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ふりむかせてみせた!

 


「本当は、初めから気づいてたんだ」


 説明兼今後の展望についての話し合いは、そんな衝撃的な事実から始まった。


「え、はじめ……っていつ!?」


「百貨店で見かけた時から」


 白目を剥くかと思った。

 いや、いくらもう色々手遅れとはいえ流石にそれは女子としてまずい。辛うじて踏み止まる。


「な、何で知らないふりしたの……!?」


 バレていないと思って演技(?)していた自分が恥ずかしい。


 問い詰めると、狩屋君はそっと目を逸らした。


「素の顔が見られるかなぁ……と思って」

「え、その前からアキが作ってるって分かってたの!?」

「分かってたというか……その、それで好きになったようなものだから」

「!?」


 狩屋君が私に好きって言った。しかも、アキを。

 狩屋君は伺うように私を見ると、気まずそうに話し始めた。


「山賀……あ、あの幽霊が僕のこと無気力変人とか言ってたと思うけど。元々あんまり他人のことに興味持てない性格で、良くない自覚はあるけど結局直らなくて、割と周りと摩擦も多くてさ。その反動で、『普通』が僕の理想になったんだ。顔はともかくそれ以外は意外と難しいしやりがいもあったからとことん『普通』に拘ってたんだけど……」


 無気力変人。そういう意味だったのか。殊更普通に振る舞うこだわりがあったなんて。また新たな一面を知ってしまった。


「高校入って川津さんに会って、何故か好意を向けられてる気がして……初めはこれは『普通』じゃないなって思ってたから距離を保ってたんだけど、段々そんなのどうでも良くなったんだ。川津さんが皆に好かれるために凄く努力してる姿とか、そのエネルギーとかが眩しくて、単純に、羨ましいと思ったし、尊敬した。それで、見ているうちに、皆に見せてる姿じゃない本当の姿が見たくなった。それを見るには単なるクラスメイトじゃ駄目だろうと思ってたところに、あきよさんと会った。学校での川津さんじゃ分からなかった価値観とか好みとか、コンプレックスとかが分かって、多分、その時点ではとっくに好きだったと思う」


 狩屋君の話す言葉が耳に入る度私の顔の赤さが増している気がする。そんな私に気づいているだろうに、狩屋君はまだ続ける。鬼か。


「だけど、僕はどうしても、川津さんに自分の口からあきよさんと同一人物だってことを話して欲しかった。あきよさんの面にも自信を持って欲しかったし、僕を信頼して欲しかった、というか……。だからどうにか心を開いて貰おうとあきよさんを自分なりに口説いたつもりだった。……僕は、同一人物だって知らないはずだから、流石に学校での川津さんまで口説くわけにいかなかったし、ぼろがでそうだと思って学校ではあまり話さないようにした。……それで、多分、不安にさせたと思う。ごめん。で、君に信用して貰うには、僕も心の内を晒さないと駄目だと考え直して、あきよさんへのアピールもやめた。それで、今度は川津さんに改めてきちんと告白しようと思った。受け入れてもらえなくても、何回でも挑戦しようと思ったんだけど……まさかそこで同一人物だとばらされておまけにキスまでされるとは思わなかったよ」


「う、うぅうう!」

 顔から火が出るとはこのことだ。そしてまだ続けるのか狩屋君。


「まぁ、僕が受け身じゃ駄目だと思ったのは、単に川津さんの様子がおかしいからだけじゃなく神谷先輩のこともあったけど」


「神谷先輩……?」


「まさか、僕より先に神谷先輩に本性晒すとは思わなかったよ。あれは悔しかったなぁ」


「え、みみ見てたの!?」


「うん、ゴミ捨てに行って帰る途中で聞き覚えのある声がしたから近寄ったら、川津さんがあの先輩に何故か沙月さんを勧めてた。仲良かった印象はあまりなかったけどそのちょっと前に沙月さんと何か話してたし、友達の恋の応援かなぁって思ったけどね」


「いやぁあ、み、見られたくなかった!」


「僕は見れて良かったよ。お陰で危機感持てたし」


 狩屋君がにっこり笑う。

 ほんわか穏やかだと思っていたけれど、狩屋君はなかなかどうして侮れない。これが腹黒というやつかもしれない。しかし笑顔素敵すぎないか。


「あはは、こんな僕が笑っただけで赤くなるなんて、川津さんぐらいだよ。そんなに可愛くてどうするの」

「へひぃ!?」


 え、何だ狩屋君が口説いてくるぞ!?少し悪戯っぽい笑顔やばい。


「……川津さんが僕に正体を明かしてくれたとき、今にも壊れそうで、後悔した。初めから知らないふりなんてしないで、正攻法で行けば良かったと思った。それから学校で取り繕わなくなって……不謹慎だけど、僕のせいでそうなってるのかと思うと少し嬉しかった。だけどやっぱり悲しくて、どうにか話を聞いてもらいたかったけど避けられて、もう取り返しがつかないんだと思った。まぁそれで苛々しちゃって、さっきは神谷先輩に八つ当たりしてたんだけどね」


