第二十話
一日空いてしまい、すみません…。
「店主さん、これ、全部でいくらですか?」
「持ってけ。どうせ取っといても使う人はいないからな」
「…でも、利益がないですよ?むしろ、赤字になっちゃいますけど…」
私はそう言ったが、店主さんは全くお金を受け取る気がなさそうだったので、結局貰ってしまった。
帰り道。紙を落とさないように気をつけつつ、私はルイに話しかけた。
「何だかんだ、店主さん、いい人だったね。…あの紙の量には驚いたけど」
「…結花限定なんじゃないか?ってか、あの大量の紙、店主がいなくなったらどうなるんだろうな…」
そんな話をしながら、私たちはお店に戻った。
夕食の後。私は今日貰った通草紙を眺めながら、紙をどうやって花の形にするか考えていた。元の世界にあった造花ってどう作られてたんだろう?ものすごくリアルだったけど…。そもそも色が白しかないからな…。私が試しに一枚、折ったり切ったりしてみた。…が、何か変。上手くいかない。そこにルイがやって来た。
「何やってんだ…って、ああ、花作りか。確かに作り方に困るよな…。なるべく本物っぽい方がいいんだろうけど。実物があるのが一番いいが、盗まれたってサーニャ様は言ってたし」
「でもルイ、この前、何かデザイン描いてたよね?あれはどうやって作るつもりだったの?」
「…あれは、適当に描いただけで、実際に使うつもりはなかった。ああいう感じの雰囲気かと思ってイメージ図を描いただけだ。あれを参考にしなくたっていい」
えー、すごい綺麗だったのに…。残念。私はルイのデザインを頼るのを諦めて、再び紙をいじり始める。
「何かいびつなんだよね。こう、…しっくりこないというか。…って、ルイ、いつの間にか作ってるし!どうやって作ったの?というか、早くない!?」
「前に紙を使った花の作り方を母さんに教えてもらったんだよ。それを思い出して作ってみた。他にも色々教えてもらったから色々知ってるけど。デザインもそれを元に描いてみたんだ」
「本当に!?お母さん、すごいね!それならいっぱい花、作れそう」
「ただ、問題は色が白しかないってことだな。白しかないからたくさん作っても形がよく分からなくなる」
ちょっと地味だしね。色付けできたらいいんだけど…。それか、周りに入れる物をカラフルにするか…?
「ペンとかで花びらの縁取りとかする?そしたら染めなくても大丈夫だよね…。あ、でも、インクが水に溶けちゃうかな?」
私たちが話し合っていたその時だった。トントン、と店の扉を叩く音がした。夜遅くに誰だろう?ルイが少し警戒しつつ、扉を開けた。…そこにいたのは。
「…え、店主さん!?こんな時間にどうしたんですか?」
「さっき君がもってった通草紙だが、その下に色付きの紙があったから持って来た。貰ってくれ」
「悪いです…。さっきも使い切れないくらいたくさんの紙を貰ったのに…」
しかし、店主さんは私の手に色付きの通草紙を押し付けて言った。
「どうせ私は作っても使わないからな。この際、全部渡すことにした。…ではな。作り終わったらわしにも見せてくれると、…その、…嬉しい」
さっき会った時も思ったけど、店主さんってルイに何か似てるよね。…ちょっと素直じゃないところが。
「それじゃあ…、ありがたく頂きます。店主さん、ありがとうございます」
「……ありがとうございます」
ルイも店主さんにお礼を言ったが、店主さんはそっぽを向いて言った。
「…別に、君の為に持って来たわけではない。結花のためだ。誤解するなよ?」
「分かってますって。…一応、俺もこの紙を使う予定なんだけど」
店主さんはルイの言葉を無視して、帰ってしまった。暗いのに大丈夫かな?
「…やっぱり、あの人は結花限定で優しいな」
「そう?でも、カラフルになったし、まあいいんじゃない?たくさん花が作れそう!…あ、ルイ、さっきの花の作り方、教えて。…上手く作れるか分からないけど」
「まあ、これだけ紙があるんだし、少しくらい失敗しても大丈夫だろ」
私はルイに作り方を教えてもらってとりあえず一人で作ってみた。……、けど、何か変。何かおかしい。花びらが片方に偏ってる。…適当に作りすぎた?大失敗した気がする。…何で?私がテーブルの上に作った花を投げだすと、ルイがそれを取ってじっと見た。え、ちょっと待って!
