第百八話
今回、長めになっています!
そして、翌日。いよいよ、期限当日だ。何だか緊張する。私は髪飾りを手に取った。それは、手の上で光を反射し、一瞬煌めいた。私はぎゅっと髪飾りを握った後、いつもよりもしっかりと髪を結んだ。そして、植物置き場のカスミソウのところへ行った。何だか、見るたびに花の数が増えているような…?とりあえず私はカスミソウの鉢を持ってお店の方へ。…というか、この花、持ってくのが微妙に大変なんだけど。工夫して上手く持って行かないと。そう思って色々な持ち方を試していたら、ジェシカがやって来た。どうやら、抜け出すのに成功したみたい。
「おはよう、結花!ゼンのおかげで抜け出せたんだけど時間がないから早く行かないと」
そう言って早速ジェシカが転移魔法を使おうとしたその時だった。再び扉が開いた。ジェシカがぎょっとして慌てて魔法の花をしまう。誰だろう?と思ってそっちを見ると、そこにいたのはアケビさんとスイさんだった。アケビさんが不思議そうに尋ねてきた。
「あれ?何でジェシカちゃんがここに…??というか、王都に行くのは…」
「正にそのことで来たんです!わたしが結花を王都の辺りに送るので、大丈夫ですよ!」
ジェシカはそう答えた。アケビさんはまだ不思議そうな表情をしている。たぶん、どうやって王都まで行くのか、不思議に思っているんだと思う。けど、アケビさんは結局それに関して何も言わず、ただうなずいた。事情を言えないのが申し訳ない…。すると、スイさんが私の手をぎゅっと握って言った。
「結花さま、頑張ってくださいね!何もできないのが悔しいのですが、植物屋で応援しています。なので、王都から帰ってきたら絶対に植物屋に来てくださいね。待ってますから!」
「そうそう!わたしたちは一緒に行けないけど、応援してる。…だからね、結花ちゃん、帰ってきたら必ず二人で植物屋に来てね?わたしもルイに言いたいことがあるし。約束だよ!」
言いたいことがある、って言った時のアケビさんが微妙に怖いような気がしたけど、たぶん気のせいだと思う。けど、もし気のせいじゃなかったらルイがアケビさんに怒らそう…。でも、それもルイが戻って来なければ叶わないことだ。私は大きくうなずいた。アケビさんはそんな私に優しく笑うと、「頑張って」と言ってスイさんと一緒に植物屋さんに戻って行った。私とジェシカはそれを見送った。
「…それじゃあ、気を取り直していきますか!じゃあ、行くよ」
その瞬間、音が聞こえなくなり、目の前が真っ白になった。私は一瞬目を閉じた。しかし、すぐに音が戻ってきたので、目を開ける。そこには、まっすぐに舗装された道が続いていた。見たことがない場所だったので、きょろきょろしていると、ジェシカが私より少し離れた場所で誰かと話しているのが見えた。…その人物は私も知っている人物だ。私は慌ててジェシカとその人の近くに行った。すると、その人物…サーニャ様は私に気付いて少し驚いたような表情をしたが、やがて微笑んだ。そして、不思議そうにおっしゃった。
「お久しぶりね、結花さん。ジェシカさんが、あなたがわたくしに用事があると言っているのだけど、どうかなさったの?魔法の力を使ってきた、ということは重要な用事よね?」
「はい…!実は、サーニャ様にお願いしたいことがありまして…!お話だけでも聞いて頂けませんか?」
そう尋ねてから、そんな時間あるのかな、と心配になったけど、サーニャ様はあっさりとうなずいて彼女の部屋へと案内してくれた。すると、ジェシカが空を見てむっとしたような表情をした。そして言う。
「ごめん、結花。本当はもうちょっといたかったんだけど、残念ながらタイムリミットが近付いてるみたいで…。ゼンからそういう連絡が来ちゃったからもう行くね!それじゃあ、結花、今度会う時はルイも一緒のことを願ってる!またね!」
