職務質問
繁華街から川沿いにある公園に延びる石畳で作られた大通り、そして公園を突き抜けた先に建てられた赤いレンガ造りのゴシック建築を模した市庁舎。
その前にユウが立ち、それを見上げていた。
市庁舎前の公園を散歩している親子連れやカップルなどの人達が寝袋に穴を空けて服にアレンジした彼を奇怪な目で見ているが、その視線にユウは気付いていない。
「おー、これが役所か」
異世界クードに転移するまで日本から出たことが無いユウは、北欧建築に似た建物に目を取られていた。市庁舎に辿り着くまでのメインストリートに並ぶ赤、黄、水色などのレンガで建てられたショップやレストランに感動していたユウだが、それらよりも大きく作られた市庁舎を見たユウは、ここが異世界なんだなと実感した。
「(煙突なんてあるんだ、今まで見た事ねぇー)」
ユウが見知らぬ土地で感動している間にレンは大きな戸が開いている市庁舎に入って行く。
「おい、ちょっと待てよ。置いてくな!」
置いて行かれまいとユウはレンを追いかけて扉を潜ろうとしたが、先に入ったレンは顔だけをユウに振り向かせて言う。
「ユウはそこで待ってて、あたしは証明証の発行書類貰ってくるわ。その書類にあんたがサインすれば発行してもらえるから」
「なんでだよ。俺が行って書けばいいだろ?」
「あんたが入るとややこしいのよ。その恰好じゃまた変な目で見られてめんどくさいでしょーが」
「あー、それは御免だな…」
「でしょ?貰ったらすぐに来るから、大人しく待っといて」
「りょーかい」
ユウは適当にそれに返事をするが、投げやりな返答に心配したレンが復唱する。
「ここで待っとくのよ!貰ったらすぐ戻ってくるから、ここだからね!!」
丁寧に彼女は扉のすぐ横にある芝生の上に置かれたベンチを指さした。
「わかってるって、ガキじゃあるまいし。一回言えば分かるよ」
「本当かしらね…本当に頼むわよ…」
怪しみながらレンは市庁舎の中に入って行った。待つように言いつけられたユウは、ベンチにリラックスした姿勢で座り込む。ゴソゴソとポケットから煙草を取り出しそれを吸って時間を潰す。
暫く日が照りつける中ユウが平和だなぁとのんびりと煙草を楽しんでいると、一人の獣人族の子供が彼に近寄り声をかけた。
「おじちゃん、へんなかっこうしてるけどだいじょうぶ?」
「なんだ?おまえ?」
「まだおひるだけどちゃんとおしごとしているの?」
平和なひと時に水を差されたユウは目を細めて子供を睨みつける。
「駄目よ!サティちゃん!!」
子供によく似た母親と思われる女性が現れる。そして、子供の手を掴んでユウと距離を取った。
「サティちゃん、あのね、あの人はきっと賞金稼ぎの人なの。だからあんな変な恰好してるのよ。話しかけたら何されるか分からないから近寄っちゃ駄目!わかった?」
「えー、でもー、おかあさん。おとなはおひるのあいだにはたらなきゃだめっていってたでしょ?」
「だから賞金稼ぎなのよ。毎日毎日仕事せずにダラダラ遊び呆けているのは賞金稼ぎぐらいだから真っ当な人じゃないのよ。いきなり襲いかかってくるかもしれないから離れてなさい!」
「うん、わかったー。もうちかづかないよ。」
ユウに聞こえる大きさで子供に彼をダシに使って説教する親がいた。汚物を見るような目で母親がユウを見つめ、子供は母親の後ろに隠れて母の言葉を鵜呑みにして少し怯えた表情でユウを見つめていた。
そしていきなり喧嘩を売られたユウは眉に皺を寄せ、煙草を吐き捨てる。そして大きく息を吸って…
「ガキと婆は黙ってろ!!俺の時間をどう使おうがお前たちには関係ねぇだろ、俺の勝手だ!!」
何も変わっていない。
転移する前と同じ反応だ。
怒声を上げ、物凄い形相をしながらユウは親子を追いまわし、それに恐怖した母親は叫び、子供は泣きながら走って逃げて行った。他の散歩していた人達は、変人に絡まれたくないのか速足でユウの周りから立ち去っていく。
「二度と俺の前に現れるな!次顔出したらただじゃおかねーからな!!」
遠ざかっていく親子に向けて大声でユウは言った。
子供の記憶には深く刻まれただろう。賞金稼ぎは碌な人間がいない。母親の言葉は真実だったと。
ユウは達成感に満ちた表情で大きく伸びをした。
「さーってと、さっきの所でのんびり座って待つとしますか」
そう言った直後、彼の肩が後ろからトントンと叩かれる。
「次は誰だよ。もうほっといてくれ」
ユウは後ろを振りかえらずに、伸びをした両手を組んでストレッチをする。
だが続けてユウの肩がトントンと叩かれる。
「しつけーな。俺はゆっくりしたいんだよ、早く帰れって」
うっとおしそうに肩を叩き続ける手をユウは振り払ったが、彼の肩はトントンと叩き続けられた。
「いい加減にしろ!喧嘩売ってんのか!?」
怒声を上げてユウが振り返った先には、フルプレートを着込んだ警備兵がいた。
「ちょっと詰所まで来てもらおうか?」
「…………はい」
ユウが親子に怒鳴り声をあげた辺りからの顛末を一部始終見た警備兵は彼を不審者と判断し、冷静な声でついて来るように促し、ユウは肩を下げて情けない声で肯定しそれに従った。
公園を歩く人達から向けられる犯罪者を見つめる視線と太陽に照らされて凛々しく映る市庁舎を背景に警備兵とユウの二人の男が警備詰所へとメインストリートを歩いて行った。
その頃市庁舎の中ではレンが受付から証明カード申請代理人の書類を貰い、扉に向いて歩いていた。
「相変わらず仕事が遅いわねー。っていうかなんであたしの後見人申請もしなきゃいけないのよ…ユウって書いちゃったけど」
ぶつぶつと言いながらレンは外に出たが、そこにいるはずのユウが何処にもいなかった。ご丁寧にあれ程言い聞かして指をさしたベンチには誰もいない。
「あ、あれっ!?なんでいないの!?」
居るはずの男がいないのでレンは慌てた。
別の場所で休んでいるかもと思い、公園内を探してみるが見つからない。もしかしてすれ違って市役所の前にいると考えて戻っても誰一人いない。
暫く待ってみてもユウは来なく、時間だけが経つ。
レンが怒りから来る苦笑いをし、彼女の蟀谷がヒクヒクと動く。
「お、おかしいわねぇ。あたしはここで大人しく待っといてってあれ程言ったたわよねぇ…」
まさか警備兵に連れて行かれたとは思わないレンから怒りのオーラがゆらゆらと立ち上っていた。
前回からかなり間隔が空いちゃいました。
次回から頑張ろうと思う!うん!次回からね!!
あと話は毎回きりのいい所で区切っています。
文字数はそれによって変動しますが、安定した方がいいんでしょうか?