「それ、見ちゃダメ!超絶失敗作だから!絶対ダメだよ!?」
私は手を伸ばして花の紙を取り戻そうとしたが、見事に躱される。しかも、花を持っている方の手を上に挙げられたので、手が届かない…。悔しい…。
「結花にしては珍しいな。すごく適当…。中心がものすごくずれてる」
「ルイ、うるさい。ルイのばか。何で私より手先が器用なの…」
「…俺に八つ当たりするな。ってか、最後の『手先が器用』は八つ当たりにもなってないぞ」
「…正論言わないでよ。八つ当たりしたのに、八つ当たりできなかった気分…」
更に悔しくなったので、作り直すことにした。…のだが、やっぱり上手くいかない。
「何で上手くできないのー!?」
隣で同じように花を作っているルイを見てみると、ルイは既に5個くらい、いや、5個以上作り終えていた。しかも、色んな種類があるし…。早すぎる。
「まあ、慣れれば簡単にできる…はず。結花はそうなるか分からんけど」
「なる。絶対なるから!覚悟しといてね!」
「覚悟って何の覚悟だよ…?ってか、そこまで闘争心に火をつけることないだろ…」
「それ、言わないでほしいんだけど?私が喧嘩売ってるみたいじゃん…!」
「言っちゃったもんはどうしようもないし、実際、喧嘩売られた感じがするけど?」
何で、ルイってこんな冷静なわけ?一人で熱くなってる人みたいなんだけど。…まあ、実際そうなんだけど。でも、一度言ったからには引けないよね。私はそう思って三度目の花を作り始めた。今度こそ上手くいく…はず。しかし、作り始めてすぐにルイのダメ出しが入る。
「そこでちゃんと半分に折らないから中心がずれるんだよ…。たぶん、ずれた原因それ」
うぐ…。確かに半分に折ってなかったかも。私は超丁寧に半分に折ってから次の工程に入った。すると、今度はちゃんと綺麗に中心がそろった。すごい。
「ルイ、今度は成功したよ!三度目の正直、みたいな感じ?」
「は?お前な、俺がさっき半分に折ること言ってなかったらまた同じ失敗してたからな…」
またまた正論。何も言い返せません。
「でも、ルイってすごいね!ささっと花作りできちゃうし、料理もできるし…」
「俺にそれらを教えたのは母さんだ。俺じゃなくて、母さんの方がすごいと思う」
「確かにそうだけど…、ルイだってすごいよ。今だって私が折ってるのを見て、すぐにどこがいけないか分かってたし…。それもすごいことだと思うよ。ルイ、かっこいい」
私がそう言うと、なぜかルイは固まった。あれ、私、何か変なこと言ったかな?褒め言葉を言ったはずなんだけど…?
「おま、ちょ…、不意打ちすぎる…。思わぬところから攻撃された気分…」
「え?私、何もしてないよ?…あ、もしかして、どこかから攻撃された!?でも、怪我してないよ?」
周囲をきょろきょろと見る私にルイはため息をついた。え、本当にどうしたの?やっぱり怪我してた?傷はどこにもなさそうだけど…。
「はあ…。何でお前、そんな無自覚なんだよ…?」
「え、無自覚???何が?どういうこと?何のこと?」
「…何でもない。……そろそろ、瓶に花を入れるか。たくさんできたし」
え、すごく気になるんだけど…。でも、ルイはさっさとどこからか少し小さめの透明なボトルを持って来た。可愛いサイズ。
「…って、ちょっと待って。この中に全部入らなくない!?」
「…だな。余ったのでもう一つぐらい作ってもいいかもな。…文房具屋の店主に渡すための」
「そうだね。片方、私が作ってもいい?」
「ああ。その方が早く終わる。…時間遅いけど大丈夫か?」
そう言われて時計を見てみると、確かに普段なら既に寝ている時間になっていた。でも、ここまで作ったなら今日中に完成させたいな。
「大丈夫だよ。ルイこそ眠くないの?」
「別に。俺は普段、結花が小屋に行った後もここで色々やってるからな」
え、そうなの?すごい。というか、よくそれで6時に起きられるよね…。そう思いつつ、私たちはボトルの中に花を入れた。ボトルの口が狭いから、入れるのが意外と大変。もしまた作る機会があったらめちゃめちゃ小さく花を作ろうかな…?なんて考えてしまった。
「そういえばサーニャ様って次はいついらっしゃるのかな?ルイ知ってる?」
「ああ。買い物の時、アケビのところで聞いてきた。どうやら明日いらっしゃるらしい」
「明日!?早くない?でも、タイミングいいね。やっぱり今日中に仕上げておかないと」
「だな。アケビによると、サーニャ様もそろそろネネ様にこれをお渡ししたいそうだ」
そうなんだ。…っていうか、アケビさんで思い出した。そういえば今日、アケビさんに買って頂いた服、着てなかったな…、と。午前中、アケビさんが来てたのに…。明日はちゃんと着よう。
「明日もアケビさん、ここに来るかな?」
「来るんじゃないか?アケビはほぼ毎日ここにさぼりに来てるから。よくあんなんで店が成り立ってるよな…。仕組みが気になる」
「お弟子さんが全部やってるのかな…。その人、毎日大変だろうね…」
「だな。たまに街で会うけど、その度に愚痴を聞かされる。でも、愚痴を言いつつも辞めないってことは、あそこがそいつにとって一番いいところなんじゃないか?それに、アケビのことをなんだかんだ慕ってるし」
そうなんだ。やっぱりいつか会ってみたいな…。
「あれ、でも、1日目に私が行った時はお弟子さん、いなかったよね?」
「珍しく、休暇でも取ってたんじゃないか?その日はアケビもここに来なかったし。…よし、できた」
いつの間にか、ルイは綺麗すぎるボトルを完成させていた。商品じゃなくて、もはや作品の域に達している気がする。元の世界の小学校で、毎年夏休みの宿題に出ていた「自由工作」で提出したら絶賛されそう…。
「私も一応できたよ。でも、ルイの方をサーニャ様に渡す方にした方がいいよね。ルイの方が綺麗だもん」
私の作ったのは何だかちょっと、可愛すぎる気がする。でも、これを店主さんにあげるのも何か…。
「私がこれをあげたら、店主さん、喜ぶかなあ…」
「結花の作った物なら何でも喜ぶだろ。…さっきの失敗作の花でも」
「ルイ、何でわざわざ蒸し返すかな…」
やっぱりルイは今日も最後の最後まで意地悪だった。
「明日、サーニャ様が喜べばいいな」
「そうだね。それと、店主さんも」
読んで下さり、ありがとうございました。




