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気ままに生きる放浪記  作者: なるぅ
第一章 ライル共和国 ベクウェル
6/7

入門

 場所は変わってケイル大陸、ライル共和国の北東にある小都市ベクゥエル。南には海をそれ以外には森と湖を、美しい環境に囲まれ、海に繋がる川に隣接する街だ。

その昔、現在のライル共和国が王国であり耳長族(エルフ)のみで構成された国家だった頃、王国は耳長族(エルフ)以外の種族を劣等種族と蔑み、獣人族(ビースト)炭鉱族(ドワーフ)を迫害していた。蔑にされ続けた獣人族(ビースト)に自由と誇りを取り戻すために獅子族(リオン)の男、後に獣王スヴィアと呼ばれる男が立ち上がった。彼は点在して暮らしていた獣人族(ビースト)を纏め上げ王国との長い戦の末に自由と権利を取り戻し、今の多数の種族から成る共和国の土台を作り上げた。

 その獣王スヴィアがベクウェルの村に戦の拠点を建てた時に、この村は発展を迎える。獣人族(ビースト)耳長族(エルフ)の戦前に多種類の獣人族ビーストがこの村に大勢集まった。戦後、彼らは自分達の部族に帰ることは無く、村に住み付き小都市ベクウェルへと発展させた。



 「暇だ」

 

 そんなベクウェルの門前で全身をフルプレートで固めた猫耳男が煙管(キセル)を吸いながらぼやく。兜は被って無く、腰には剣を帯刀している。


 「グレン先輩!いくら昼過ぎで人があまり居ないからってサボっちゃ駄目ですよ!!はいっ、オッケーです。魔物狩りお疲れ様でした」


 グレンと同じ装備を身に着けた大柄の女が手に持ったカードをにこやかにマントと鎧を来た男に返して言う。カードを返された男は「暑い中お勤めご苦労さん」と言って門をくぐった。街に入る最後の一人を見届けた大柄の女は兜を外した。出てきた頭からは犬耳が生えている。


 グレンは空を見上げて煙草を吸い続けていた。

 

 「お疲れさん、エレクシア。って言っても人族(ヒューマン)との戦争は10年前に終わったんだ。平和過ぎてどうも…な。仮に人族(ヒューマン)がここにいても、物好きな旅人か冒険者ぐらいだ。」

「………そうですね、戦時中は人族(ヒューマン)も皆帝国に帰りましたけど、最近はたまに来るようになりました」


 エレクシアは彼の言葉に同意した。


 「それに、もし人族ヒューマンとの戦争が続いていても首都までの道中に無いこんな僻地に敵なんて来たりしないよ。来ても精々飢えた魔物だ」

 「魔物と言えばトロルが荒れ果てた土地から東の森に来ているそうですね、そろそろ賞金稼ぎか冒険者が狩ってくれてもいいと思うんですけど?」

 「あんな小物、誰も狩らないさ。最悪、俺達警備隊で討伐体が組まれるだろ。大体トロルつっても餓鬼や女を狙うだけだし、初級魔術でも当たり所が良けりゃ狩れるぐらいなんだ。そこまで危なくない。だから冒険者も賞金稼ぎももっと稼げる獲物を狙って北か西に行くさ」


 警備隊で討伐体が組まれると聞いた途端にエレクシアの耳がピンっと直立する。


 「ですね、警備隊組まれるなら先輩も立候補しましょうよ!怯える人達を私達2人が救うんです!」


 目は爛々と輝かせて、グレンに近付き、彼の顔へ身を屈めて言った。


 「やだよ、めんどくさい」


 それとは変わってグレンは露骨に嫌そうな顔をして、目と鼻の先にあるエレクシアの顔を手で掴み、押し退けようとしたが彼の力が彼女より弱いからかそれは叶わない。

 

 「なんでですかっ!?」

 「暑苦しい、寄るな。だからめんどくさいんだよ」

 「正義の心を忘れたんですか!?」


グレンの入れる力は徐々に強くなっていき、エレクシアの顔からギリギリと音を立てながら徐々に反れていく。


 「せっ、せいぎのぉ…」

 「あー、ほら、次の奴らが来たぞ」

 

 エレクシアの奥にチラリと見えた2人組の男と女をグレンは逃げ道に使い、強引に討伐体へと引き入れようとする彼女の勧誘を受け流した。


 「はいっ!!」

 