そう言って慌ただしく行ってしまった。私は、カスミソウの鉢と共にサーニャ様に付いていった。付いていったその先はサーニャ様のお部屋だった。中にはメイドさんらしき人たちがいたが、サーニャ様が彼女たちをさがらせて下さった。私は、花を王宮に持って行かないといけないことやその理由、期限があることなどを説明した後でサーニャ様に頭を下げた。
「図々しいのは分かってます。けど、これしか今日の正午に間に合う方法を思いつかなくて…!」
「なるほど…。それなら、大丈夫よ。やむを得ない事情ですし、あなたは信頼できる方だから。それと、ネネの件についてお礼もできていなかったので…」
全くためらいのないその言葉に私は思わず顔をあげた。一瞬、サーニャ様のおっしゃっていたことが信じられなかった。そんな私にサーニャ様は優しく微笑んだ。そして、ついでに、言った風に尋ねられた。
「もしもわたくしがあなたのお願いを拒否したらどうするつもりだったのかしら?」
「そうですね…。恐らく、その時はこの建物の中にいる人に王都への道を聞いていたと思います。それで、何とか自力で王宮まで行こうとしていたと思います」
すると、それを聞いたサーニャ様は彼女にしては珍しく、面白そうに笑った。
「ごめんなさい、回答が面白くて。けれど、その方法だと王宮に入れなかったんじゃないかしら。一応、王宮だから、そういう警備は厳重なんですよ」
そう言うとサーニャ様は私に外に控えているメイドさんたちを呼ぶようにおっしゃられた。どうやら、早速王宮へ行く準備をして下さるそうだ。廊下で待機している間に、他のメイドさんとお話しする。ここから王宮までは、およそ二時間半。今の時刻は、九時。今から行けば余裕で間に合うだろう、ということだった。何だか急かしてしまっているようで申し訳ない…。けど、そのメイドさん曰く、サーニャ様は基本的にしっかりしているけど、のんびりなところもあるらしく、ちょうど良いそうだ。しばらくそこでメイドさんとお話ししていると、サーニャ様がやって来た。落ち着いた雰囲気のドレス姿だ。普段からどこか人を圧倒させるような雰囲気だったのが、更に強まってる。けど、怖いとかそういう感じは全くない。それがちょっと不思議だった。サーニャ様はいつもの感じで言った。
「お待たせしました。それでは、早速行きましょうか?早く行って損することはないはずよ」
私はうなずいて、床に置いてた鉢を持った。…いよいよだ。時間的には間に合うはずだけど、何だか不安…。今から、ルイに会ったら何て言おう、なんて考えてしまっている。とりあえず、流れに任せるべき…?何故だか、ルイとどうやって話をしていたのか分からなくなってしまった。けど、早く会いたいな、とも思っている。私は一瞬、髪飾りに触れた後でサーニャ様やメイドさんたちについていった。
馬車の中で私とサーニャ様は色々と話をしていた。元の世界について、とかお花について、とか…。とにかく色々。すると、窓の外を見ていたサーニャ様が言った。
「結花さん、あそこに見えるのが王宮ですよ。わたくしも王宮に行くのは久しぶりなのだけど…」
その言葉に私はそっちの方を見た。それを見て私はちょっと感動した。そこにあったのは、雪みたいに真っ白なお城。日の光を反射しているせいか、眩しい。元の世界だったらヨーロッパとかにありそうな外見だ。現在、時刻は十時半ごろ。あと一時間くらいで着くはずだ。私はカスミソウを見た。たまに馬車が大きく揺れることがあるから、倒れないように気をつけないと。植物が心配なのはもちろんだけど、床に土がこぼれてしまったら大変なことになってしまうので。しばらくすると、市街地に出た。たくさんの人がいる。細い道がたくさんあるから、一人で来てたら迷子になってただろうな…。そんなことを考えているとサーニャ様がつぶやいた。
