がよく分からない。
夕食の後のこと。
「…明日の昼、文房具屋さんに行ってもいい?今日は渡しに行けなかったから…」
残りが一週間なら、今のうちにできることをやろうと私はそう言った。
「昼…は、俺はアケビと会う予定だから、一緒に行けないけど大丈夫か?ネネ様とかヘルの奴が現れるかもしれない」
「ヘルの奴」って…。言い方が…。でも、心配してくれるその態度が、嬉しくて、辛い。どうせ一週間だけなのに…。そんなことを言われたら、ルイの優しさに甘えてしまってここから出られなくなりそうな気がする。
「…うん、大丈夫。たぶん何とかなるよ。すぐ行ってすぐ帰れば良いし」
「…そうか。明日は悪いけど、一緒に昼食べれないから適当に好きなの選んで食べとけ。数字はもう大丈夫だろうし、買い物は大丈夫だよな」
私はうなずいて、立ち上がった。
「今日は色々あって疲れたし、眠いからもう寝るね。おやすみなさい」
「…ああ。おやすみ」
私は早歩きで小屋に向かった。本当は全然眠くない。でも、ルイと一緒にいたくなかった。複雑な気持ちになってしまうから…。
「はああ…」
小屋に着いた私はすぐにベッドの上に転がり、ため息をついた。何だか心の中がごちゃごちゃしていて、なかなか眠れなかった。
読んで下さり、ありがとうございました。




