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シーン5「キケン! 曲線制限!」

シーン5「キケン! 曲線制限!」



 巨人から逃れるため、僕は列車を発進させた。

 まさに間一髪で巨人の攻撃から逃れることに成功する。

 しかし、さらなる危険が迫っていた。


「問題って、なんですか?」


 銀色のまつ毛で縁取られた大きな瞳をぱちくりさせて、ファナが聞いてきた。


 ち、近いなぁ……


 顔が近かった。

 先ほどまで抱き着かれていたから当然だけど。


 普段、貨物列車は一人きりで運転するものだ。

 たまに指導や便乗で他人と上司や同僚と乗ることもあるが――女の子を乗せて運転する機会なんて皆無だ。

 とても緊張する……


 なんかいいにおいがする……気がする!


 慌てて視線を前方に戻す。

 列車が走っているのは森の中だ。

 見たことのない木々が群生する間を、線路が伸びている。

 いまのところは、まっすぐに。

 直線が続いていた。


 ――いまのところは、だ。


 その先がどうなっているかは、わからない。


 どうすっかなぁ……


 困った。すごく困った。困っている。

 あと巨人だが……

 もちろん、まだいる。

 消えてなくなったりはしていない。

 速度計を確認すると、現在速度は75km/h。

 この速度を維持していれば、追いつかれることはなさそうだが、巨人は今も追ってきていた。ズゥンという地響きが続いている。

 だから今すべきなのは、いかにこの速度を維持するかで――


「それであの、問題ってなんですか?」

「曲線の制限がね……」

「きょくせんの、せいげん?」

「うん。曲線には制限速度があるんだ。たとえばR400……半径400mの円の曲線であれば、この貨物列車だと75km/hで運転することができる。でもR300だと制限速度は65km/hなんだ。R300はR400よりもきついカーブってことだね」

「は、はぁ。むずかしいです」

「正確には、制限は曲線だけじゃないんだけどね」


 ちらりと見やる。

 ファナは頭の上に「???」とクエスチョンマークを飛ばしたような表情をしていた。


「ようするにさ、曲がってる道にいきおいよく突っ込むと危ないってこと」

「あ、それならわかるかもです! ヒポポンレースとかでみんな曲がれなくてコースアウトしてますし」


 ヒポポン?

 なんだろう。レースってことは、この世界の乗り物なのかな。


「ねぇ、ファナ。ちょっと聞きたいんだけどさ」

「あっはい! なんですか、救世主さま? なんでも聞いてください!」


 ん? 今……なんでもって言った?


「――え、えっと、この世界ってさ、鉄道は存在したの?」

「てつどう……?」

「この線路とか、元々あったのかなって」

「あっ。もしかして鉄の道のことですか? いえ、なかったですよ。救世主さまとともに現れたのです! キラキラーって光って! 神託の通りに!」


 ファナの答えは、予想の範囲ではあったが、聞きたくはない答えだった。僕と列車と線路は、この世界には元々存在しなかった……

 つまり、本当に、この先の線路についての情報はないということだ。


「だから、だいじょうぶですよ! 救世主さまは、救世主さまなんですから!」


 言って、ファナはニコニコと信頼の笑顔を向けてくる。

 彼女の純粋な信頼には応えたい。


 いやいや、無理ゲーでしょ……


 線見――線路を下見することだ――もしなくて、どうやって運転しろというのか。

 通常なら有り得ない。

 まあ、異世界に来るなんてことが、有り得ないことなんだけど。


 僕が難しい顔をしていたためだろう。

 ファナが声のトーンを落とした。


「……あ、あのー。曲がるときって、目印とかないんでしょうか?」

「まあ、いちおう曲線の入りがけには目印として『てい減標』っていうのが設置されているものだけど……白い杭みたいなやつ。運転席からその表示を確認することは難しいかな。確認してからブレーキを使っても間に合わないと思う。この線路に『てい減標』があるのかもわからないし」

「ふむふむ」

「場所によっては『曲線指示標』で、わかりやすく曲線半径を表示してたりするんだけどね」

「ないかもしれないんですね」

「うん。管轄によって違うんだよね……だからまあ、曲線が見えたら、速度を落として慎重に行くしかないかな」


 巨人に追いつかれる危険はあるが、他に方法は思いつかない。


 あと気になるのは、速度照査のATSとかついているかどうかだが――今は考えるのはやめておこう。


 こんなときフィクションだと、神様からチートな能力を一個だけもらえたりしていた。

 ゲーム的な世界観であれば、スキルポイントを使って便利なスキルを入手することもできたはずだ

 たとえば、スキル『地形把握ロケーター』なんてのがあれば……


 そんなことを考えていると、直線の先にカーブが見えた。


「――っ」


 僕は自弁のブレーキレバーに手をかける。

 そのときだ。


「えっと、どのくらい曲がってるかわかればいいんですよね?」

「そうだけど……」


 僕の答えを聞いたファナは力強くうなずいてみせた。


「今なんですね! わたしの力を使うときは!」


 そして彼女はおもむろに――胸の布をはぎ取った!

次回の更新は明日(9月15日)の夜を予定しています。

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