第百七話
昨日の続きです。結花と魔法使いたちの会話です。
「…要するに、シェーロン国の王都で魔法関係の調査をした帰りに、ここに寄ったってこと?」
二人から話を聞き終わった後で私が短く要約すると、ジェシカは大きくうなずいた。大当たり、ってことみたい。ジェシカに会うのは久しぶりだけど、相変わらずの様子にちょっとほっとしている自分がいた。表情がくるくる変わるのがジェシカの特徴だと思う。実際、さっきまでは楽しそうな表情をしていたのに、今はゼンさんに文章のまとめ方が雑だ、と言われてちょっと不機嫌そうになっている。そんなことを考えながら、私が二人の仲の良い喧嘩を聞いていると、不意にジェシカが不思議そうに私を見た。そして、尋ねてくる。
「…って、そんなことはどうでもいいんだって。結局ルイはどうしたの?普段なら、私の声がうるさいって言って、すぐにやって来そうなのに、全然来ないよね。声すらしないし。何かあった?風邪とか…?」
ジェシカが不思議そうにそう言うと、ゼンさんがさりげなく、小さな声で一言。
「ジェシカ、自分がうるさいって自覚、あったんだ……」
すると、ジェシカはゼンさんのことを睨んで思いっきり叩こうとした。しかし、それは簡単に避けられてしまう。余裕そうなゼンさんを見てジェシカはすごく悔しそうだった。一方のゼンさんはジェシカのことを無視して私に話の続きを促した。そんなゼンさんにジェシカは再び攻撃しようとしていたけど、難なく止められてしまい、一旦攻撃は諦めていたのだった。私は二人の争い(?)にちょっと笑ってから、何があったのか、二人に話し始めた。
そして、全部話し終わった後。ジェシカとゼンさんはものすごくびっくりしていた。確かに、二人がいない間にすごく色々あったから…。そして、私たちはその後、どうやって王宮まで行くか話し合うことにした。いい案が出るかどうかは何とも言えないけど、考えてくれるだけでもありがたい。最初、瞬間移動ができないか、と言う質問をしたんだけど、結論から言うと無理だった。というのも、転移魔法はその魔法を使う人自身が行ったことがある場所にしか使えないらしい。二人は、シェーロン国の王都自体には行ったけれど、王宮に行ったわけではないので無理みたい。もし王都まで行ったとしても王宮までの道が分からないし、突然その場に人が現れたら周りの人が驚くだろう、という懸念がある。なので、ダメそうだということでこの案は没になってしまった。残念…。一番良さそうなの、これだったんだけど…。とすると、どうしよう?何だったら王都の近くまで行ってそこから頑張って自力で行こうかな?と考えていたその時だった。ゼンさんが何かを思い出したらしく、小さく「あ」とつぶやいた。ジェシカが不思議そうにゼンさんに聞く。
「ゼン?何かいい案でも思いついたの?というか、ゼンのことだし、絶対そうだよね!」
「…まあ、そんな感じ。って言っても、ものすごく苦肉の策だと思う。それでもいい?」
ゼンさんのその言葉に私とジェシカがうなずくと、ゼンさんはその「苦肉の策」を説明し始めた。
「ジェシカ、調査が終わった後、ここに来る前のこと、覚えてる?僕たち、王都にそこそこ近い町でサーニャ様にお会いして少し話してきたよね?」
「…え?あー…、うん、そういえばそうだったね。ネネに会うって言っててすごく嬉しそうだったよね!というか、それとこれに何の関係が………あ!!そっか!その手があった!何とかなるかも」
…話についていけないのですが。すると、ジェシカがゼンさんの話の続きを言った。
「その時、サーニャ様がいらっしゃったのはすごく高級そうな宿の前だったんだけどね、その時におっしゃってたんだ。今日はここに泊まって、明日の朝ここを出発して馬車で王宮に行くんです、って!ということはだよ、そこに乗せてもらえたら、普通に王宮に行けるってことだよ!それに、そこならわたしたちも行ったことがあるから転移できるし!さすがゼンだね!」
「…ただ、それを承知して下さるかは分からないけどね。それにジェシカ、この計画には更に大きな問題がある。…僕たち、これから魔法協会に帰らないといけないんだよ?」
ジェシカはそれを聞いてそのことに気付いたらしく、目を丸くした。そして、真剣な表情で考え始めた。…というか、それってけっこう大問題では?私のせいで二人が怒られちゃうのは申し訳なさすぎる。そう思った私がジェシカたちに他の方法を考える、と言おうとしたその時だった。ジェシカがにこっとものすごい明るい表情できっぱりと断言した。
「そんなの余裕でしょ!だって、朝早い時間にこっそり協会を抜け出せばいい話だもの!わたし、抜け出すのは得意だから絶対に大丈夫だよ!それに、ゼンもいるし。…ね、そうだよね、ゼン?」
ええ…!?本当にそれ、大丈夫なの?!ものすごく不安になるんですけど…。さすがのゼンさんも、絶対無理…、というような表情をしている。けど、ジェシカは自信満々だ。そんなジェシカにゼンさんが、ものすごく面倒そうな表情で言った。
「ねえ、それ、まさかとは思うけど、抜け出すのがばれた時の受け答えを僕に考えさせるつもりじゃないよね?この前、祭りに行く時もその理由を考えさせられたからそれだけは嫌なんだけど?」
