私と妖精
冬の朝は寒い。
許されるならいつまでも布団にくるまっていたいところだが…
そういうわけにもいかない。
いつなんどきお客が来るかわからないし…
朝にしかできないこともある。
それに、みんなに挨拶もしなくてはならない。
あまりにも私が起きるのが遅くなると、勝手に出てきてしまうのだ。
いいものから悪いものまでところ構わず―――
「はぁ…」
今日、3度目のため息
一日にいったい何度つくことになるのやら…
「―――よっと」
勢いをつけて布団をから起き上がる。
こうでもしないとなかなか起きられない。
永遠に眠っていたいと思うのは贅沢だろうか…?
許されないとはわかっているがそれでも望んでしまうのはどうしようもない。
辛いことから逃げて楽になりたいと思うのは当たり前のことだと思うから…
叶うことのない願い。叶えることを許されない願い。
それでも人は、望み、願うのだ。
何を犠牲にしてもこの願いだけは、望みだけは、と思い悩み―――
先のことなど考えもせず―――
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私の一日は、本棚の掃除から始まり本棚の整理で終わる。
別に、毎日するようなことでもないと思われるかもしれないが、私の本棚に並ぶ本たちは世界中から集めた問題児―――もとい問題本ばかりだったりする。
毎日、きれいにしていないと怒る。
というより、好き勝手に暴れて手が付けられなくなる。
本棚から飛び出し家中を飛び回り物にぶつかり破壊するだけならまだ、かわいいもので、それよりも厄介なのが家を飛び出し、中身を呼び出してしまうことなのだ。
術者の力を借りずに飛び出した本の中身たちは、本の内容にもよるが、危険なものが多い。
さすがに、命を奪うような危険なものは別に保管しているが―――
それでも、気休め程度にしかなっていない。
なんといっても使い方次第でどのような本でも命を奪うことはできてしまうのだから―――
身支度を整え階下へ向かう。
今日は、誰に手伝ってもらおうかと考えながら…
とんっ
階段を下りきれば、何万冊という本が並ぶ
棚、棚、棚ーーー
棚の間を進んでいくと揺り椅子と小さなテーブルがある空間に出る。
「・・・あれ?」
揺り椅子の上には、赤い装丁の本が一冊
まるで座っているように立て掛けてある。
本のタイトルはーーー
「『妖精図鑑』?」
昨日は、寝る前に本棚の見回りをした。
そのときには、すべての本が決められた場所に間違いなく収まっていたはずーーー
(だ~れだ?)
突然、目の前が真っ暗になる。
それと同時に楽しそうな聲がした。
「・・・はぁ。---エアリエル」
私は、目隠しに使われた布を外しながら振り返り聲の主を確認する。
そこには、小さな体に天使のような翼をもった存在がいた。
(くすくすくす、せ~かい!)
彼女が笑うとふわりと風が起こる。
今日はどうやら機嫌がいいらしい。
「おはよう。うれしそうね。」
挨拶をしながら私は、揺り椅子に立てかけてある本を手に取る。
(ふふ、おはよう。しおんが私のことわかってくれたからね。)
そう言いながら、彼女は私の肩へと腰かける。
(正解したご褒美に今日は私が手伝ってあげる!)
「助かる。今日は誰に頼もうかと思ってたところだから…」
(まかせて!)
そういって、彼女は私の肩からふわりと飛び上がる。
「それじゃあ、棚の掃除をお願い。私は、開店の準備をしてくるから」
(おわったら、そっちに行ってもいい?)
「かまわないよ。」
(やった~!)
叫んだと同時に彼女の姿は空気に溶けるように搔き消える。
それを見送り私も店の方へ足を向ける。
(…あっ、勝手に本から出たこと注意するの忘れてた。)
「はぁ…。まぁ、いっか。」
ありきたりですが、最初は、妖精を登場させてみました。
エアリエルは、大気の精です。