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シーン17「緩解不良を直そう③」

シーン17「緩解不良を直そう③」



「救世主さまーっ、ココ! ココですよー!」


 巨人とクラーケンが争っているなか――

 交換用の予備のホースを手に、後ろへ向かって貨車の点検をしていると、ファナの声が聞こえてきた。

 4両分ほど先からである。

 貨車の1両分の全長は20mなので、80mほど先だ。

 列車全体でいえば、先頭から数えて13両目だった。


 貨車の反対側にいるファナの姿はここからでは見えない。

 近くに来ていることを知らせるために僕は声をあげた。


「ファナ!」

「救世主さまっ」


 嬉しそうな声が返ってくる。


「わたし見つけましたよっ。ココー! ココからシューっていってるんです! ど、どうしたらいいですか!?」

「待ってて! いま行くから!」

「はいーっ」


 ファナが待っている貨車に着くと、僕にも空気が漏れ出している音が聞こえた。


 ――やっぱりホースか!


 ホースに亀裂が入り、空気が漏れ出している。


「よし、これなら」


 応急処置でなんとかなる。

 予備のホースを持ってきていて正解だ。


「――ありがとう。見つけてくれて助かったよ」


 ファナにお礼を言った。

 おかげですぐに応急処置に取りかかることができる。


「えへへっ。お役に立ててよかったです」


 ちなみに――

 貨車のブレーキシリンダーなどの故障だった場合は、貨車のブレーキを無効にする処置をする。貨車についているコックを操作することで、故障してブレーキが緩まない貨車のブレーキだけを無効にすることができるのである。

 今回はそれは必要ない。


 僕はホースの取り替え作業に取りかかった。

 コックを閉じ、まずホースの連結部を外してから、スパナでホースを取り外す。


「ファナ。えっと、このホースを支えててくれる?」

「あっ、はい!」


 と、反対側からじっと作業する様子を見つめていた彼女に、手伝ってもらう。

 駅の担当なら、ひとりでもっと手早くこなせるのだろうけれど……

 普段、連結部のホースを運転士が扱うことはないのだから仕方がなかった。


 ホースの取り替えが終わった。


 コックを開くと、空気がこもっていくのがわかった。

 貨車のブレーキが緩んでいく。


「これで、動かせますか?」


 僕は貨車のタイヤを外したホースの金属部分で叩いてみた。キーン、と綺麗な音がなる。緩んだことを確かめるためには、こうして叩いて音で確かめるのだ。


「うん。大丈夫みたいだ。よし急いで機関車に――」


 言いかけたときだった。


 GUOOOOO!


 巨人が咆哮を上げ、大きく体を暴れさせる。

 抵抗してクラーケンの触腕が海を叩く。

 飛沫が弾ける。

 だが、それは飛沫と呼べるものではなかった。スケールが違う。

 巨大な水の塊だ。

 それが――


「なっ、やばい!」

「救世主さま?」


 海から弾かれた水の塊が、僕たちのほうへ飛んでくる!


 僕はとっさに貨車の手すりを掴んだ。


「くつ、掴まるんだ!」

「え? え?」


 ファナに向かって手を伸ばす。彼女は水の塊が飛んできていることにようやく気づいたところだった。目を見開いている。


「あ――きゃあああっ」


 伸ばした僕の手の先で――

 ファナは、ぶつかってきた海水に押し流されていった。


「ファナ!」



                                     つづく

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