 グレンは大きなため息を吐く。

 職務に対して真剣に取り込むエレクシアは外した兜を被り直し、姿勢を正して直立する。グレンは相変わらず兜を被らずだらけた態度を取っている。エレクシアと比べて態度が真逆だが、煙管の灰をコンコンと捨てて仕舞う辺りはキチンとしているのか。


 「先輩、あれ…なんでしょうか?」

 「俺に聞くな」

 「いや、でも!」

 「だから、俺に聞くな」


 彼らの目の先にいるのは男と少女の2人組だ。

 少女の方は、薄汚い服装だが、可愛らしい顔をしている。腰の後ろに鞘に入れていない剥き出しの山刀(マチェット)を帯刀しており、右手には魔物の首をそれから生える髪の毛を掴んでぶら下げている。猟奇的だ。だが、これはまだいい、まだ許せる。

 問題はもう片方の男だった。

 芋虫のような頭から足までつながった一つの袋。それの両手両足の部分だけ穴が開いており、そこから籠手や靴を履いていない四肢がでており、鞄を背負っている。袋のたるんだ部分は捲し上げられ、腰のあたりできつく紐で括られていた。はっきり言って不審者のそれだった。もしこれが日本だったら外に出たら最後、有無を言わずに職質を受けている。


 「どうも、こんにちは守衛さん」

 「あっ、こんにちは」


 話せる距離まで近づくと、不審な男が片手を揚げて気さくな声でエレクシアに話しかけた。間近で見れば見るほど怪しさが増すその男に視線が釘付にされていたエレクシアは、急に話しかけられたのであっと声を出して挨拶に返答した。

 隣にいる狐耳の少女は顔を赤らめて恥ずかしそうに下を向いている。


 「街に入りたいんだけど、いいっすかね?」

 「では証明サーティフィケーションカードをお見せください」

 「さーてふぃけーしょんカード?」


 不審人物はそう言って少女の方を見る。

 少女は男の質問を無視する。そして、赤い顔をそのままにして、ズボンのポケットから素早くカードを取り出して無言でエレクシアに差し出す。バッ!バッ!の2つの音で表現できる早さだった。どうやら少女は恥ずかしさのあまり、連れの男の声は耳に入っていないようだ。早く終わらせて街の中に入りたいらしい。

 グレンは可哀そうにと呟いて3人の遣り取りを眺めていた。


 「えーっと、狐族(フォクシア)のレンさんですね。オッケーです、お通り下さい」


 レンとカードに記載されていた少女はエレクシアからカードを受け取りポケットに閉まった。続いてエレクシアは不審人物に向かって手を差し出した。


 「では、あなたのカードもお見せして貰っていいですか?」

 「いやー、そのさーてぃふぃけーしょんカード?とか持ってないんすけど」

 「あんたっ!!持って無かったの!?」


 レンはようやく連れの男の疑問に気付いて、驚いた顔で連れの男に聞く。


 「だって…なぁ?」

 「だっても何も何処の大陸の人もカードは持ってるでしょ!」

 「ないもんはないんだ、仕方ねぇだろ」

 

 男は悪びれない態度でレンに言った。やれやれ聞き分けのない子供だと両手を顔の高さまであげてふらふらとする。


 「では仮証明証を発行しますので、少々お待ちください。先輩、お願いします!」

 「はいよー」


 頼まれたグレンは口論を続ける2人を置いて、門と一体化している詰所に入って厚い書類と羽ペンを持って戻って来た。


 「じゃあ俺は賞金首の書類見てるから、お前は仮証明書の空欄埋めてくれ。」


 一枚の紙と羽ペンをエレクシアに渡した後で、グレンは一枚一枚に書かれた顔と不審人物を見比べ始める。


 「それでは、幾つか質問をしますのでそれに答えてください」

 「了解っす」

 「あなたの種族、名前、年齢と出身地をお願いします」

 「自分は芋虫族のニョッキっす。年齢は8か月。出身は富士の樹海です。」

 「芋虫族の…ニョッキさんですね!生後八ヵ月ですかぁ、若いのにいい心掛けです。フジの樹海は聞いた事ありませんが、遠い所からよく来ましたね。で次は…」


 エレクシアは不審人物の言った言葉をそのまま鵜呑みにして書類に羽ペンで書き始める。しかし、それに反応する2人がいた。レンとグレンだ。

 レンは思いっきり不審人物を蹴り飛ばす。そしてグレンはエレクシアの頭を叩いた。


 「あんた!いい加減にしなさいよ!!すいません、すいません、こいつは人族(ヒューマン)のウラカミユウです。なんでこっちに来たか知らないからそれは自分でいいなさい!」

