第百一話
昨日、投稿できずすみません。
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、五章が長くなりすぎたので、六章を作ってみました。
期限まであと二週間になった。いや、正確に言うと、水上車での移動時間があるので、実質二週間を切っている。私は何だかんだ色々とやっている間にあっという間に時間が過ぎてしまったことにびっくりしていた。特にこの一週間は色々あったし…。そして、私はその日、お店の開店前にじっくりと植物を見ていた。植物自体はけっこう成長したと思う。背丈が伸びたし、葉っぱもわさわさだ。ただ、問題が一つ。それは、蕾がまだ出てきてないということ。二週間あるから大丈夫かな、とも思うんだけど、この感じだと葉っぱだけが成長して終わってしまいそう…。最近は特に寒いし。段々、本当に花が咲くのか疑ってしまいそうになってきた。葉っぱの色的には健康そうなんだけど…。でも、花が咲くタイミングなんて分かるわけがないので、様子見になってしまいそうな気がする。私はそんなことを考えつつぼーっと植物を眺めていた。しかし、しばらくしてからルイがそろそろ開店の時間だと私を呼びに来たので、私は植物置き場を出て、お店の準備をすることにした。
「…それにしても、あの植物、どれだけ葉っぱが出てくれば満足するんだろうな?ってか、本当にあれ、花が咲くのか半信半疑なんだけど」
私と同じようなことを考えているルイ。どうやらルイも多少心配しているみたい。今までそんな感じがほとんどなかったから逆に心配してたんだけど…。ルイにもちゃんと危機感というものがあるみたいで何だかほっとした。
「最近、かなり寒いから成長速度が遅くなってるのかな?…あ、でも、そしたら葉っぱの成長速度も遅くなってるはずだよね…。ということは、一応ちゃんと成長はしてるんじゃない?ただ、花だけなかなか成長しないだけで。…早く咲かないかな。どんな花なのか、正直気になる。気になって夜も眠れないくらい!」
「いや、そこはちゃんと寝ろよ…。体調崩すぞ。ただでさえ寒いんだし」
と呆れたように言われてしまった。夜も眠れない、って言うのは誇張表現だけど、ものすごく気になるのは事実だ。どうして千智さんがその花の種をルイとロディル卿、どちらにも送ったのか、その理由も気になるし…。この一週間の調べもののおかげで何となく分かったけれど、本当に合っているかが不安。それをちゃんと確かめるためにも、花が咲くといいな、と思っている。でも、ちょっと不安だ。けど、考えすぎても逆に混乱しそうなので、私はひとまずお店の方に集中することにした。しかし、一方のルイは、道に大量に積もっている雪を見てどこか心配そうな表情をしている。
「ルイ、さっきから外ばっかり見て憂鬱そうな顔しているけど、どうしたの?何かあった?」
「別に。ただ、大雪のせいで水上車が止まったらどうしようか考えてたんだ。今のところ大丈夫みたいだけど、もし止まったらどこにも行けないんだよな…。だから、その場合どうやって王都に行くか、っていう問題がある。かなり重大…」
「そもそも水上車って、水が凍って止まっちゃうこととかないの?ここら辺、すごく寒いし…」
いまいち、その辺りがよく分からない。すると、ルイはどこかからパンフレットのような紙を持ってきて私にそれを渡してきた。…?何だろう。受け取って見てみると、どうやらそれは水上車に関する説明が書いてある紙だったらしい。その紙のおかげで水上車について何となく分かった。どうやら、水が完全に凍ることはないらしく、表面だけ、ということが多いらしい。その場合は機械に付いている特別な道具がその氷を分解しながら進むので、水が凍った影響で止まってしまう心配はないらしい。…要するに、元の世界のもので例えると、流氷の氷を砕きながら船が進むようなイメージかな?納得した私はルイにその紙を返した。…でも、こればかりは運に頼るしかない気がする。天気がどうなるかは分からないから…。止まらないといいな、と願いつつ私は窓の外を見つめた。さっきよりも少しだけ、窓の外が明るいような気がした。もしかしたら、雪の強さが弱まるかもしれない。しばらく私たちは外を見ていたが、私は、この一週間の調べものの結果を話そうと、ルイに話しかけた。
「…そういえば、この前の休みの日に管理人さんに会ったんだけど…」
そう言いかけたら、何故かルイに驚かれた。…そういえば、言ってなかったっけ。実は、休みの日に個人的な用事で植物屋さんに行った時、管理人さんに会ったのだ。そして、その時に聞きたいことがあってちょっとだけお話をさせてもらった。私はその時のことを回想した。
植物屋さんを出ようとした私は、不意に誰かに呼び止められた。振り返ると、そこにいたのは、この前お店に来た管理人さんだった。その時私は唐突に思い出した。…管理人さんってどうやらお花の知識をたくさん持っていそうな方だったっけ、と。ルイに植物に関することを教えていたことがあったと言っていたし、たぶんそうなんだと思う。なので私は、気になっていたけれど周りに詳しい人がいなかったから聞けなかったことを質問してみることにした。
