素晴らしきVRの世界へようこそ
2016年夏。
満を持して登場したヴァーチャルリアリティ、通称VRの初期の評価は散々な物だった。
だがしかし、その後の改良に継ぐ改良による技術革新により、リアリティの向上や装置自体の縮小化に成功すると、瞬く間に世界中に広まった。
今やVRなしの生活など誰も考えられない。面白いことに、新型VRの試着までVR内で可能となったのだから。
僕は目覚めるとすぐに顔を洗う。
最新VRマシンはレンズ型で、半年に一度販売店で入れ替えてもらうだけで快適に過ごすことができる。
洗顔にも睡眠にも支障が出ることはない。
クローゼットに並べてある服を見渡す。
今日は打ち合わせがあるから落ち着いた色合いのスーツに着替える。
時計を確認すると、丁度いい時間だったので外に出る。
視界の右上にあるスケジュールを確認する。
「今日は取引先に直行だったか。
ちょっと早過ぎたな、まあいいか。取引先近くの喫茶店で時間でも調整するか」
いまだに頭の固い世代は、直接会って打ち合わせをしたがる。
面倒くさいが、仕事だからしょうがない。
VRが発達しても自宅で全ての仕事ができるようにはならなかった。
セキュリティのため社内独立型のVRになっただけだから通勤しなくてはならない。
昔に想像してたような未来じゃないことに多少の不満はあるが、昔より便利にはなっている。
取引先のある場所を調べると、近所に中世型ファンタジーゾーンがあることに気がついた。
「お、ここで時間をつぶすか」
ゾーンに入ると、そこは石畳に煉瓦の街並みが広がっていた。
ファンタジーな衣装の店員がいるカフェ。
店員をよく見るとエルフだったり獣人だったりする。
いずれ劣らぬ美男美女だ。
店に入り、珈琲をウサギ耳の獣人ウェイトレスに頼んで時間をつぶす。
頃合いを見計らって会計を済まして取引先に向かう。
無事に打ち合わせを済ませ、取引先を出たところで僕は転んだ。
「うわ、何だよ。登録されてない障害物かよ」
運悪く。
僕の足元にVRに登録されていない何かがあったらしい。
思いっきり転んだ僕は、急に視界が変わったことに驚いた。
ああ、VRマシンが取れたのか。
どうやら片目のマシンが転んだ衝撃で取れたらしい。
と同時に安全装置が働いてもう片目も停止した。
非常用マニュアルに沿って僕は目を閉じた。
VRから急にリアルになると、パニックを起こしやすくなるらしい。
だから、もしもVRマシンにトラブルがあったらその場で5分程度目を閉じる。
僕は目を開いた。
青い。
青い道。
青い建物。
街を歩く人々も全て青い服。
もちろん僕も青い服を着ている。
「あーわかってたけどやっぱ気持ち悪っ」
VRデータはデザインを発信する端末を読み込んで投影する。
投影がもっともうまく行くのが青と判明してから、世の中は青一色に染められた。
僕は急いでVRマシン販売店に向かった。
人は、一色しかない部屋にいると精神に不調をきたすらしい。
一時期はVR反対派なんてものもいたらしいけど、もう誰もVRなしの世界なんて考えられない。
さっき珈琲を飲んだカフェをチラッと覗いたら、顔も体も青く塗装した店員たちばかりだった。わかってたけど、ちょっと笑ってから、僕は販売店に急いだ。