 駄目だ。笑顔から真剣な顔になったはいいけどやっぱり殺し文句しか出てこない。アキ殺しの狩屋君だ。

 と、いうか。


「いや、あれは神谷先輩のが酷いでしょ!全然関係無いのに勝手に狩屋君ライバル意識して挙句殴って!狩屋君完全にとばっちりだよ!」


「ん?いや、あれは……まさか僕が沙月さんを好きだと思ってるとは思わなかったけど、煽ったのは事実だからなぁ」


 ぼそっと殴られれば先輩とはいえ殴り返しても良いかなと思って、と言ったのを、私の地獄耳が捉えた。黒い。狩屋君黒い。


「……で、川津さん」

 急に改まった狩屋君に、私も少し背筋を伸ばして応える。


「はい、何でしょう」


「僕と、付き合って頂けますか」


「………………はい」



 結果的に、狩屋君の作戦は正解だったと思う。私はもうこの上なくだらしないあきよを晒していて、おまけにこうして話し合ったことでアキでいたい私も受け入れられるということが分かった。

 どちらでいても、好きにしていいと、その代わり自分の前で無理をしたり偽るのはやめて欲しいと言った心が広く優しく私をこの上なく甘やかす狩屋君の言葉を、何のためらいもなく信じられる。

 私の演技につきあってくれて、本の趣味も合ってここまで私を甘やかしてくれるなんて、完璧な彼氏を手に入れてしまったと思う。

 幸せ過ぎて溶けそうだ。






 そして翌日、私は完璧美少女川津アキとして登校した。


「ふっふっふっふ……川津アキ様完全復活!」

「ふ、なんか偶に悪の帝王みたいな笑い方するよね、可愛い」


 ……そして、隣には何故か狩屋君。

 いや、まあ、使ってる電車が一緒だから一緒に登校することになったんだけど。

 未だにアキ状態であきよ(本性)を晒すのに慣れなくて、居るのは知ってたはずなのに反応が返ってきてびっくりしてしまう。


「……あのさ狩屋君。何でもかんでも可愛いって言や良いわけじゃないからね?」

「ん?」

 きょとんとして首を傾げるな!癒されるだろ!


