第二夜 一瞬の懸想
「ご迷惑をおかけします・・・」
かいがいしく倒れた私の世話をしてくれていた、少年姿の神官様に頭を下げる。
初日にこれとは情けない。
この方、十代くらいに見えますが実はもっと年上だそうです。
私と並ぶとまるで姉弟みたいに見えるのに。
これでも長年ここの神官をつとめてきたらしい。
「いや。まるで孫ができたようで楽しい」
「・・・はあ」
孫ですか。
にこにこと笑う、年下にしか見えない少年にそういわれるのもなんだか妙な感じだ。
いったいこの人は何歳なのだろう・・・。いや、常人と同様に考えるのはおかしい。
創神など神に仕える人の年齢は外見ではわからない。力のあるものはその姿をいくらでも変えられる。
力あるものであるほど美しく、幼子のような姿を保っていた。
故に土人は常に醜く卑しく、創神は気高く美しい。
目の前の少年も白銀の髪の毛を後ろに結び、どちらかというと少女のような顔をしている。
きめ細かな肌は白く光るようで、瞬く青の瞳は覗き込めば透明、ふっくらとした唇は花びらのように優しい。
ローブから伸びる白い小さな手がスプーンをリアの口に運んだ。
「えっ、なにをなさってるんですか神官様!!」
「…なにとは倒れた後輩の看護だが」
「ししし神官様にこんなことさせられません!!」
「遠慮するな。任を降りたら暇で暇でならんのだ」
リアが恐縮してぶんぶんと首を横にふると、少年は機嫌を損ねたようにぷうと頬をふくらました。
ああそんなかわいらしい顔をされても困ります・・・。
リアは結局、そのあと神官の少年に根負けして彼の運ぶスプーンのために口を開けた。
†††
そこは天空の島にたつ塔のなか。
リアは神に拾い上げられた。
彼女には、創神を惹きつける妙な体質があった。
「私はリグ。姓はない」
「リグ様ですね」
リアは忘れないようにと繰り返す。
「べつに呼び捨てでもかまわないぞ。これからは私は任を降り、お前がその仕事を継ぐのだからな」
人は、というか人に見えるが人をとうに超越したものは、ただ人とは雰囲気が違う。
なんだか落ち着いていて、周りの空気がすうっと静かなのだ。
「私はリア。・・・姓は創神様にお仕えするときに無くしました」
あのときのことを覚えている。
立ちすくみ、戸惑うリアの前にリア達の村を統べる創神があらわれてこう言った。
『我は創神。巫女にたくそう、我が名を』
『名・・・』
巫女だけが知ることのできる創神の名。そしてそのとき巫女は創神の契約に縛られる。
『我が名は、ミラ』
『ミラ・・・様・・・』
あの時も必死に、頭に創神の名をきざみつけようとした。名を呼び間違って消し飛ばされた巫女の話をきいていたからだ。それくらいに創神とは気高く誇り高い。
『其の名をきこう』
『私はリア。リア・シュナー』
『そなたはこれより我が僕として命果てるまで私に仕えるのだ』
『うれしい限りです・・・』
創神の顔すら恐ろしくて見れずに、それでもものすごく嬉しかった。創神に選ばれるのは土人にとって名誉なことなのだ。美しい創神の側で仕えられることもリアにとってはこの上ない喜びに思えた。
創神に名乗った時点でリア・シュナーの存在はその創神だけのものになる。
そう、あのとき私は誓ったはずなのに。
あの人から離れて。どうして私はこんなところにいるのだろう。自分の運命を恨みたい。
「リア、どうした」
少年が心配顔で覗き込んでいた。
「えっ、あっああごめんなさい。ぼうっとしてました」
はっとして取り繕う私を、リグはとくに何も聞かずに見つめた。
「・・・まあいい、きけ。さきほどの御技でここが大神のおわす神殿だとわかっただろう。」
「は、はい」
さっきの、いきなり空中床下のことですよね。
あの時気を失って、目覚めるとこの部屋にいた。
「まあ神官としての仕事は明日から教えるとして。今日はゆっくり休むといい。つかれただろう。明日までに心をきめておけな」
にこりと笑う少年は、見かけには無邪気でかわいらしいという言葉がよく似合う。
ただ、普通の少年との違いを思わせるのは、そのえらそうな態度と余裕のありすぎる瞳。まるで年配の老人を思わせる。そしてなにより彼を覆う、人を圧するオーラみたいな何か。
わたしに対する配慮もただの土人の少年ではありえないような紳士的なものだ。
「は、はい。ありがとうございます」
自然と尊敬語になってしまう。
「ん」
私よりも小さな手が頭をなでてくる。
照れくさくなって、私はまるで小さな少女のように顔をうつむけた。
†††
ゆっくり休めといわれてそうできるほど心は落ち着いていはしない。
動かずにはいられない心境だった。
あれから神官様がこの部屋はこれから自由につかっていいからと言い残し部屋を出て行ってから、数時間もたっていない。窓から外をのぞくとまだ日も高い。私はちょっと外を探検してみることにした。




