第十六話
「ただいま戻りましたー」
私がお店に戻ると、なんとフィオナちゃんが来ていた。…って、よくよく見ると、他にも子どもたちが?どういうこと?誰か説明、お願いします。すると、ルイが助けを求めてきた。
「結花、遅い…。早くこいつらの相手をしてくれ…。どうやらこいつら全員、栞を作りたいらしい。疲れたから後はお前に任せる」
いや、丸投げしすぎでしょ!?でも、これだけ子どもがいると、お世話は大変かもね。
「こんにちは、フィオナちゃん。この子たちはお友達なの?」
「うん。フィオナの手作り栞を見たら、作りたい、って言ってたから連れてきたの!」
おー。それは嬉しい。嬉しいんだけど…。
「…フィオナちゃん、お母さんやお父さんはどこ?子どもだけで来たの?」
フィオナちゃんがさっと目を逸らす。…やっぱり、子どもたちだけで来たみたい。
「…お母さんたちに行先は言ってあるの?」
………。反応なし。ダメじゃん、今頃ご家族が心配してそう。お家に連絡しないと。電話とかないかな?私は少し迷った末、一旦この子たちをお家に向かわせることにした。
「えーと。フィオナちゃんたち。今日は残念ながら栞作りは出来ないんだ。材料が揃ってないし、みんなも行先伝えてないし…。だから、また明日来てくれる?」
材料がないのは事実だ。私がそう言うと、フィオナちゃんたちは大人しく帰って行った。良かった。私がホッと息をつくと、ルイが
「何でお前の言うことは聞くのに俺の言うことは聞かないんだよ…!?」
「え、もしかして私が戻ってくるまで説得してたの?一人で?」
「ああ…。それなのに、全くあいつら言うこと聞かなくて…。助かった。ところで、手に持ってる袋は何なんだ?」
「ん?あー、これ?」
私は手に持ったままの袋を見た。さっき、アケビさんに買って頂いた服が入っている。
「これね、アケビさんが買ってくれたの。店で着たら良いんじゃないかって…」
「へー。良かったな。大事にしろよ?」
分かってます。私はとりあえず袋を小屋に置くことにした。お店が終わった後で、ちゃんと試着したい、と思いつつ。
私がお店に戻ると、ルイは一人で何かを描いていた。何だろう?後ろから覗き込んでみる。ルイはどうやらサーニャ様の言っていた花を頑張って具体的に描いているみたい。しかも、すごく上手い。
「ルイ、絵が上手なんだね。すごくリアル…」
すると、ルイは驚いたらしくペンを変なところに走らせた。…すみません。
「お前、幽霊かよ!?気配消しすぎだ…。びっくりした…」
「ごめん、何描いてるか気になったんだけど、普通に見ようとしたら見せてくれないかなって思って」
「別に。隠す必要があるものじゃないだろ。結花にも関係あるんだし」
確かに。私は堂々とルイの絵を見ることにした。細かいところまでちゃんと描かれている。
「すごい…。これ、水の中の花のイメージ?」
「ああ。こういうのが作れたら良いだろなって思って。ただ、問題は材料。どういう紙なら水に濡れてもふやけないかが分からない…」
ルイもしっかり考えてくれていたんだ。何だか心強い。
「うーん…、紙の専門店みたいなのないかな…?あったら便利なんだけどね…」
「近くの文房具店なら分かるかもしれない。けど……」
そこでルイが口ごもった。何か問題点でもあるのかな?とりあえず、続きを促した。
「………その店の店主、異国人が嫌いなんだ。何回か行ったことがあるけど、いつも邪険にされる」
「なら、私が行ってこようか?それなら大丈夫だよね?私は異国人じゃないし…」
「…。確かに異国人じゃなくて異世界人だけど、それ、屁理屈ってやつだろ。ってか、大体お前、数字分かんないだろ!?ダメじゃん」
そういえばそうだね。それは何とかしないと。ルイにもう一回数字を教えてもらうことにする。…というか、自分で言っておいてなんだけど、異世界人って許容範囲内??
