表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/21

シーン18「箱の中の鍵」

シーン18「箱の中の鍵」



「――ファナ!」


 彼女の危機に僕は声を上げていた。

 貨車に応急処置を施したところで、巨人とクラーケンの争いの余波に襲われた。

 飛んできた海水に、ファナが押し流されてしまったのだ。


 押し流されたファナは、橋の縁を超えて、下へ――

 姿が消える。


「ファナ――っ!」


 僕は駆けだした。

 ファナが消えた場所へ向かう。

 水に濡れた制服が体を重くしていた。

 気ばかり急いて、思うように辿り着けない。

 嫌な想像が膨らむ。

 もしもファナがあのまま落ちていたら……

 下は水だが、勢いよく叩きつけけられれば、コンクリートと同じだ。


 縁に辿り着いた。


 ぐっと奥歯を噛んで覚悟を決める。

 僕は縁から下をのぞきこんだ。

 ファナの姿を探す。


「きゅ……さ……ま……」

「ファナ!?」


 見つけた。

 橋を支える柱。柱には、下へ降りるための非常用の通路が設置してあり、ファナはその手すりにかろうじてぶらさがっていた。


 無事だった!


 ほっと胸をなでおろす。

 しかし、安心してばかりもいられなかった。

 ファナの状況は、いつ落ちてもおかしくない。

 巨人とクラーケンの余波もある。

 急がなければ。


「今行くから、がんばって!」

「は……い……」


 救出には、非常階段へ行く必要があった。

 ――この橋が、現実世界と同じなら……

 非常階段の入り口の前で、僕は非常用の携帯電話を取り出した。会社から貸与されるこれには、ストラップの部分に鍵がついている。鍵といっても、先端に突起があるだけの簡単な作りのものだが。


 たしか、このへんに……あった。


 非常階段の入り口の横に、鍵穴のある箱が設置されているのを見つけた。

 鍵を差し込んで開ける。

 箱の中には――


 鍵が入っていた。


 ややこしいが、この箱の中に入っている鍵こそが、非常階段への入り口の鍵なのだった。

 ともあれ僕はその鍵を使って、非常階段へと進んだ。

 駆け下りる。

 ファナは片腕を離してしまっていた。もう、落ちる寸前だ。

 白くなった指が、掴んでいた手すりから離れる。

 僕は手すりから身を乗り出した。

 手を伸ばす。


 ――間に合え!


 そして。

 間一髪のところで、僕はファナの腕を掴むことに成功したのだった。


    ●


 引き上げたファナは、安堵からか放心していた。

 その瞳から、ぶわっと涙が溢れる。


「き、救世主さま……あ、ありがとっ、ありがとうござますーっ」

「うん……間に合って良かった……」


 僕も心から安堵していた。

 数秒間に何度か心臓が止まる思いだったのだ。

 助けられてよかった。

 と。

 また巨人の咆哮が聞こえた。

 安心するにはまだ早いことを思い出す。

 僕は立ち上がると、尻餅をついているファナに手を差し伸べた。


「行こう、ファナ」

「はいっ」


 僕たちは機関車へ戻るために非常階段を駆け上がった。

 機関車に戻って単弁をゆるめると、すぐに列車を発進させる。

 争いを続けるふたつの巨大な怪物たちをあとにして――

 海を渡る大きな橋を渡りきったのだった。


                                 つづく


次くらいで一段落させようかなと思ってます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