ショートストーリー 「汽車」
強風が吹く駅のホームで汽車を待つ。
スマホの充電が危険域なので、本を読みながら汽車を待つ。
吹きさらしのホームなので、時おりくる突風にページが煽られつつも、もて余していた時間を潰すのにちょうどよかった。
物語もいい感じに読み進めた頃に、踏み切りのサイレンがけたたましく辺り一帯に響き渡る。
汽車のご到着だ。
四角い顔がどんどん近づいていき、僕らの前で動きを止める。乗客が集まるのは一ヶ所、乗り込み口だけだ。
何を隠そう、一両しかないのだから後ろから乗り、前から降りるしかない。
地方に来て初めて知ったのだが、乗客は4人掛けボックスシートに対角線に2人座り、残りは全員立つのだ。立つ場所も決まっているのか、通路にはあまり立たず、乗降口側の広い部分に固まるように立つので、プチ過密地域ができる。本当にやめてほしい。
リュックも背中に背負ったままなので、揺れればぶつかり動けばぶつかり、頭上の網棚がおみえにならないのだろうか。
こんな場所に立ち続けるなんてゴメンなので、ボックスシートに避難する。そこには第2の試練が待っていた。
大股開きの間に荷物、横のスペースに荷物のおじさんと、向かい側には横に荷物満載でスマホを弄る学生が座っていた。
ここにも頭上をご確認いただけない方々がいらっしゃり、呆れ顔が浮かんでしまう。対角線に2人だけしか座らないのではなく、座れない理由だったりする。
「すみません。座ってもいいですか?」
学生が荷物をどけてくれたので、そこに座る。大股開きのおっさんも、僕が真正面に座ったことで、少し荷物や足の位置を変えたようだ。
ぶつからないぐらいに足を引いてくれたので、こちらが急に立ち上がっても引っ掛かることはないだろう。
僕は目的地の駅に着くまで本を読み続けることにした。
お分かりいただけだろうか?
これが田舎の汽車事情だ。
この瞬間だけ、地元の電車事情に涙が出そうになる。