「この感じだと、かなりぎりぎりになりそうだわ…。確か今日は市街地の方でも、王宮のパーティーに合わせてお祭りをするはず…。そうなると、かなり馬車の進みがゆっくりになってしまう気がするわ」
そして、そのサーニャ様の予想は的中することになる。王宮が近付くにつれ、人が増えたからだ。そのため、馬車がなかなか通行できない。そのせいで、到着予定の時間を過ぎてしまっている。大丈夫かな…。けど、ゆっくりゆっくり馬車は進み、期限まで残り十五分くらいになってようやく王宮にたどり着いた。馬車の扉が開き、先にサーニャ様が外に出られた。その後で私も、鉢をちゃんと持ってから外に出た。…早く行かないと。場所が分からないから、探さなければならない。そんなことを考えていた私はサーニャ様の言葉ではっとした。
「ネネ、久しぶりね。元気にしていた?」
「はい、とても元気です!ですが、一つよろしいですか?何故、結花がここにいるんです!?結花がここにいる理由自体は分かりますよ。けど、何でお母様と一緒なんですか?!」
「それについては後で説明する。それよりもネネ、私がここにいる理由が分かる、って言ったよね?もしかして、ルイがどこにいるか分かる?私、正午までにそこに行かないといけないんだけど…!」
ネネは私の勢いに少し戸惑ったようだったが、うなずいた。
「うん、今日の朝、見かけたんだ。話したわけじゃなかったから自信がなかったんだけど、やっぱりルイだったんだね。それと、案内するのはいいけどお母様が…」
「そのことなら気にしないで頂戴。そろそろ、夫が来るはずだから。後でゆっくりお話ししましょう。最近、お互いに忙しくてお話ししていなかったし」
サーニャ様がさらっとそう言った。え、本当にいいんですか!?久しぶりなら、ネネとゆっくり過ごした方がいいのでは…、と思ったけど、ネネがサーニャ様の言葉を聞いて
「そういうことなら行ってきますね!結花、行こう!正午まで、あと五分くらいしかない。走らないと間に合わないよ!!」
王宮の中って走っていいの!?けど、ネネは既に走り出している。私はサーニャ様にお礼を言った。
「サーニャ様、本当にありがとうございました!」
「どういたしまして。さあ、早くお行きなさい。時間があと少ししかないわ」
私は一礼して、ネネの後を追いかけた。ネネの方がドレス姿なので、走っていると言ってもゆっくりめだ。そのおかげで追いつくことができた。走りながら、話しかける。
「ネネ、その部屋って一体どこにあるの?遠い?」
「そこそこ、かな。でも、絶対に間に合わせるから!何があったのかよく知らないけど、重要なんでしょ?」
しばらく走ったところでネネが疲れたらしく、しゃがみこんだ。そして、切れ切れに言った。
「…、ごめん、あたし、もう限界……。ここの廊下の、一番、向こうの部屋が、目的の、部屋…。あと、ちょっとで、時間だから急いで……!」
「分かった…!ネネ、ありがとう!」
私は急いでネネの言っていた部屋へと向かった。ここまでずっと走っていたせいで、息が切れている。けど、ここで止まってしまったら正午に間に合わなさそうで…。そして、ようやくその部屋にたどり着いた。私は一気にその扉を開けた。扉の向かいにある窓から、眩しい光が差し込んできた。一瞬目がくらむ。でも、ちゃんと私の目には、その部屋にいる人物が見えていた。
「持ってきました…!」
とりあえず、それだけ言った。それ以外、何も言えなかった。でも、それだけでもちゃんと通じたらしく、その部屋にいる二人の人物は驚いたような表情になる。そして、その瞬間。王都に正午の鐘が鳴り響いた。
読んで下さり、ありがとうございました。
明日は都合により、お休みします。本編完結まであともう少しお付き合いいただければ幸いです。




