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私の異世界花記録  作者: 立花柚月
六章 異世界花屋とメッセージ
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第百九話

私がその部屋に入った直後、正午を告げる鐘が鳴った。どこから聞こえるのか分からないけど、けっこう大きい音。でも、決して強い音ではなく、城下町へと優しく響き渡っている。間に合った…、ってことだよね?私はともかく、ちゃんと鉢がここにあるし、花も咲いている。何とか間に合って良かった…!けど、非常に疲れた…。こんなにひやひやすることってなかなかないと思う。すると、驚いている状態から元に戻ったらしいルイが私に質問してきた。

「結花、お前、何でここに…。ってか、その花何で咲いてるんだよ?二日前は…」

ものすごく戸惑っているみたい。けど、一から説明するとすごく長くなりそうなんだよね…。この三日間で色々とあったから…。ここで話すには時間が足りないと思う。よし、後でちゃんと説明することにしよう。今はとりあえず、この花が何なのか、そして千智さんが伝えたかったことについて説明しないと。きっとこれは、ルイに取ってもロディル卿にとっても大事なことだから。なので、「その話は後で」と言って、私は二人をしっかりと見た。そしてカスミソウの花について説明を始めた。

「最初に、この花について説明しますね。この花はカスミソウという花で、よく花束とかにさりげなく添えられている花です。基本、この花が咲くのは春や初夏。今は冬ですけど、たぶんこれは、この花に対して特殊な技術を使ったため、この時期に咲いたんだと思います。…ロディル卿、この花で間違いないですか?」

「…正にこれだ。だが、今さらその花について知ったところでどうにもならん」

そう言ってロディル卿はさっさと部屋を出て行こうとする。…確かに、知ったところで千智さんが戻ってくるわけではない。何かが変わるかどうか、と言われたら何とも言えない。けど、もしここで伝えなかったら、きっとロディル卿が千智さんの願いを知ることはない。私はロディル卿を引き留めるために言った。

「この花は、二人の幸福を願う、千智さんからのメッセージなんです!!」

すると、ロディル卿は驚いたように動きを止めた。そして、不思議そうに私を見る。ルイも私のその言葉を聞いて怪訝そうな表情をしていた。…けど、良かった、立ち止まってくれた。私はそのことにほっとして言葉を続けた。

「…前に千智さんのいた場所には、花言葉というものがあります。花の種類によって様々な意味が込められていて、例えば薔薇の花言葉は愛なんです。そして、カスミソウにも花言葉が複数あります。その言葉は、清らかな心、親切、…そして、幸福。これ以外にも色々と意味があります」

「…それで、その花言葉とやらが何なんだ。それがメッセージだと言うのか?」

ロディル卿は半信半疑というような表情をしている。たぶん、花言葉がこの世界には馴染みがないからだと思う。でも、少なくとも元の世界では花言葉って定着しているところがあると思う。母の日とか、カーネーションを贈る人って多いし…。私はそんなことを考えつつ、言った。

「はい。千智さんはきっと、カスミソウの花言葉が『幸福』だと知っていたと思います。…そうじゃなかったら、わざわざこの花を二人に贈らなかったのではないでしょうか?」

カスミソウの花は、小さくて可愛いので私はけっこう気に入っている。それに、どんな花にも合うから。けど、もし人に花を贈るとなったら、もっと華やかな花を贈る人の方が多いはずだ。例えば、薔薇とかチューリップとか…。カスミソウよりも大きくてカラフルな花は、他にもたくさんある。でも、千智さんはそこをあえて「カスミソウ」という、見たことはあっても名前までは知らない人が多そうなこの花を選んだ。それに、ルイとロディル卿の二人にこの花の種を渡した、というのも鍵だと思う。特に何も考えずに花を渡すだけだったなら、どちらか片方に渡すだけでも良かった。もしくは、二人にそれぞれ別の花でも良かったはずだ。でも、千智さんは二人に同じ花を贈っていた。これらのことから、恐らく千智さんは「この花に何か大切な意味があるから」二人にカスミソウの種を贈ったのだと考えられる。そしてこの場合、「大切な意味」は、カスミソウの花言葉の「幸福」。

「千智さんは、二人が幸せに日々を送れるよう、願っていたんだと思います。そして、このカスミソウはその証なのではないでしょうか…?…離れていても、会えなくてもそう願っている、と…」

それが、この花を選んだ理由。そうじゃなければ、この世界特有の特別な技術を使ってまで、短期間で咲く花を作ろうとまで思わないはず。きっと、千智さんにとってルイとロディル卿は大切な存在だったんじゃないかな…?そうじゃなければ、二人の幸せを願わないはずだ。私がそのことを伝えると、ルイは少しうつむいた。ロディル卿もどこか複雑な表情で何も言わず、ただじっとカスミソウを見ていた。…何だか、いいな。もう二度と会えなくても、こうやって千智さんの思いが残っているのって、とても素敵なことだと思う。そのことが、何だかうらやましかった。すると、ロディル卿がぽつりと、でも、少し震える声でつぶやいた。

