シーン20「ATS」
シーン20「ATS」
すべての列車は、信号機が表示する『信号』に従って動いている。
簡単にいえば、そうすることで列車同士が衝突しないようにしているのだ。
また、信号機にも種類があり、用途によって使い分けられている。
線路図表に浮かび上がっているのは、場内信号機を示す記号だった。
場内信号機。
つまり――
「駅がある……ってことだよな」
駅に入る手前にある信号機が、場内信号機だ。
ちなみに駅から出発する際に見るのは出発信号機である。
場内信号機があるということは、それを超えた先に駅があるということだ。
現実世界の鉄道のルールが適用されているなら、そのはずだ。
駅。
そこが目的地なのかもしれない。
「えき!? そこですよ! そこへ行けば、女神様が復活できるんです!」
「……そうなのかな?」
「はいっ。わたしにはわかります。きっとそうです!」
まあ、信号機に『停止現示』が出ていたら、停まるしかないわけだけど。
●
曲線が終わって直線になったところで、その信号機は見えてきた。
オレンジ色に近い黄色い光が灯っている。
――注意現示だ。
信号は色によって制限速度が違う。
注意現示では45㎞/hが制限速度である。
「場内。注意」
と、僕は視界の先にある信号機を指さして言った。
指差確認喚呼というやつだ。
ブレーキを使って僕は速度を落とす。
速度計を見つつ、45㎞/hよりも5㎞/hほど早い段階でレバーを運転位置へ戻すと、ちょうど45㎞/hでブレーキが緩みきる。
「場内注意。制限45」
信号機の手前で再喚呼を行った。
速度を保ったまま列車は場内信号機の内側へと進入する。
線路の先には――
もうひとつ信号機があった。
赤い光を灯している。
停止現示だ。
ジリリリリリリ!
突然、車内にベルの音が鳴り響いた。
「――な、ななな、なんですか!?」
ファナが驚いた声を上げる。
僕も驚いていた。
だけど、それはファナとは別の理由だろう。
――ATSが機能してるのか!
まあ、架線に電気が来ているのだから、もしかしたらと思ってはいたのだ。
なので、驚いたのは一瞬で、冷静に対処することができた。
ブレーキのレバーを1ノッチに一時的に入れて、EBボタンのそばにあるATS確認ボタンを押し込む。
ベルの音が止んだ。
代わりにキンコンキンコンというチャイムが聞こえ出した。
ほっと息をはく。
先ほどの操作を5秒以内に行わなければ、非常ブレーキが作動しているところである。
「救世主様!? これは!? いったい!?」
「大丈夫だよ。故障じゃないからさ。安心して」
「は、はい……ほっ」
ATSとは、オート・トレイン・ストップ――自動列車停止装置である。
旅客列車でも運転席の近くであれば、さきほどの「ジリリリ! キンコンカンコン」という音は聞くことができる。チャイムのほうは列車を停止させるまで消してはいけない決まりなので、ずっと鳴り続けているのが気になったことがある人もいるかもしれない。
ともあれ。
……停まるしかないよな。
信号機を無視することはできない。
停止信号を出している出発信号機の手前で、僕は列車を停止させた。
チャイムを消す。
「ここが目的地?」
なんの変哲もない森の中だ。
つづく
次回は、明日か、遅くても明後日には更新いたします。
第一部完の予定です。




