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気ままに生きる放浪記  作者: なるぅ
序章 異世界 クード
1/7

始まり

 「ぁ゛~、今日もいい天気だねぇ」


 肩まで伸びたボサボサの黒髪を風になびかせ、整った容姿だが、不揃いな無精ヒゲが残念な青年が防波堤でボーッとしていた。

 キャンプ道具屋で49800円(税込)で買ったキャンプ道具セットに含まれていた折りたたみ椅子に腰を下ろし、左手にはそれなりの値段を払って買ったエギング『餌木えぎといわれるルアーを竿に着け、イカを釣る手法』用の竿、そして右手にはくたびれたタバコを持っている。


 「こんな晴れた日に吸うタバコはうめーなぁ」


 発がん性物質満載の白い煙が彼の口から吐き出された。


 「おっ、そろそろ湯が沸けたかね」


 彼はタバコを常備している携帯灰皿に入れ火を消した。そして、慣れた手つきでキャンプ用のガスコンロの火にかけてある、水が沸騰している鍋を手に取り、インスタントコーヒーの粉末を入れたマグカップに湯を注いだ。

注ぎ終わったマグカップに口を付け、コーヒーを啜る。


 「うんまー、やっぱコーヒーはブラックに限るわぁー」


 このだらしない青年の名前は「浦上うらかみ ゆう」、24歳。

真昼間から優雅にイカ釣りを楽しむという、傍から見ると典型的な駄目人間に見える彼だが、これには理由があった。


 ユウは、丁度1週間前にVRMORPG『The War of Ancient Gods』、通称WAGに傭兵として参加し、勝利する事で人生3回は豪遊することができる報奨金を得たからだ。

なので、彼は子供の頃から夢だったニート生活を現在進行形で行っていた。


 WAGは、VRMORPGとRTSを混ぜたようなゲームであり、直径800kmもある広大なフィールドで150対150で戦うゲームだ(勝利するか、自分のキャラクターが死ぬまでログアウト不能)。ゲーム開始時には、全員LV1という同じ条件でスタートする。

最大レベルは5そして、広大なフィールドで、何処に在るかも分からない敵陣を探し出すのを目標とし、フィールドにランダムポップするモンスターや敵兵を倒し、レベルを上げ、モンスターの素材から武器を作り出し、戦力が十分整ってから敵将を倒すのがこのゲームの一連の流れである。広大すぎるこのフィールドで敵将を発見し、倒すのは至難の業であり、ゲームを終わらすのに最低でも3カ月、最長で1年半の時間を有した記録がある。


 このゲームには、空腹値と疲労値が設けられている。最大100ポイントのこれが、30を切れば動きにくくなるデバフがかかり、10を切れば動け無い。0になれば死に至り、強制ログアウトに繋がる。そして、よりリアルな戦闘に近づけるためか、HPやMPを初めとするステータスは数値化されておらず、自身が感じる気怠感でMPの残量を確認し、現実と同様に首を撥ねられたり心臓を貫かれると即死する。他にも、腕や足を切り取られたり、出血の描写も現実と同じだ。


 WAGがここまで評価されたポイントは、軍神システムが画期的だったからである。軍神システムとは、プレイ開始時に500もいる軍神の中から一つプレイヤーが選び、それを宿す事によって軍神によって個性の出る5つのスキル使える事が可能になるシステムだ。スキルはレベルが1上がる事により1つ増加する。軍神には、個体によって役割が決まっている。援護・攻撃・防御・偵察・妨害・支援などの役割があり、それぞれその役割に特化している。なので、強さが飛び出た者がいたとしても、相手と能力値/武器の性能に雲泥の差が無ければ単体で集団を撃破する事は不可能だ。

よって、統率力・戦略性・指導力・状況判断力が必要とされるこのゲームは、世界各国に注目され難航した政治的問題を解決する際、WAGに勝利した国の意見を反映するまでに至った。


 問題点として、WAGに勝利するのは、毎回プロゲーマーを大量に抱える国になってしまった。優秀なゲーマーを抱えない国は、強豪国に常に負けることになる。

しかし、弱小国家が強豪国に勝てないという負のスパイラルを覆す事が可能な手段があった。それはフリーランスのプロゲーマー、つまり傭兵を雇い勝利する事だ。戦争に勝利した傭兵には、貢献した度合に見合った報奨金を彼らを雇った国が払うのが基本であり、ユウのようなフリーランスのプロゲーマーはこれを目当てに生きていた。



 「しゃあっ、いい引きだぞこれは!!