「ルイ、お願い、もう一回私にシェーロン語の数字、教えてほしい。今度は絶対、絶対習得するから!そしたらたぶん、買えるよね?紙を買ったらサーニャ様に依頼されたもの、作れるよね?」
私が真剣な表情でルイを見ると、ルイは驚いたようだった。
「数字、諦めたのかと思ってた…。…、分かった。もう一回教えてやる。ただし、今度こそちゃんと覚えろよ。いいな?…でも、水に丈夫な紙が本当にあるかが疑問だな。もしかしたらその異世界人が異世界から持って来ただけかもしれないし」
「そっかぁ…。そうだね。でも、聞いてみないとどうにもならないし。ということで、ルイ先生、改めてよろしくお願いします!」
「…その呼び方やめろ。あと、数字の勉強は店が終わってから。今は営業に集中しとけ。いいな?」
ルイがそう言い終わった瞬間、お店に人がやって来た。タイミングが良すぎる。ルイも少し驚いたみたいで目を丸くしたが、すぐに接客用の顔になってその人に挨拶した。
「いらっしゃいませ」
「結花、お疲れ。今日は結花の仕事が多かったな」
「うぅー…。疲れた…。何でポプリが今日に限ってめちゃめちゃ売れたわけ…!?」
なぜか今日はお客さんが多かった。しかも、女性が多いという事態が発生し、そのせいか、私の作ったポプリが飛ぶように売れたのだ。そのことは嬉しい。嬉しいんだけど…、手作りだから新しく作るの、意外と面倒なんだよ…。しかも、一気に大量に作らないといけなかったから更に面倒だった…。
「疲れてるところ悪いけど、早速、数字の勉強しよう」
「え、今から?!買い物行かなくていいの?」
いつもはお店が終わったらすぐに買い物に行ってるんだけど…。私に教えてたら遅くならないかな?
「いい。一通り教えてから実践した方がいいかと思ったんだ。別に先に買い物でもいいが」
「ううん。教えるの先でお願いします。その方が何か良さそう」
「じゃあ、始めるか」
ルイはそう言って真っ白な紙にシェーロン語で数字を書いていった。やっぱりにょろにょろ。そして、相変わらず、どれも同じように見える。とりあえず、書くのは一旦置いといて、読むのと聞き取るのができるようになることを目標にすることにした。…頑張ろう。
一時間後。ルイの説明が終わった。聞き取りはほぼ完璧にできるようになった。ただ、相変わらず、読むことがなかなかできない。線の長さとかで思いっきり違う数字になってしまうものが多いから、そこら辺があやふやだ。
「とりあえず、実践してみるか。早くしないと店も閉まるし。行くぞ。その数字の書いてある紙、持ってっていいから」
「はーい。頑張って数字読むね!この紙があればたぶんいけるけど…」
「当たり前だろ。数字が書いてある紙なんだから。目標は八割読めるようになる、かな」
ハードル高い!今まで私、一度も正解したことないよ!?大丈夫かな…。
そう思っている間にお店に着いてしまった。最初のお店は八百屋さん。いつもの店主さんが店番している。私たちを見て、彼はひらひらと手を振った。私は普段、このお店では好きな野菜を眺めているけど、今日は違う。ちゃんと値札を読めるようにしないと。ルイはまず、私の目の前にある玉ねぎの籠についている値札を指さした。…うわ、いきなり難問。確かこの数字、真ん中の傍線の長さによって数字が変わるんだよね!?
「……。えーと……。2…、3…、5!」
「違う。正解は130。でも、1個は当たったな。良かったじゃん」
「でも、まだ1個だよ…?」
「一発で何でもかんでもできる奴なんてどこにもいないだろ。いたらそいつはたぶん神だな。それか、こっそり練習してたか。そのどっちかだ」
どうやら(分かりにくく)励ましてくれたらしい。何か、今だけかもしれないけど、ルイが優しい。
「じゃあ、次行くか。次は…、これ」
そんな私たちを店主さんはにこにこと見守るようなまなざしで見ていた。
店に戻った私は椅子に座り込んだ。1時間ぐらい、ずっとあちこちのお店で値札に書いてある数字を読む練習をしながら買い物していた。おかげで頭も足も疲れた…。でも、嬉しかったのは少しずつ正答率が上がっていったこと。ずっとこの調子が続けば何とかなるかもしれない。寝る前にもう一回復習しておこうかな?
