シーン10「大橋」
シーン10「大橋」
――潮のにおいがする。
トンネルを抜けると、僕たちは海の上にいた。
鉄骨で組まれた巨大な橋。
元いた世界での本州と四国を繋ぐ、長大な吊り橋を思わせた。
「うわ高っ! こわっ! 落ちちゃいませんか!?」
「大丈夫だよ。……たぶん」
自信を持って断言できなかったのは、ここが異世界だったからである。
線路と同様に、この橋もこの世界には元々はなかったものだろう。
……線路も問題ないみたいだし、橋も大丈夫だよね?
橋を通る上で注意しなければいけないのは風である。
風速25km/h以上の風が吹くと、橋の上は通行止めになるというのが決まりだった。
とはいえ今のところは平穏だ。
木などの障害物のある森の中と比べて風は強いものの、警戒するようなものではない。
問題なかった。
「こんな景色見たの、はじめてです。すごいですねぇ……」
「ん? ああ。言われてみれば」
異世界に召喚されてから、驚く光景ばかりで麻痺していたようだ。
「でも、いい景色……はいいんだけど、巨人に追いつかれたらヤバイよなぁ……」
「う。そうですね」
ファナと顔を見合わせて、お互いに顔を青ざめさせた。
あの巨人は、今も追いかけてきているはずだ。
巨人が最初と同じ速度であるなら、かなり引き離した。
しかし、もしあのデカブツに攻撃されたら、いくら頑丈な橋でもタダでは済まない。山を吹き飛ばしてしまうようなヤツなのだ。
そうなったら、24両の貨車ごと、この機関車も海へ真っ逆さまだ。
ハリウッド映画などでは、よくありそうな光景だが……
想像したくない事態である。
「よし、急いで抜けよう」
「はい!」
僕はノッチを上げた。
トンネルを抜ける際に用心して落としていた速度を上げていく。
橋の上には曲線できつい制限はない。
こう配があるので、そこは注意が必要だが、最高速で走らせることができる。
ガタンゴトン、とレールと車輪が立てる音が、地面というクッションがないぶん、一際響いた。速度が上がるにともなって、音は大きくなっていく。
と――
「救世主さま!」
窓に張り付いて景色を眺めていたファナが、悲鳴じみた声を上げた。
「下に! 海の中になにかいます!」
つづく
次回更新は、明後日を予定しております。