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第一夜 目覚める巫女

世界をつくるのは、創神と呼ばれる土人たちの神々である。



創神とは、太古なる唯一神がお創りになられたという、それぞれが世界を編み目のように統べる太古の神の子の総称。



土人たちと呼ばれる、いつからか土の中から生まれいでた醜い二本足の生き物は、彼らを我が神と崇拝し、その地に鎮座する創神の下僕となった。






「創神に属性があるのを知っているだろうか」


白いローブをまとった少年が私に話しかける。


「一カ所にしか住んだことがないなら、さよう、知らないのも当たり前かもしれない」


少年は年に似合わぬ重々しい口調で話し始めた。

その通り、私は生まれてからこのかた、一つの村にしか住んだことがない。

勿論、創神の属性など考えたこともなかった。


「私は世界をうめつくすように統治する創神達の監視者。太古に唯一おられた神の神官」


少年は物憂げに視線を床下に投じる。

足の下には雲が漂い、遥か遥か下のほうに小さく地上が見えた。


私はさっきから腰をぬかしてすわりこんでいる。


どうして自分が、まるでこの下に床があるかのように空中に浮いているのだ−−−いや、実際足の下に床はあるのだが、透けている。透明な板といえば冬に湖にはる氷しか知らないリアには、到底理解できない出来事だった。


そんなリアの心をよんだのか、少年は少し笑んでささやいた。



「神の力をもってすればたやすいこと・・・」


「か、か、神?」


私はかろうじて少年にそう聞き返す。



「そうだ。創世の大神。お前をここへよんだのは他でもない。お前を神の巫女とするためだ」


少女は瞬いた。

少年は不満げに少女を見返した。


「お前が要求した通り、こうして神の力は証明した。これでも信じられないというのか」


「いっ、いえ、そうじゃなくて・・・」


たしかに一瞬にして、よくわからない神殿からこんな高い所に上がってきたのはすごい。人間技じゃない。でも。


「あなたがその、神様の神官様ではないのですか…」


少年は確かにさっきそう言った。自分は神の神官であると。誇らしそうに。



「私はもうこの任を退く」


「えっ・・・!?」


「だから代わりがいるのだ」


少年は腰に両手をあて、にこりと微笑む。肩の重荷を取り去ったかのようなすがすがしい笑顔。私にはありがたくない。


「心配するな。慣れるまで私がついて教えてやる」



「で、でもあの、それに、どうしてわたしが・・・」



「お前は神に許された」



少年は、慈愛という言葉が似合うような微笑みで私のほうを見た。余裕のある、すべてを包み込むような何かを悟ったような顔だった。



「で、でも私は村の創神様の祈り巫女でもあります」



大神かなにか知らないが、この申し出を受けたら私は創神を裏切ることになる。

創神の怒りをかう。

それはリアの村の滅亡を意味した。



「たしかに。お前は創神の巫女であった。しかしその体質ゆえにあのような惨事をひきおこした」


「・・・・・・」


少女はぐ、と唇をかみ締める。


「速やかにお前を始末しようという案もでた」


「・・・・・・っ」


「・・・しかし我が神はお前を許された」


「創神様は・・・」


「あの創神か。創神は大神にはさからえない。そうできている。お前は後にのこしてきたものを案じる必要はない」


「そう、ですか・・・」


では村は私がいなくても、これからも無事だということだろう。



安堵したためか、緊張の糸がぷっつり切れて、意識がふっと消し飛んだ。







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