シーン15「緩解不良を直そう①」
シーン15「緩解不良を直そう①」
橋の上。まだ地上までは1㎞ほど残っている。
クラーケンの蝕腕が迫り、巨人が近づいてきている中――
ブレーキ管の圧力が抜けていき、列車は止まってしまった。
コンプレッサーは動作し続けているが、圧力はいっこうに戻らない。
「どうしちゃったですか!? なぜ止まってしまったんです!?」
「……たぶん感じからして、どこからか空気が漏れてる」
「そんなっ」
僕の言葉にファナが悲鳴じみた声をあげた。
おそらくだが、最初に蝕腕をぶつけられたときに貨車のほうで問題が起きている。
幸いなのは、貨車と貨車を繋ぐホースが千切れたわけではないということだ。
つまり脱線して貨車が分離したわけではない。
というのも圧力計の下がりは緩やかだった。ホースが千切れれば、非常ブレーキをかけたときのように、一気に圧力が抜ける。
もちろん予測であって、まったく違う場所が原因なのかもしれないが……
ここは経験を信じるしかない。
――くっ、だけど応急処置するにしても、そんな余裕あるのか!?
架線に当たってひるんでくれたおかげで助かりはしたものの、いまだクラーケンは真下で蝕腕をうねうねさせている。
巨人もじきに追いついてくる。確認したところ、すでに橋の半分は渡りきっていた。
こうなったら貨車を切り離して逃げるしか……
そんな考えが頭をよぎる。
ファナや女神にはわるいけれど、命あってのモノダネだ。
会社のスローガンも『人命を最優先し、常に正しい行動をする』と謳われている。
貨車を切り離せば、女神は復活できなくなるが、このままではみんながやられてしまう。
だけど……
ファナを見る。
彼女の青い瞳には、僕に対する信頼がある。
裏切りたくなかった。
迷ってる時間はない。僕は席を立った。
その際、単弁(機関車のブレーキ)は4ノッチに投入しておく。
いそいそと背後の機械室から、青色の工具箱を持ってくる。
「応急処置してくる! ファナはここで――」
GUOOOOOOOOOO!
また巨人が咆哮を上げるのが聞こえてきた。
海を歩くことで苛立っているのかもしれない。
と、状況に変化が生じた。
真下にいたクラーケンが、巨人のほうへ移動していく。
巨人の咆哮に反応したようだ。
――今のうちだ!
僕は機関車の扉から外に出ようとした。
声をかけられる。
「わたしも手伝います!」
「ファナ? でも、危険が」
「手伝います!」
くい気味にファナは言ってきた。
「よし……じゃあ、僕と反対側の扉から降りて。後ろまで貨車をチェックするんだ。空気が漏れているところを探してほしい。音がしてると思うから」
「わかりました」
「足下、気をつけてね」
「はい! 救世主さまも! ――うひゃあ!?」
「ファナ!?」
「だ、だいじょうぶですー!」
「……気をつけてね」
僕たちは機関車から降りて、後部の貨車のチェックに向かった。
つづく
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