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 直登が大好きだった。

 ただ一緒にいて、二人で笑いあえるだけで幸せだった。それ以上のことは何も望まなかった。ずっとずっと、一緒だって信じてたのに……

 何であんなことをしてしまったんだろう。


 七年前の今日──誰もいなくなった教室。空の水色と夕焼けのオレンジ色が滲んだ窓、長く伸びた自分と直登、二つの影。

 その影が、突然一つに重なった。

 直登に抱きしめられたのだ。

 頬に触れたシャツの感触と、少し汗ばんだ彼の匂いで、直登の腕の中にいることに気づいたくらいだ。


 驚いて顔を上げると、直登の真剣な眼差しがそこにあった。その眼光は何かを物語るかのように揺れていたが、その時の海雪に彼の心情を汲み取る余裕などどこにもなかった。あまりにも鋭いその視線に射すくめられて、恐怖のほうが先立ってしまったのだ。

 だから──直登の顔が迫ってきて、海雪はとっさに彼を突き放してしまった。


『──いやっ!』


 突き出した腕の分だけ開いた距離──それが、そのまま二人の心の距離になってしまうなんて。


 直登が大好きだった──はずなのに。

 キスしたくなかったわけではない。むしろ周囲からそういう話題を出されるたび、付き合って半年以上も経ちながらまだキスもしてないことに焦りすら感じていた。

 だからといって、軽いノリで済まされる二人でもなかった。友達の延長のように始まった二人だったから、そういう雰囲気になることを意識的に避けていた部分もあったかもしれない。

 お互いにタイミングを計りながら、周囲からの無言のプレッシャーを感じながら、あの頃の海雪と直登の間にはどこか張り詰めた空気があった。

 直登はその空気に耐えられなくなったのかもしれない。だから、あんな唐突に迫ってきたのだ──と、今ならそう思える。


 大好きだったとは言いながら、その時まで直登に抱いていたのは恋愛感情ではなかったのかもしれない。

 学校では皆と一緒になって騒いで、直登の部活がない日は一緒に帰って、ファストフードを食べながら何時間でも話し込んだ──そんな性別を超えた親友のような関係を「恋人同士」とうそぶいていたのだ。

 それでもよかった。背伸びなんて、周囲の目なんて気にしたくなかった。

一線を越えることによって、楽しかった直登との関係が壊れてしまう──それが何より怖かったのだ。


 後に残ったのは気まずい雰囲気と、ほろ苦い後悔だけ。

 自分にとって、どれだけ直登が大切な存在だったのか──失って痛いほどそれを知った。

 すべては七年前の今日、ふとした弾みで起こってしまった一つの間違いから始まったのだ。だからその間違いを正せば、未来はあるべき本当の姿へと修正されるはず。

 今日の夕方、直登とキスできれば──きっと未来は変わるのだ。


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