「そ…っ、そんなわけないでしょ。わたしだってたまにはちゃんと考えるから!ね、だからいいでしょ!それに、結花たちにはまだ、ヘルの時のお礼をしてないし、ちょうどいいんじゃない?いいよね!」
ジェシカは微妙に慌てたようにそう言うと、ゼンさんが何も言ってないのに「それじゃ、決まりね!」と言って笑った。それを聞いたゼンさんはため息をついて、諦めたようにうなずいた。
「こうなったらジェシカが何を言っても言うことを聞かないのは知ってるし。でも、それなら僕は魔法協会の人たちをごまかす方に専念するから、ジェシカは一人で行ってね」
ゼンさんのその言葉にジェシカは大きくうなずいた。え、待って、本当にいいの!?もしばれちゃったら怒られるよね!?絶対そうだよね!!そんなリスクがあるのに本当に大丈夫なのかな…!?すると、ジェシカはそんな私の気持ちを読み取ったかのように言った。
「結花、一応言っておくけど、このことに関しては全然気にしなくていいからね!わたしがやりたいからやってるだけだから!それに、もし怒られたとしても、わたしは脱走常習犯だからねー。ここまで来たら全く気にならないから」
ジェシカはあっけらかんとそう言ったけど、逆にそれ、まずいのでは…?更に心配になったのでジェシカを止めようとしたら、ゼンさんが私に言った。
「こんな感じになると、全然他の人の言うことを聞かなくなるので、諦めた方がいいです。それにジェシカは、本当にやってはいけないことは絶対にやらないので。そこだけは僕も信用してますから」
「そうそう!そういうことだよー!だから、本当に気にしないで。…けど、ゼン、信用してくれてるのは嬉しいんだけど、それだけなの?他には何かないの?一つだけしかない、とか言わないよね!?」
「え、そうだな……。特にないような気がするんだけど…。…うん、やっぱり一つだけな気がする」
けっこうあっさり、ゼンさんはそう言った。それを聞いたジェシカは不服そうな表情。…かと思ったら、再びゼンさんを叩こうとした!けど、ゼンさんはさっきのように余裕で避ける。
「あーー、もう!!ゼンの馬鹿!!たまには褒めてくれたって良くない!?ゼンの馬鹿…」
ジェシカはそう言って急にいじけ始めた。どうやら、なかなかゼンさんに褒めてもらえないのが不服らしく…。確かに、好きな人に褒めてもらえるのって嬉しいよね。とか思った後ではっとする。何を考えてるんだろう、私…!?そんなことを考えている自分が恥ずかしい…!…というか、私のことはとりあえずどうでもいいんだってば!今は、ジェシカがいじけているのを元に戻す方が大事だよね。…って言ってもどうしようかな…?やっぱりここは、ゼンさんが何か言うのが一番だよね!そんな気持ちで私がゼンさんを見ると、どうやらちゃんと通じたらしく、うなずいてくれた。けど、何を言えばいいのか分からないらしく、考えている。しばらく考えた後、ゼンさんはようやく何を言うか決めたらしく、一回深呼吸してからジェシカに声をかけた。
「…えっと、ジェシカ?そのままいじけててもいいから聞いてくれる?上手く褒められるかどうかは分からないんだけど…、何て言うか、ジェシカはよく周りの人を巻き込んで突っ走っていく癖があるから僕もよくそれに巻き込まれてるけど…。でも、時々それに助けられてることもあるし、…そのままでもいいんじゃないかな?」
そう言ったゼンさんの表情はどこか優しい。…この表情、やっぱりもしかしなくてもゼンさんは…。一方、ジェシカはそっぽを向いていて、ゼンさんの表情を見ていない。しかも、ゼンさんの言葉に返答していないし…。かと思ったら、その数秒後、急に立ち上がった。突然のことに驚いていると、ジェシカが言った。
「…っ、と、とりあえずわたし、帰る!そういうことだから結花、明日はよろしくね!」
急にどうしたんだろう!?でも、ジェシカを見て私は気付いた。ジェシカの頬が赤くなっている。…照れてるみたい。しかし、そう言ってお店を飛び出そうとしていたジェシカをゼンさんが捕まえた。
「ジェシカ、一人で帰ろうとしないでくれる?どうせ、戻る場所は一緒なんだし。それと、急すぎる。少しは僕の言葉に反応してくれてもいいと思うんだけど?」
「…、そ、それは確かにそうだけど…!うー…。…ゼン、ありがとう。わ、わたし、先に外に出てる!」
そう言うとジェシカはまるでゼンさんから逃げるかのようにお店から出ていってしまった。たぶん、今のジェシカはすごく照れてると思う。というか、自分から褒めて、って言ったのに、結局逃げちゃった…。それに、ジェシカが忘れ物してる…。ジェシカがどれくらい慌てていたのかが分かるような気がして私はつい笑ってしまった。そして、その忘れ物をゼンさんに渡す。
「これ、ジェシカの忘れ物です。渡してあげて下さい」
「え。…あ、本当ですね。何やってるんだか…。すみません、ありがとうございます。…明日、上手く行くよう願っていますね」
ゼンさんはそう言ってジェシカを追ってお店を出た。お店の窓からそっと道を見てみると、ジェシカとゼンさんは何だかんだ楽しそうに会話していた。…そういえば二人って結局今、どういう関係なんだろう?ちょっと気になる。明日会ったら聞いてみようかな?と考えつつ私はお店番を続けていたのだった。
読んで下さり、ありがとうございました。
次回からは、いよいよ期限当日のストーリーです!