 「エレクシア…おまえなぁ…」


 言い終えた2人は元の位置に戻る。グレンは賞金首の紙と不審人物を見比べる作業を再びはじめ、レンはいつでも連れの男を蹴れる体勢をとる。


 「お互い大変ですね」

 「そうっすねー」

 「「ハハハ」」


 2人揃って悪いのは自分達だと自覚をしていない。その光景を見たレンとグレンため息をついた。ユウに対しての呆れが恥ずかしさに勝ったのかレンの顔からは赤さが消えていた。


 「人族(ヒューマン)のウラカミユウさんで宜しいですか?」

 「苗字が浦上(うらかみ)で名前が(ゆう)、年齢は24歳っすね」

 「苗字…あ、ファミリーネームですね。分かりました。」


 エレクシアは獣人族(ビースト)他種族(アザーズ)の欄に書かれた芋虫族とニョッキに線を引き、人族(ヒューマン)耳長族(エルフ)の欄にある名前(ラストネーム)家名(ファミリーネーム)にユウ・ウラカミと年齢を記載した。異世界クードでは、基本的に苗字と名前を持っているのは人族(ヒューマン)耳長族(エルフ)の2種族のみなので書類の項目は獣人族(ビースト)他種族(アザーズ)人族(ヒューマン)耳長族(エルフ)に区分分けされている。


 「では出身は人族(ヒューマン)ですから、帝国ですか?」

 「帝国?」

 「ツヴァイト帝国ですよ、違うのですか?」

 「あー、そこっす、そこそこ!」

 「魔導体のジャックインプラント手術も帝国でしかやってませんからね。あ、聖王国でもやってましたか。でもやはり帝国でしたか」

 

 少し考えたユウだが、出身が日本と言うとややこしい事になりそうなのでエレクシアに振られた話に乗った。それを聞いたグレンが眉を顰めて会話に割り込む。


 「変だな…帝国からベクウェウに来るには聖王国と幾つもの共和国にある街を跨ぐはずだ。そんな奴がなんでカードを持っていないんだ?」

 

 グレンはユウに詰め寄った。その姿は先程までのだらっとした態度ではなく、ユウが少しでも不審な動きを取れば対応できるように構えてある。


 「いやー、実は話せば長くなるんすけど、津波に流されてここの砂浜に辿り着いたんっす。それでそこの餓鬼に砂浜で会ってここまで連れてきてもらったんですよ」


 いたずらがばれたような物言いでユウは言った。その返答に対してグレンは彼をさらに怪しむ。


 「本当か?」


 グレンはレンを見た。


 「本当です」


 真剣な目で見られたレンは、緊張を含んだ声で言った。そのままグレンは続けてじっとレンの瞳を見る。

 

 「……………分かった」


 暫くレンの瞳を見た後、グレンはそう言って視線をユウに戻す。


 「疑って悪かった、すまないな」

 「いいっすよ、それが仕事っすからね」


 ユウはにへらっと笑って手をひらひらと振った。グレンはユウから離れて作業また開始する。


 「先輩、なんでも疑うのは悪い癖ですよ。人間正直が一番です。ちょっとは人の言葉を信頼しましょうよー」

 「うるせぇ、お前がなんでも信じ過ぎなんだよ」

 

 グレンにエレクシアは反省するように言い聞かすが、彼はそれに反論した。


 「すいません、お二人とも。では、最後にベクウェルの街に来た目的はなんですか?」


 気を取り直してエレクシアはユウに最後の質問を投げかける。


 「ここに住んで居る男に金を返しに来たんっす。借金したままは気分が悪いんで」

 「分かりました。質問に答えて頂いてありがとうございます」


 エレクシアは頭を一礼してグレンに振り向いた。


 「せんぱーい、こっちは終わりましたよ!」

 「おう、俺も終わった所だ。賞金首リストにはいないから大丈夫だ。仮証明書発行して通って貰え」

 「はい、分かりました!では、これが仮証明書です。有効期限は3日ですので、それまでに街の中央にある役所で証明サーティフィケーションカードの申請をしてください。1分でも遅れましたら強制的に街から出ていって貰いますので、必ず役所に行ってくださいね。仮証明証をそのまま提出すれば発行できますので、よろしくお願いします」


