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操り人形

作者: 創造 一輝

たったの3分程度で読めます!

是非最後まで!

 旅立ち

 

 カイルは天を仰ぐ。

 今日も快晴だ。

 ここはムーリアスという小さな村。彼はここで産まれ、成長した。今はもう立派な青年だ。

「おい、カイル。食材を買ってきてくれ」

父ドアムの声だ。低く響くような声はとても特徴的で、どこから聞いても父だとわかる。

 カイルは了解して、村の中心部に向かった。そこに市場がある。

 この村は海に隣接しているため、漁業が盛んで村人の収入はほとんどそこから(まかな)われていると言っても過言ではない。

 必然的に、市場にも新鮮な魚が並ぶ。村の漁師たちは腕がいいので、独自の手法を使いこなし、ここでしか獲れない魚もある。

 カイルもいずれは漁師に。と考えているのだった。また、漁師たちの長である父のこともとても尊敬していて、時々船に乗せてもらったりしている。

 と、その時、身体が何かに引っ張られるような感覚に襲われた。突然のことで彼は戸惑った。

 こんなことは初めてだ……。

 心の中で思った。

 大したことないだろうと思い、足を踏み出そうとしたのだが、足が全く動かない。

 何が起こったんだ……!

 頭がパニックを起こしそうだった。

 焦っていると、今度は身体全体が操られるかのような先ほどよりも強い()()に駆られた。

 次の瞬間、驚くべきことが起きた。

 足が勝手に動き出したのだ。もう何がなんだかよくわからなかったが、何をしても無駄だとわかったので、大人しく操られてみることにした。

 カイルは操られたまま、いつも通りマーナおばさんの店で魚を買いに行った。いや、買いに行かされた。

「まぁ、カイル。最近よく買いに来てくれるね」

マーナおばさんはいつも物腰が柔らかく、村の人からとても好かれていた。

「おばさんのところの魚はとても美味しいので」

 そんなことを言ったが、内心は焦りを隠すので必死だった。

 怪しまれることもなく、無事に買い物を済ませて家まで帰ることができた。

 家に入った瞬間、異変に気がついた。まず、家の雰囲気がいつもと違った。何か暗かった。

 カイルは家中に視線を巡らす。

 父と母ジュリアが机を挟んで、向かい合うようにして座っていた。だが、その目は死んだ魚のようだった。

「父さん、母さん」

 不安になってそう呼びかけたのだが、なぜかその声は、自分が発しているはずなのに、誰かに脳内で命令されて出しているような、変な感じだった。

「カイル。帰ってたのか」

 感の鋭い父が、カイルが帰ってきたのに気づかないなんて違和感しかなかった。

「何かあったの…?」

 彼は恐る恐る問うた。

「実はついさっき村長が来て、お前に()()()()をお願いしに来たんだ」

あること……? 全く身に覚えはなかった。

「村を出て、この世界に急増した魔物を倒してくれって言われたの」

言い淀んでいる父の代わりに母が言った。

「魔物……。そんなの僕にできるわけがないじゃないか」

 カイルは必死に抵抗した。

 実を言うと、少し耳にしてはいたのだ。魔物が出たと言う噂を。だがまさかその退治を自分が担うことになるとは。なんとも現実味がない話だった。

「魔物はそのうちこの村も襲いに来る。聞いた話だと、もうすでにすぐ近くまで来ていると言う話だ」

「カイル行くのよ。行って、この村を救うの」

父に続けて母が念を押した。

 カイルは幼い頃から平和が大好きだった。子供ながらにゆくゆくは、この心地の良い村で父の後を継ぐのだと無意識のうちに思っていた。

「待ってくれよ。だいたい、なんで僕なんだ」

 魔物を倒すだけなら、村人のだれでもいいはずだし、なんなら父でもいいはずだった。

 父が俯きながら、おもむろに話し出した。

「ここからはとても辛い話になるが、実を言うと魔物は村の周辺だけ退治しても全く意味がないんだ。その魔物の長、つまりそいつらの根源となるものを倒さなければ、現れるばかりで減っていかないらしいんだ」

 父の辛そうな声を聞いていると、行くしかないのかという気持ちになるが、そう簡単に了承できるものでもない。単に、魚を買いに行くだけとは、わけが違うのだ。

 カイルは頭の中に行くか、行かないか、の二択から選択するものを思い浮かべた。

 そして心を決めた。行くの方が選択されたように感じた。

「わかった。行くよ。この世界を救ってみせる」

「本当か」

「本当なの」

父と母の声がハーモニーを奏でた。

「あぁ。でも武器と盾は?」

「武器は護身用の剣がある。盾は鍋の蓋で我慢してくれ」

 突然のことだし、仕方ないなと思った。

 父から剣と盾を渡され、これは現実なのかと自分に聞いたが、現実だよと、本当に声が帰ってきたような気がしたので驚いた。

「じゃあ行ってくる」

強く両親に言った。

 絶対に生きて戻ってこいよ。無事に戻ってきて。

 両親の目から、思いが伝わってきた。

 必ず全てを終わらせて戻ってくるよ。

 カイルも心の中でそう返した。

 


 現実


「ママーー」

 少年はキッチンにいる母親に声をかけた。

「どうしたの」

「このゲームつまんないや。ストーリーもありがちだし、なんかわかんないけど、魚を買うところからいきなり始まるし」

「えーーそうなの。じゃあ売っちゃうか」

「うん!そうする」

少年と母親はそんな会話を交わした。



 踏み出した一歩


 カイルは村の入り口のところに立っていた。

 とうとう冒険が始まるのだ。前方を見た限りでは魔物はいなそうだが、どこかに隠れてるのかもしれない。油断はできなかった。

 よし。行くぞ。

 そう思って、第一歩を踏み出そうとしたその刹那、頭から足先まで全てがなくなるような、奇妙な、いや、凄まじい力に襲われた。

 なんだこれ……。

 さらに世界が潰れ始めている。あんなに綺麗だった快晴の空がぐちゃぐちゃになり、自分の方に迫ってきているのだ。

 村の方からは悲鳴が重なり合い、恐ろしいほどの音になっていた。

 もう無理だ……。

 カイルは死を悟った。死に際に真っ先に浮かんだのは両親の顔だった。二人は無事か。

 ごめん。村を出る前に死にそうだ。



 現実


【よし。行くぞ。カイルは第一歩を踏み出し……】

 カチャ。ゲーム画面に表示されていた言葉を気にも止めず、少年は刺さっていたカセットを抜いた。

「よし。売りに行こうか」

 母親が言った。

「うん!」

 少年が元気よく答えた。

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