_____________________

____________

____ ほいっと!」


 25cm程のイカを蔓延の笑みでつりあげたユウは、最前線で働き、一騎当千の働きをした事によって数え切れないほどの金を手に入れたのだ。彼の頭の中には「働く」という名の言葉は一週間前に抹消された言語であって、「ダラダラ」という言葉が彼の頭の9割を占めていた。

釣りあげたイカを針からはずし、血抜きしている最中に後ろからユウの後ろから可愛いらしい声が掛けられた。


 「あー、おかあさん。ふろうしゃがいるよー。こくみんねんきんはらいなよー、おっちゃん」


 「駄目よ、さっちゃん。あの人だってきっとパチンコ屋に朝から並んでその収入で生計建ててる立派な人なんだから。」


 5歳ぐらいの少女がユウに指を指しながら、悪意なく、純粋な善意からか悪い子を諭すような口調でユウに語りかけている。それとは逆に、母親は子供を申し訳程度に叱りつつ、汚物を見るような眼でユウを見ながらユウをフォロー?していた。

この2人と会話を聞いて、血抜きを終えたイカをクーラーボックスに投げ込むユウ。そして大きく息を吸って・・・


 「うっせぇー、だまれ!!見せもんじゃねぇんだよ!!!ガキと専業主婦は家に帰って社畜の旦那の帰りでも待っとけ!!」


 4年前に二十歳を迎えた対応では無い。


 これは目も当てられない。


 正真正銘の駄目人間だ。


 怒鳴り散らしたユウに関わりたくないのか、防波堤でお散歩中の親子は一目散に退散した。

ユウの周りにいたカップルや家族連れを含む全ての人達も、とばっちりを受けたくないので防波堤から他の所へと場所を移して行く。


 「ここに平和を取り戻したよ、僕のイカちゃん。海は漢のテリトリーであって、女は街中でスイーツスイーツとか狂った猿の様に言ってればいいんだよねー♪」


 フェミニズム全開の言葉を、クーラーボックスに入れられた血抜きされ死んでいるイカに蔓延の笑みで語りかけるユウであった。

『なに死んでいるイカにノリノリで語りかけているんだよこの駄目人間』と突っ込んでくれる人間がいない事が悔やまれる。


 「ん、なんだ…」


 何か大きい波音が聞こえるのでクーラーボックスのイカに話しかけるのを辞め、振り返り海を見る。


 「おいおいおい、冗談じゃねぇぞ」


 防波堤から100m先の海から物凄い勢いで10mはあるであろう波が防波堤を目掛けて襲っていた。いまさら逃げても間に合う事が出来ない事を理解したユウは、津波に向けて唾を飛ばしながら叫ぶ。


 「ふざけんなよぉおおおおおおおお、俺の未来には輝かしいニートライフが確定してんだ!!!ちゃんと一生分傭兵で働いてきただろ神様、それも全部このニートライフのためなんだよ!!こんなのヤダヤダ!!ねぇ、神様、見てるんでしょ、ねぇってば!!哀れなぼくちゃんを助けてよ、ねぇ!ねぇ!!」


 ユウは、宗教の勧誘の時は『あ、僕無神論者なんでそういうの間に合ってます』と毎回言って断っているが、人間窮地に立たされると信じてもいない神にでも縋ってしまうのだろう。しかし、ユウの頼み方は幼児退行も加わっており涙目である。例え神がいたとして、見て見なかった事にするに違いない。涙目で幼児退行を起こしているおっさん程見るに堪えないものは無い。


 「sこあふょvはおs;ぴえうらぽそds」


 大津波は無情にもユウを飲み込んだ。


 当然である。


 幸い他の人達は、ユウの悪意によって追い払われており、幸か不幸か巻き込まれたのは彼だけであった。


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