「そのような…、そのようなこと、本当かどうか分からないではないか…」

「そうですね。ここにいない人の言葉を聞くことはできませんから、今私が言ったことが百パーセント本当かどうかは分かりません。…でも、ルイから千智さんのお話を聞いて思ったんです。千智さんは家族思いの優しい方だったんだろうなって…。違いますか?」

私のその質問にロディル卿は違わない、と言うように首を振った。そして、そのまましばらくうつむいていた。部屋が静寂に包まれる。私は何も言わないことにした。そっとしておいた方がいいような気がしたから。しかし、しばらくするとロディル卿の従者らしき人がその部屋に入ってきた。少し慌てているみたい。従者さんは一礼してからロディル卿に言った。

「お話し中失礼いたします。…旦那様、そろそろお時間でございます。お戻りください」

ロディル卿はその言葉にうなずいた。いつもと同じような感じで振る舞っているけど、どこか懐かしそうで、寂しそうな表情をしていた。しかし、不意に私に尋ねてきた。

「…その花、…確か、カスミソウ?それをもらってもいいか?ヴェリエ国で…育てたい」

私はちょっとびっくりして一瞬何も言えなかった。まさか、もらってくれるとは思っていなくて。でも、元々はロディル卿が千智さんからもらったものだし。それに、一応お店にはもう一つ、ルイが持っていた方のがあるし、いいよね。なので、私はうなずいた。ロディル卿は少し笑うと、従者さんに命じた。

「ありがとう。……この花、先に馬車の方へ運んでおけ。運ぶ時に落とさないように気をつけろ。それと、誰かに盗まれないよう、しっかりと見張っていろ。…いいな」

その言葉に従者さんはうなずくと、カスミソウの鉢を持った。そして、すごく慎重に運んで行く。…壊れ物じゃないんだし、別にそこまで気を遣わなくても大丈夫だと思うんだけど。でも、ロディル卿がじーっと運んでいるのを見ている。そんなに心配なのかな…?一応、鉢を落としたとしても、土がこぼれるだけだから大丈夫なはずなんだけど。…まあいいか。それに、それくらいカスミソウを気に入ってくれた、ということだろうし。…ヴェリエ国でも、あのカスミソウが元気に育つといいな。…そして、ロディル卿もその部屋を立ち去ろうとしていた。しかし、扉の取っ手に手をかける前に立ち止まり、少し振り返って言った。

「…ルイ、賭けはお前の勝ちだ。まさか、こんな形で決着がつくとは…。それと、カスミソウを持って来たお前の彼女、お前にはもったいないくらいだな」

彼女…っ!?何を言ってるんですかロディル卿?!何でそうなった?それと、どこからその考えが来た?というか、そんなこと言われたらルイが迷惑な気が…!というか、絶対に否定されるよね!?と私は思ってルイの方をちらっと見たのだが、何故かルイは固まっていた。正に、硬直状態。そんなルイを見てロディル卿は面白そうに笑った。そのことによって我に返ったルイは早口で言った。

「は!?何でその解釈なんだよ!?…ってか、そもそもあんたに関係ないだろ。さっき従者が呼びに来たんだし、さっさとパーティーだか何だか知らないけど、とりあえずどこかに行けよ…」

そう言ってルイはさっさとロディル卿をこの部屋から追い出してしまった。何だか、ルイのロディル卿への扱いが雑なような気がするのは気のせい…?当のルイはロディル卿がいなくなったことで少し落ち着いたらしく、ゆっくりと部屋の扉を閉めた。急に二人になってしまった。お互い、何を言えばいいのか分からなくて部屋がしーんと静まり返っている。えーと、何か言うこと…。

「えっと…。何かごめんなさい」

「…?何が?特に謝られるようなことをされた覚えはないけど。何かあったか?」

「…え、だってさっき、ロディル卿が私のことをルイの彼女だって勘違いしてたから…。迷惑だったかと思って。…だから、そう思われないように何か工夫すれば良かったかな?って」

「別に。…ってか、嫌だったらさっさと否定してるし」

ルイがさらっと言ったその言葉に私は一瞬固まった。というか、どう反応すればいいのか分からなかった。でも、何か返事しないといけないよね、と思って私は曖昧にうなずいた。しかし、再び部屋が静かになってしまった。…というか何で?普段は普通に話せているのにこういう時に限って話せないって…。話題話題、何か話せるようなことを…。すると、ルイが言った。

「そういえば、結局どうやってここに来たんだ?それに、普通に花も咲いてたし。正直、結花が正午の鐘が鳴る直前に来た時、驚いた。まさか、もう一回会えると思ってなかったから。夢でも見てるのかと…」

あ、そういえば後で説明する、って言って言うのを忘れてたっけ。とりあえず、そのことについて説明しないと。それから、もう一つ。…自分の気持ちをちゃんと伝えなきゃ。

次回は結花とルイの会話の続きです。

読んで下さり、ありがとうございました。

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