「管理人さん、一つ質問してもいいですか?植物に関することで気になることがあるんです。植物の成長を早めるような技術があると聞いたんですけど、それってどうやってやるんですか?」
すると、管理人さんは急にきらっと目を輝かせた。生き生きとした表情になる。何だか急に印象が変わったような、そんな感じがする。落ち着いた感じから好奇心旺盛な、どこか子どものような感じに変化した。どうやら、管理人さんは植物が本当に好きみたい。管理人さんは丁寧に説明してくれた。
「確かに、そういう技術はあります。ですがそれは、限られた人にしか教えられていないんですよ。…というのも、この技術を習得するためには植物に関するちょっとした試験を受けなければならないんです。残念なことに、シェーロン国ではその影響であまり技術が広まっていないのですが、確かヴェリエ国ではその技術を発展させているみたいですよ」
…ということは、ヴェリエ国の方がその技術がすごいってことなのかな。そうだとすると、やっぱり千智さんはこの技術を使ってあの花の種を…?たぶん、そうだと思う。まだ蕾は出てきてないけど、葉っぱの成長速度だけを考えればかなり早いと思う。しかも、今の季節は冬だし。室内にあるとはいえ、なかなかあんな早さで成長しないと思う。
「ちなみに、管理人さんはその技術を持っているんですか?」
「ええ、持っていますよ。…ですが、試験を通過するのに十回以上かかりました。この試験自体は年に五回ほどあるのですが、一回当たりの合格者が限りなく少ないみたいなので、仕方がないと言えばそうなのかもしれませんが…。最後は執念でしたね」
十回以上…。それだけ、この技術を習得するためには知識が必要なんだ…。千智さんもきっと、大変な思いをして勉強していたんだろうな…。たぶん、お屋敷で働いたり、ルイの面倒を見たりしながら…。千智さんはどうしてそこまでして、技術を習得したかったんだろう…?そこには、どんな思いがあったんだろうか…。私は管理人さんにお礼を言って、植物屋さんを後にした。帰りの道で、ぼんやりと考える。どうして、千智さんはその技術をあの花に使ったのか…。特に意味はないのかもしれないけど、何かが自分の中で引っかかっていた…。
その話をすると、ルイはいつの間に…、というような表情になった。確かその時、ルイはお店にいたんだっけ?そう思いつつ、私は話を続けた。
「それで、色々と私なりに考えてたんだけど…、一つだけこうだったんじゃないかな、って思ったことがあって。千智さんがどうして技術を身につけようと思ったのか気になってたんだけど、それってたぶん、今育てているあの植物のためだったんじゃないかな」
私はそう言って、とある手紙をルイに見せた。それは、メアリさんからの手紙だ。この前、密かに私が送っていた手紙の返信。お休みの日に管理人さんから特別な技術に関する話を聞いた私は、メアリさんが千智さんとその技術に関する何かを知っているのではないかと思って聞いてみることにしたのだ。
「この手紙に、書いてあった。千智さんがメアリさんに言っていたんだって。どうしても、その技術を使ってその花の品種改良をしたい、って…。そしてそれは、完成したらルイやロディル卿に渡したい。もし、自分がいなくなってもその花にメッセージが残っているから…。とも話していた、ってその手紙には書いてあった。だから、たぶん千智さんはどうしてもこの花をルイに渡したかったんじゃないかな」
そして、きっとロディル卿にも。千智さんには、どうしても伝えたい「何か」があるんだと思う。それが、管理人さんとの話とメアリさんの手紙から分かったことだ。本人がいないから確かめようがないけれど…。でも、そんな気がする。一方、ルイは「…」と黙ったままだった。…もしかして、勝手に調べちゃったの、まずかったかな?確かに、勝手に調べていいのかな、とか一瞬気にはしたけれど…。それとも、私が色々喋りすぎたのがいけなかった…?!私が心の中であわあわしていると、やがてルイが言った。
「…聞きたいんだけど、それ、いつ調べてたんだ?全然知らなかったけど」
「聞きたいの、そこなの?…まあいいか。この前のお休みの日から、ずっとかな?どうしても気になっちゃって。どうして、あのお花だったのかなって…。ごめんね、勝手に調べちゃって」
「別に。謝れって言ってないし、そもそも怒ってない。…ただ、時々結花っていいこと言うことがある、って思っただけだ」
時々…。それって、褒め言葉って受け取っていいのかな?微妙にそこが気になったけど、それを聞く前にルイが「少し休んでくる」と短く言ってお店の奥へと言ってしまったので結局聞けなかった。けど、何となくルイの気持ちが分かったので、私は何も言わずにしばらく一人でお店番をしていることにした。
外の雪は、いつの間にか止んでいた。
読んで下さり、ありがとうございました。




