シーン14「故障発生」
シーン14「故障発生」
僕たちの状況は深刻だ。
クラーケンに追い詰められていたところに、あの巨人まで現れた。
下方の海からはうねうねとクラーケンの触腕が柱のように立ち上っている。背後からは巨人がざばざばと海水を割りながら向かってきている。
「救世主さまっ」
ファナが、僕に期待と不安の入り交じった視線を僕に向けてくる。
期待は嬉しいが……選択肢は限られていた。
――逃げるしかない。
一度ノッチを0に戻すと、レバーサーを『前進』に切り替えた。
改めてノッチを入れる。
モーターが唸りをあげ、列車が加速を始める。
だが、巨人はともかく、クラーケンの触腕は振り切れない。
背後の貨車へと触腕が伸びる。
やばい!
最初のはつつく程度のものだったが、今回は完全に絡みとりにくる動きだ。
しかし触腕は、コンテナに触れる直前、弾かれたように離れた。
どうしたんだ? ――あ、もしかして、架線か!?
架線に当たったのだろう。
列車に電力を送りための架線には、常に1500Vの電圧がかかっている。
濡れた触腕で触れば、クラーケンの巨体であっても驚かせることはできたようだ。
――今のうちだ!
警戒して、すぐには再び襲ってこないだろう。
もうすぐ橋を抜け、陸地に辿り着く。
そこまで行けばクラーケンからは逃げられる。
速度を上げれば、巨人を再び引き離すこともできる――
そこで気づいた。
「速度が、上がらない……?」
ノッチを上げても、ほとんど加速していなかった。
後ろから、引っ張られているような感覚がある。
触腕に掴まれたのかと考えたが、ちがう。
計器を見ると、ブレーキ管の圧力計が不安定に揺れていた。
圧力が抜けていっている。
これって……
「緩解不良……」
「救世主さま! どうしたですか!? 速度が落ちていってますよっ」
「たぶん、さっき触腕をぶつけられたときに、貨車がおかしくなったんだ」
「え?」
「ブレーキが緩まない」
そして――
橋を渡りきらないうちにブレーキ管の圧力はどんどん抜けていき、列車は止まってしまった。
つづく
次回更新は2日後を予定しています。