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シーン8「NFBに気をつけて」

シーン8「NFBに気をつけて」



『もっと色々、教えて欲しいですよ!』


 ファナが言ってきた。

 彼女が巫女としての力で見せてくれた『線路図表』で危機を脱し、今はただひたすら、その図表の記憶をたよりに列車を走らせている状況である。

 危機を脱したことで余裕が生まれたのだろう。

 ファナは好奇心に瞳を輝かせていた。


 まあ、ファナに機関車の知識を身につけてもらえば、今後にも役立つはずだ。

 触ってはいけない箇所、危険な場所など、注意事項を伝えておく必要がある。


「じゃあ、まずはNFBかな」

「えぬえふびー?」


 うん、と僕は前方を注視したままうなずいた。


「NFBってうのは、ノンフューズブレーカーの略なんだ。家庭にあるブレーカーを想像してもらえればいいんだけど……うーん、こっちにはないよね」

「ぶれーかー、ですか」

「そもそも電気ってわかるのかな? この機関車を走らせてるエネルギーなんだけど」

「えっと、わかりません。わからないです。エネルギーってなんですか?」

「簡単にいうと、そうだね。元気の源、かな」

「ごはん?」

「まあ、そうかな」

「なるほどっ。ごはん食べないと動けませんもんねぇ」

「で、話を戻すと、架線……線路の上に、ケーブルが張られてるでしょ。このケーブルから、電気っていうエネルギーをもらうことで、この機関車は動いてる。ここまではいい?」

「はい」


 ファナの返事を聞いて、続ける。


「実は、架線から来てる電気はそのままだと大きすぎて、機器の制御には使えないんだ。ごはんだって噛み砕いてやらないと喉を通らないよね?」

「せいぎょ?」

「主回路と制御回路っていうのがあってね。主回路に流れる電気は、架線から直接来てる。約1500Vの電圧だ。対して、制御回路に使う電気は電動発電機で作り直したもので、電圧は100V……」

「ふぇえ~」

「あ、ごめん。色々飛ばしてたね。ええと……制御回路っていうのは、簡単にいえば、ここだよ」


 言って、僕は運転台を示してみせた。

 新形式車の、フルフラップ式の運転台には、左から『単弁』『自弁』『マスコン』『レバーサー』『キースイッチ』と並んでいる。


「制御回路っていうのはね。これらの機器の操作によって、機関車の動きを制御するためのものなんだ」

「えっとえっと! ヒモで繋がってるんですか? 人形劇ですか?」

「うーん。まあ、そのイメージで役割的には近いよ。ヒモは繋がってないけどね」

「ヒモの代わりに、小さい電気を使ってる?」

「そういうこと。呑み込みいいね」

「ふへへ」


 横目を向けると、ファナは照れた笑いを浮かべていた。


「んで、さ」

「はいっ」

「制御回路のイメージを少しつかめたところで、後ろを見てほしい」


 銀髪のツインテールを揺らして、ファナが後ろを向いた。


「はい! 見ました!」

「何がある?」

「わっ、なんか黒いのが並んでますよ! あっ、赤いのと黄色いのもあります。白いのも!」

「うん。なんだと思う?」


「ま、まさか! これが、えぬえふびーなのですか!?」


 ファナの反応はいちいち大仰でおもしろかった。

 楽しい。

 気づけば僕の口元には微笑を浮かんでいた。


「うん。それがNFBだよ」

「やっぱり!」

「そこに並んでる以外にもたくさんあるんだけどね。たとえば、こことか」


 横の窓の上のあたりを指さす。


「あ、ホントです!」


 そこにあるのは、『デフロスタ』や『ヒーター』のNFBだ。

 今は『切』になっている。

 他にも運転席の右下には、『前照灯』などの灯関係をはじめ、『電磁ブレーキ』のNFBなどが並んでいる。


「NFBっていうのは、ようするにスイッチなんだ。ヒモの例でいくと、これを『入』『切』することでヒモを繋げたり、離したりできるんだ」


 室内灯のNFBを入り切りしてみせる。

 ファナが大きく目を見開いていて驚いていた。


「すごいです! 救世主さまは魔法使いでもあったですね!?」


「ち、違うから……。普通のスイッチと違うところは、大きな電流が流れると、自動的に『切』になって、回路が壊れるのを防ぐんだ。ヒモが突然に勢いよく引っ張られても、自分から離れるから、ちぎれることはないってわけ」


 だから機関車では多くの場所で使われている。

 ちなみに主回路には、通称HBハイビーと呼ばれるハイスピードブレーカーというものが組み込まれている。これはモーターに過電流が流れるのを即座に防ぐためのもので、大きな電流に対応するためにかなり大きなサイズになっている。


 話を最初に戻そう。


「でね。NFBの話を最初にしたのは、絶対に触っちゃいけないNFBがあるからなんだ」


 びくっ。

 ファナが体をこわばらせるのがわかった。


「その『赤い』のなんだけどね」


 赤いキャップをかぶせてあるNFBは、『バッテリー』のNFBだ。

 制御回路の電気は、必ずバッテリーを介している。なので、バッテリーが遮断されると、すべてが『切』の状態になってしまう。つまり――


「さ、触っちゃたらどうなっちゃうんですか?」

「それは……」

「そ、それは?」

「――停まる」


 深刻な僕の声に、ファナはごくりと息を呑んだ。


「そう。パンタグラフが落ちて、非常ブレーキがかかる。つまり自己責任で列車が遅れる。だから絶対にだめなんだ。機器扱い不良で事故だよ……会社からすごい怒られる……へたしたら日勤……」


「救世主さまっ、救世主さまっ」


「え? どうしたの?」


「いきなり暗い表情でなにかつぶやき始めたのでびっくりしたのですよ。あの、だいじょうぶです? もしかして、またわたしの力を使うときですかね……情報が必要ですかっ」


 と、ファナが胸の布に手をかけたので僕は慌てた。


「え!? あ。いや大丈夫。ちょっと昔のことを思い出しただけだから」

「だいじょうぶなんですか……?」


 僕の顔をのぞきこんで、ファナは眉をひそめる。

 心配させてしまったようだ。


「えっと、とにかくNFBには触らないよう気をつけて。触るときは僕に確認してくれたらいいから」


「はい! わかりました!」



                            つづく

次回更新は明日を予定していますが、もしかしたら明後日になるかも……。

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