「私がアキ的全力可愛い仕草かましたときなら分かるけど、どう考えても女子的アウトな笑いを無理に可愛いって言わなくても良いから!」

「別に無理してないよ。悪い顔してる風なところが可愛い」

「く!やっぱり狩屋君趣味変!」

「そうかなぁ、どっちかといえばこっちの台詞だけど……あ、でもアキ的全力可愛い仕草すごい気になる。ちょっとやって見てよ」


 突然の無茶ぶり。

 私は目を泳がせる。


「は、い、いや、その、改めてリクエストされると……」

「…………何回もやってるくせにいきなり照れるとか、かっわいいなぁ」

「なんなの、狩屋君キャラおかしくない!?違くない!?てか、全部作ってるの見透かされてぶりっ子するのきついから!」

「あはは、浮かれてるのかもしれない。もう少し我慢してくれたら落ち着くと思う。……あれ?でも、学校ではアキちゃん全開でいくんだよね?」

「いや、まぁ、学校だと自然とスイッチ入るし……流石に二人だと」

「そっか……」

「…………うーーーー、」


 残念そうな顔、やめてください。本当、いや、まじで、だめ…………………。


「っ、狩屋くーんっ!えへへ、だあいすき、だよ?」

「おおー、流石の可愛さだねアキちゃん」

「……えーっ、やだぁ、もう、狩屋くんったら口が上手いんだからぁー、あんまりからかうと怒っちゃうよ?」

「なるほど、小首を傾げて上目遣い……ポイント高いね」

「もー、狩屋くん?からかわないでっ」

「頬を膨らませて少し涙目なんて、男心をくすぐるね。さりげないボディタッチも良いね」

「…………」

「やっぱり赤面は定番だね。小さく震えてるあたりも小動物感が凄い。だんとつで一番可愛いよ」

「…………っ、淡々と批評するなぁっ!!」


 狩屋君が物凄く楽しそうだ。


「狩屋君って意外と意地悪い……」

「え?意外だった?がっかりさせたならごめんね。僕性格悪いらしいよ」


 先輩にも山賀にも言われたしなぁと呟く狩屋君。自覚があるようでない気がするが、これはもしや無自覚腹黒というやつなのではないだろうか。


「本当に嫌だったら言ってね。なるべく直すようにするから」

「…………別に、嫌悪感は、ありません」

「良かった。多分学校ではここまで動揺してくれないだろうから残念だったんだ」


 ナチュラルにサディスティックな発言をするこの人は誰だ。終始楽しそうで、彼の言う通り本当に浮かれているのかもしれない。




 学校に足を踏み入れて、私は覚醒した。

 靴を履き替え、待っていてくれる狩屋君の腕に抱きつく。


「狩屋くん、付き合ってること、ほんとに皆に言っていいんだよね?」

「いいよ」


 にこにこと微笑む狩屋君。幸せ。どうやら落ち着いてきたらしい、変なテンションの高さがなくなっている。

 私はふふ、と笑って小首を傾げた。

 階段を上がると、廊下で私を知る人たちがまたざわめき振り返る。

 私を見て顔を明るくした友人たちが、声をかけようとして、固まっていく。


「おはよー」


 私はそんな彼らに気にせず笑顔を振りまき、挨拶していった。ぱくぱくと口を開閉する姿が面白い。

 がらりと教室のドアを開ける。

 皆の視線が集まる中、千陽ちゃんがこちらを向いた。途端、目が輝く。


「やったね狩屋くん!ついにアキちゃんゲットだね!」


 駆け寄ってきて私をポケットなモンスターにして来た千陽ちゃんに、狩屋くんが頷いた。


「うん」

「アキちゃんも、おめでとう!」

「ありがとう」


 心から喜ぶ千陽ちゃん。なんだかその輝きに滅されそうになる。私が髪をアレンジしてから、千陽ちゃんは少し変わった。派手さはないけれど、身なりに気を使うようになったし、自信もついてきている。私が似合うと思ったハーフアップはやっぱりとても似合っている。

 私たちは私の席に移動した。狩屋君が困った顔で「あいつら面倒くさそうだし……」と狩屋君の席周辺でらんらんと目を光らせる友人1号2号を見たからだ。うん、確かに面倒くさそう。


 だが、私の席にも面倒な奴が来ることを忘れていた。


 皆がこちらを気にしつつも話しかけられないのをいいことに、千陽ちゃんと三人で図書談義に花を咲かせる。千陽ちゃんは「アキちゃん詳しいんだねぇ」と驚きつつも、嫌な顔をしなかったのでほっとした。


 そこに、珍しく普通の時間に現れたヤツ……日立が来た。

 日立は私の顔を見て驚き、喜び、狩屋くんにくっつく姿を見て呆然とするという最早定番になっている一連の流れをしっかりこなした。

 ただ一つ違っていたのは、その後すぐ私達に詰め寄ったことだ。


「……お、おい!ちょっと待て、どうして狩屋そんなにアキにくっついてるんだよ!?」


 正確には狩屋くんにくっついているのは私なのだが、彼の曇った目には違って見えるらしい。


 狩屋くんはきょとんと目を瞬かせ、微笑んだ。


「彼氏だからだよ」


 はうあ!


 今、萌えが脳天に来た。きょとんとしてからの微笑みといういつもの技もさることながら、何のてらいもなく堂々と彼氏宣言とか!とか!!


 悶えながら狩屋くんの腕をぎゅうと抱きしめていると、狩屋くんがくすくす笑いながら頭を撫でてくれる。あっ、だめ、今それだめしぬ!


 日立はまたガーンと効果音でもつきそうなくらいの衝撃を受けたあと、震える声で私に確認した。


「は、はは、じょうだん、だよな……アキ?」


「ほんとだよ?狩屋くん大好き!」


 あ、涙目になった。日立はフラフラと自分の席に戻って行った。ちょっと可哀想かもしれない。悪いやつじゃないんだよ、本当。がんばれ。


 その一連の流れがきっかけとなってか、私たちの周りにクラスメイトたちが集結した。

 口々に「彼氏ってほんと!?」「いつから!?」「なぜ!?」「何がどうしてそうなった!?」と疑問が投げかけられる。


 私が頬を染めて、

「私がずっと好きだったの……フラれたと勘違いしてちょっと投げやりになっちゃったけど、勘違いで良かった」

 と言うと、若干不審そうにしながらも、私の投げやりな様子をしっかり目撃していたためか、最後には納得してくれた。

 というか、これが事実でそれ以上も以下もないしね。


 ちなみに狩屋君の方は、

「お前どういうことだ説明しろ!」

「どうやって川津さん射止めたんだよ!?」

「全然興味ありませんって顔しておいてお前ええ!」

 という言葉に全て「うん」と答えていた。

 ……あきらかに面倒くさくなってるな。



 ああ。

 嬉しいかもしれない。

 何を考えてるのか分からなくて、知りたくて、それでも大好きだった狩屋くん。

 そんな彼のことを、今はほんの少しだけど理解できてる。

 そしてこれからは、もっともっと知れるんだ。


 狩屋くんが私を見た。

 間違いなく、愛情のこもった瞳で微笑む彼に、私は演技じゃない笑顔ではにかんだ。




完結ですが狩屋くん視点のおまけがあります。全く性格良くはありませんし普通に変人です。なんでアキちゃんこれが好きなんだろ。

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