第十話
今日から投稿再開します。よろしくお願いします。
次の日は花屋さんの定休日だった。それをいいことに私は日記をずっと読んでいた。でも、手掛かりは見つからない。回想シーンは結構いっぱいあるのに、そこまで深く書いていないのだ。もう少しちゃんと書いてあるかと思っていたのだが。日記は全部で十冊あって、順番がばらばらになっていた。困る。でも、少しでもヒントを見つけるために読んでいる。
「結花、調べてくれるのは嬉しいけど、少しこっちも手伝ってくれないか?」
ルイに呼ばれたので、私は外に出た。今日の天気は曇り。雨が降りそう。残念ながらこの世界には気象予報というものがない。なので、いつも勘を頼っているそうだ。そういえば元の世界では、まだ天気予報がない時はどうやって天気を判断していたのだろう?
「それで、手伝うことって何?花の手入れ?」
「いや、正確に言うと、手伝いじゃない。今度こそちゃんと紙幣の使い方とか教える」
はい?一体どういうこと?理由を説明してほしい。
「さっきパン屋の女将さんにあってさ。その時にお前が全然違う紙幣を出してたって話を聞いて。だから、ちゃんと教えようかと思ったんだよ。この店でだってお釣りを渡したりしないといけないし。だから、今日一日でシェーロン語の数字と見分け方、全部教えておこうと思って」
…小屋に戻ろう。しかし、そこでルイが私のことを呼び止めた。
「結花、帰るな!数字くらい覚えておいた方が何かと役立つし、店の会計だってできるだろ!」
「むりむり、違いが全く分かんないもん!絶対無理だって…」
「確かに最初は難しいかもしれないけど、慣れればいける!」
それでも逃げようとする私にルイは、何かを取り出した。
「数字の勉強しないなら、この本、一生返さないぞ」
って…、それ!ガーデニングの本!いつの間に。というか、どのタイミングで取ったの!?
「そ、それ、泥棒って言うんだよ!?というか、いつ…」
「お前にスキがありすぎるんだよ…。びっくりするほど簡単に盗れた。…で、どうするんだ?」
私には「数字を覚える」という選択肢しか残されていなかった。…ルイの鬼。
「疲れたー、シェーロン語って何であんなに難しいの?」
どうにかこうにか数字の勉強を終わらせた私は小屋のベッドに倒れこんだ。そして、ルイにもらった紙を見る。そこにはうねうねにょろにょろの不思議な文字が大量に書かれている。はっきり言って最初は区別が全くつかなかった。というか、実を言うと今もいまいち分かってない。少しだけ分かるようになった程度。もし、一発で見分けがついたならその人は本当にすごいと思う。
「でも、明日ちゃんとやらないと本は返してもらえないし…。少しはやっておかないと」
ルイ鬼は明日、私がうまく会計できれば本を返してくれるそうだ。自信がない。どうやってみんな違いを見てるのかな…。ついつい現実逃避をしたくなってルイのお母さんの日記を手に取った。同じ世界から来たこともあってか共感できる部分が多い。
『四月十五日 今日は友達と遊びに行った。彼女のおかげで色々な人と仲良くなれた気がする。ただ、問題は何かを買って代金を支払う時だった。シェーロン語の数字は難しい。この文字を作った人ってすごいなって思った。いつかは見分けがつくようになるのかな?』
あ、ちょうど数字に関する話だ。だよねー、やっぱり分かんないよねー…。でも、良いお友達ができて良かったな、と思う。一人って寂しいもの。そこまで考えてあれ?と思った。
そういえば、私、この世界に友達いなくない?まあ異世界に来て三日目だからそんなに深く考えなくてもいいと思うけど。…ルイは、私の雇い主だし、ただの意地悪だからな。友達とは違うと思う。そこは確信を持って言える。うん。…そんなことを考えながら日記を読んでいると、あっという間に日が暮れてしまった。……結局、数字の勉強は全くしなかった。まずい…かも。今日は徹夜するべきだろうか?と結構本気で考えていると、ルイが私を呼ぶ声が聞こえた。私は、ルイに今日は数字に関することを、何も言われないことを願った。
「……ということで、値札の数字、書いとけ。もし全問正解したら今日中に本を返してやってもいい」
「ってことは、つまり、全問正解しても返してもらえない可能性もあるんだよね?」
すると、ルイは一瞬黙った。…怪しい。返す気、ないみたい。
「まあ、とりあえず頑張れ」
そう言ってルイは逃げるように行ってしまった。いや、「ように」じゃない。絶対に逃げた。……。どうしてこんなことになったのだろうか?私は夕食の後の会話を思い出した。
夕食の後、ルイはなぜか急に少し大きめの、白い長方形の紙を大量に持って来た。そして唐突に
「明日か明後日から新しい植物を売るつもりなんだ。そのために、この紙に値段を書かないといけないんだよ。だから……」
知らない、私はまだ何も聞いてない。その先の言葉を聞きたくない。今のうちに逃げよう。
「結花、逃げるな。最後まで俺に話くらいさせろよ!」
「やだやだ、絶対にやだ。何となく、いや、はっきりとルイの言いたいことが分かるもん!」
「だとしても最後まで聞け!今日の復習ついでにこれに値段を書いてくれないか?」
突然、本題に入ってしまった。…やっぱりそうですよね。でも、嫌なんだよー。いまだに意味不明だし!