 そう言ってエレクシアは仮証明証に印を押してユウへ渡した。


 「ありがとうございます、お勤めご苦労さんっす」


 受け取ったユウは門を歩いてくぐっていった。


 「おーい、行くぞレン。もたもたすんなよー」

 「ちょっと待ってよ!」


 レンはそう言ってユウを追いかけようとする。


 「待て」

 

 しかし、彼女はグレンに呼び止められる。


 「お嬢ちゃん、こいつにその首を入れとけ。そんなの見たら町中の人が腰抜かすぞ」

 「あ、はいっ!ありがとうございます」


 グレンにそう言って差し出された皮袋を受け取ったレンは、その中にぶら下げていた首を入れて一礼した。


 「あんな連れと一緒に大変だろうが頑張れよ」

 「頑張ります…アハハ」


 肩を叩かれたレンは、苦笑いで答えた。そして、ユウを追って走っていく。少女と男が街へ入って行く姿を守衛の2人は見届ける。


 「先輩、面白い人たちでしたね」

 「そうだな、不審な点がいくつかあったが、まぁ大丈夫だろ」

 「えっ、そうなんですか?」

 「ああ」

 

 グレンは煙管を取り出し、葉を詰めて『種火(エンバー)』と唱えて葉に火をつけた。そして少しプカプカと吹かしてから、煙草を吸ってフーッと吐く。


 「まず帝国からこんな所まで海に流されるのなんてありえない。距離が遠すぎる。それに、あの嬢ちゃんが持ってた首。あれトロルだぞ」

 「ええっ、あれトロルだったんですか!?トロルの顔って普通もっと大きいですよね!」

 「トロルで間違いない。討伐隊組めなくて残念だったな」

 「先輩との正義の物語がぁ…」


 討伐に行けなくなったエレクシアは項垂れて悲壮な声で言う。グレンはそれを見て笑っていた。


 「(トロルはトロルでも、トロル・ウォーロードだけどな)」


 そう心の中で後付するグレン。


 「(まぁ…あの男にお嬢ちゃんが脅された訳でも無さそうだったから問題ないはずだ。どんな奴か気になるが、俺の仕事じゃないな)」


 グレンは空を見上げて煙を吐いた。





 ベクウェルの入り口で寝袋に穴を四つ空け、そこから手足を出した男と狐耳の革袋を肩にかけた少女の2人組が口論していた。ユウとレンである。


 「ほらなー、うまくいったじゃねぇか」

 「あんたの目は節穴!?それとも腐ってんの!?」

 「ウゲッ!!」


 ユウは胸を張ってドヤ顔で言った直後にレンに腹を殴られる。拳は鳩尾に入り、ユウは屈んで目を大きく見開いた。その目が涙目になる。


 「大体なんでカードも持って無いのよ、聞いてないわよ」

 「聞かなかったじゃん…あだっ!!」


 減らず口を叩いた屈んだユウの頭をレンは叩いた。出会って次の日というこの短い2日間でレンはユウの扱いの仕方が分かった。分かる方が流石というかこの場合は分かられる方が流石というべきである。


 「今度から問題が起こる前にあたしにいう事、分かった?」

 「母親じゃ無いんだからそこま…」

 「分かった!?」

 「暴力はいけない!」

 「返事は!?」

 「はい」

 

 有無を言わせない気迫でレンはユウに言った。


 「とりあえず役所で証明サーティフィケーションカードを貰ってからギルドに行くからね。あたしに追いて来て」

 「おう、わかった」

 「あ、知り合いって思われたら嫌だから離れて追いかけて来てよ」


 レンはそう言うと先に歩いて行く。


 「………思春期の娘かよ」


 既に尻に敷かれたユウは肩を落とす。ペタペタとレンガを敷き詰められた床を歩き、哀愁を漂わせながらレンを追った。


思ったより以前投稿した物語の文が汚いのでその内手直しさせて頂きます。

一回で読み易い文にしたい所ですがうまく行きませんね…

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