「結花、疲れたのは分かるけど、食材運び手伝ってくれないか?」
その言葉にはっとする。そうだよね、ルイだって数字が読めない私のせいで疲れているはずだ。私は立ち上がって、ルイの食材運びを手伝うことにした。
「でも、数字読むの、結構上達したんじゃないか?最後の方は全部言い当てた値札もあったし…。やればできるじゃん」
ルイがそう言って自分のことのように嬉しそうに笑った。なぜかその笑顔を見てどきっとする。
「…あ、ありがとう。ルイが教えてくれたからだよ、きっと。付き合わせちゃってごめんね」
「別に。買い物ついでだし…。それに、俺が教えたのは知識だけ。それをどう活用させたかは結花だ」
そう言うと、ささっとその場から離れていってしまった。…、もしかして、ルイ、照れてた?ちょっと耳が赤かった気がする。気のせいかもしれないけど。でも、もし照れてたならちょっと可愛いな、と思って、つい笑みを浮かべてしまった。
夕食の後のこと。私は小屋に戻った。そして、椅子の上に置きっぱなしにしていた服の存在を思い出した。これ、着てみようかな…?ついつい気になってしまい、着てみることにした。
「うわ…、何かふわふわ…。でも、街を歩いてる私と同じくらいの女の子、こんな感じの服だったかも?だったらそこまで目立たないかな…」
元の世界では、普段、園芸の邪魔にならないようにそこまで女の子っぽくない服を着ていたので、何だか慣れない。アケビさんは私に似合いそう、と言ってくれたけど、どうなんだろう?お店で着てもいいのかな?ちょっと派手すぎる…?基準が分からないので、この服のままルイのところに行くことにした。建物に入り、ルイの後ろから声をかけた。
「ねーねー、ルイ。ちょっと今大丈夫?すぐ終わるから」
「何だ?数字に関する………」
そこで振り向いたルイはなぜか、言葉を不自然に止めた。いや、ちゃんと全部話しちゃって大丈夫だよ?
「やっぱり変かな?これ、今日アケビさんに買って頂いた服なんだけど、可愛すぎるかな…。アケビさんはお店の時に着たら?って言ってたんだけど…」
しかし、なぜかルイは黙ったままだ。どうしたんだろう?言葉にできないほど似合ってないのかな?私が少し不安な表情を浮かべていると、ルイはようやく我に返って
「…い、いいと思う。ただ、裾のふわふわが植物に引っかからないように気をつけろよ」
と言ってくれた。本当かな…?でも、ルイはダメだったらあっさりダメって言いそうだし。まあいっか。
「ありがとう。じゃあ、明日からこれ着るね!そしたらルイのお母さんの洋服、汚さずに済みそう。やっぱりアケビさんに何かお礼した方がいいかな…」
「そ、そうだな。何かアケビさんが喜びそうなもの…。まあ、そこは結花に任せる。それを貰ったのはお前だからな」
「そうだね。あ、何してたのか分からないけど、邪魔しちゃってごめんね。それじゃ、おやすみなさい」
「…あ、ああ。おやすみ」
私は再び小屋に戻り、アケビさんに買って頂いた服を丁寧にしまってから花記録をすることにした。実は、昨日ユリって書いたんだけど、ユリはユリで色々な種類がありすぎて書ききれなかったのだ。私はユリの部分に新しく他のユリも描き加え、数字の復習をしてから寝ることにした。窓のカーテンの隙間から綺麗な星が見えた。明日もよく晴れそう…。
ルイはその夜、秋にどの花を販売するか考えていた。たまには少し珍しい物もありか、と思いつつ候補の花を書き連ねる。ずっと書きまくっていたので疲れてしまい、一旦、ペンを置いた。ふとハーブティーが入った器が目に留まる。そして、何となく結花のことを考えてしまった。
さっき、結花がアケビに貰ったという服を着てルイの前に姿を見せた。その服は、結花にとても似合っていて、可愛いと思った。女の子にそういう風に思ったのは初めてで自分でも戸惑っている。しかし、ルイがあまりにも反応せずにいたせいか、結花が後悔するような表情になってきたのでその服が似合っていることを伝えたかったが、上手く言葉にならなかった。しかし、明日からあの服を着る、ということは自分は一日中戸惑うことになるのだろうか?それともその内慣れるのだろうか?分からない。だんだんどうすれば良いか分からなくなってきたルイは、花のことを考えることにして、再び紙に花の名前を書き始めた。
読んで下さり、ありがとうございました。