「謹んで遠慮いたします!私、色々忙しいから!じゃあね、お休みなさい!」
「…お前な、俺に盗られた本の存在、忘れてないか?」
…そういえばそうだった。あー、今すぐ取り返したい!でも、どこにあるか全く分からない。…やっぱり、ルイは鬼だな、と思った。私もルイくらい策略(?)できるようになりたい…。
ルイは175円が5つ、230円が3つ、と言っていた。つまり、0,1,2,3,5,7の数字さえ書ければいい、というわけだ。私は日本語とシェーロン語の数字が書かれた表を見ながら数字を書いていった。シェーロン語の2と5の違いがよく分からない。書いてみたけど、同じような字になってしまった気がする。…、今日中に本を返してもらうのは絶対に無理な気がしてきた。私はダメもとでルイのところに数字を書いた紙を持って行った。
「はい、書けたよ。……、一応。たぶん。おそらく」
「…何でそんなに自信がないんだよ?あれくらい、結構簡単にいけるだろ」
いーえ、全然簡単じゃありません!今のところ、ルイのお母さんともその点は一致してます。…どうしてこの国の数字は意味不明なのだろうか?そして、なぜこんな文字が読めるのだろうか?
ルイは一つ一つじっくりと私の書いた数字を見ている。何かすごく緊張するんだけど…?しかし、ルイの表情はだんだん怪訝そうになっていった。どうしたんだろ。
「もしかして俺、結花に伝えた数字、間違えたか?175が5つと230が3つって言ったはずだが…」
「うん、そう言ってたよ。175と230って書いたつもりなんだけど…。どこか間違ってた?」
「…まじか。お前、この文字、全部間違ってるぞ。びっくりした。667と546になってる」
……。1つくらい合ってると思ったんだけど。おかしいな。特に0とか自信があったんだけど…。
「まず、1はここを曲げなきゃいけないんだ」
「え?私のもちゃんと曲がってるよ?ほら、ここ」
「違う、ここだ。ちゃんと曲げないと、6と勘違いされる」
ごめん、ルイ。私にはどっちも同じ文字にしか見えない。見分けが全くつかない。
「あと、この数字。横棒を長くしないと、他の文字と間違えられる」
「そうなんだ。じゃあ、こんな感じなの?」
私が白い紙に書き直すと、ルイが隣に同じ文字を書いてきた。違う、ということらしいがやっぱり違いが分からない。
「はあ…、これは時間がかかりそうだな。とりあえず値札は俺が書いておくから結花は数字の勉強でもしてろ。少しは上達させとけ」
私は大人しく数字を書きまくることにした。もし、ここから追い出されたとしても数字さえ覚えておけば何とかなる気がする。それから、文字も少しは覚えておきたい。…ただ、この感じだと時間がかかることは確実だ。図書館とかがあれば行ってみたいな、って思った。
「うーん、こんな感じかな…?さっきよりはいいはずだけど…」
真っ白な紙が数字で埋め尽くされている。けっこう時間かかったけど、頑張った。
「お、頑張ったな。さっきより、1ミリくらいは良くなったんじゃないか?」
いつの間にかルイがいて、私の後ろから紙を覗き込んでいた。いつ来たんだろう?もしかしたら、一段落するのを待っていたのかもしれない。
「それ、ほとんど上達してないってことだよね!?さっきとほとんど変わってないってことだよね!?」
「まあ、そういうことになるな。ほとんど成長してない」
なぜか比喩表現を使われた。微妙に傷つく表現だな…。ストレートに言われた方が良い様な気がする。
「ということで、本は明日だな。今日はもう遅いし寝た方がいい。じゃ、お休み」
「え、返してくれないの!?けっこう頑張ったのに。残念」
「…確かに数字は難しい。ヴェリエ国はシェーロン語を使ってるから俺はそこまで苦労しなかったけど、母さんはけっこう苦労したみたいだ。日記のどこかに数字の見分け方があるかもしれない」
そう言ってルイは行ってしまった。私も小屋に戻ることにした。そして、日記を取り出した。日記を読めば、何かが見つかるような気がして。しかし、部屋の家具にぶつかって日記を全部、床に落としてしまった。ルイのお母さんの物なのに…。申し訳ない。私は慌てて日記を拾った。所々に紙も散らばっている。もしかしたら、日記に色々挟まっていたのかもしれない。どの日記にどの紙を戻せばいいか分からないので困った。
「この紙…、何が書いてあるんだろ?もしかしたら数字の見分け方も載ってるかな…」
私は拾い集めた日記を一旦ベッドの上に置き、紙を見てみることにした。全部で10枚。
1枚目は何かのレシピ。よく分からない料理なので、この世界にしかない料理なのだろう。2~6枚目もレシピだった。そして、7枚目。なぜか花のイラストが載っていた。
「…ラベンダー、かな?綺麗な紫色だし。…あれ、ラベンダー?」
ラベンダーってハーブだけど、ラベンダーティーは聞いたことがなかった。だから作ろうとすらしてなかった。でも、もし、あったとしたら?もし、ルイのお母さんが作ったのがラベンダーティーだったら?
私は続きを読み始めた。そこに書いてあったのは、ラベンダーティーの作り方。やっぱりそうだ。
「これなんだ…、これが、ルイのお母さんのハーブティー。ようやく見つけた…」
明日の朝、早速作ろう。私はそう決めて、寝ることにした。明日は絶対に早く起きて、早くラベンダーティーを作りたい。作り方はあるけど、上手くいくかは分からないもの。
ルイが喜んでくれればいいな、と思いつつ、私は夢の世界へと旅立った。
十話まで書いたのに、まだ異世界生活が三日くらいしか経っていない…。この調子で書き終わるのかな、と自分で心配になります。




