軌道空域編/明日のために①
─反攻作戦前夜─
「つーまーり、ナインはただのひとだったんですなー。」
ガルデニアがマチコ達に、「あなた」がこの世界に引きずり込まれ、ただの学生として、50年分ほどの時間圧縮による学習と訓練を経て、騎士となり、さまざまな戦いを、ひとの生き死にを経て、見続けて、更に鍛え上げられ、今この地球の、楠木基地跡地にいる事が、かいつまんで語られた。
ぱち、ぱちち。
焼け残った柱木を砕いた薪が、軽く爆ぜて、燃える。
ガルデニアの花で保護された基地司令官、及び隊員達は、瓦礫に座り、または寝転び、崩れた壁にもたれて聞いている。
ひゅう、う。
もう冬の風と呼んでもいいそれが、吹く。
隊員達ひとりひとりの来歴を、語り合っていた。
明日、ここへ戻って来れない者もいるかも知れない。
なら、
そのひとの生きて、戦う理由を覚えるために、話を聞く。
死んでしまう前に、自分の話を聞いてもらう。
反攻作戦へのブリーフィング自体は昼間に終わっている。
秋の夜は長い、隊員全員の話を聞くには十分な時間があった。
例えば、ミネザキと言う隊員は、学生の頃好きなひとに告白すると、もうそのひとには恋人がいた。ヤケを起こして単車で暴走した所逮捕され、更生のために放り込まれた訓練校で自分を見つめ直し、彼女とその恋人、いずれ生まれる子ども達を守るために、AADAに入隊した。
「あの時死んでいれば、守ることも出来ませんでした。」
彼はマグカップのスープを飲み干した。
ヨネヒツと言う隊員は、航空機に憧れて、その整備を行うため入隊した。訓練を行ううち、度胸と身体能力、極限状況下での判断力と遂行能力から、ヘリコプターでの空挺降下部隊へ配属された。
「小さい頃から田畑の手伝いで鍛えてまして、ついでに戦闘機の模型が好きだったので、塗装や精密な組み上げをした事で集中力などが鍛えられていたんです。」
彼は平皿を飛行機模型に見立て、片手で「ぶううぅん。」と飛ばすように回った。
誰にでも、そのひとの人生があり、誰もがみんな、その人生を戦っている。
ほうほう、ほう。
近くの鎮守の杜の方向で、アオバズクと名付けられたふくろう、鳥の一種が鳴く。
「あれはもう、秋には南へ渡るはずだ。」
誰かが声を上げた。
「昼間の基地爆発で怪我をしたのかも知れない。」
また誰かが、声を上げる。
「冬を越せるかな。」
恐らく、不可能だろう。
楠木基地周辺は緯度が高い訳では無いものの、十分に冷える。
すちゃ。
誰かが立ち上がる。
「野鳥の保護には厳格な定めがある。」
誰かが声を上げた。
ちゃ。
別の誰かも立ち上がる。
「じゃあオレが独断でやった事にする。罰は謹んでお受け致しますよ、3佐殿。」
はははは。
続々と、隊員達は立ち上がる。
「わかった!」
その彼も立ち上がる。
「アジア─オーストラリア区域防衛機構楠木基地、総員を以て受傷鳥獣の捜索、保護に当たれ!」
その声に全員が、「あなた」達も「了解!」と叫び、杜へ向かい駆け出す。
基地司令官も走っている。
明日、生きて帰れない者がいるかも知れない。
むしろ、犠牲が出るのは必然だ。
ヒュネアとイヴの同型機は、専用のロミネンシアに搭乗しなくとも、「あなた」が全球大会で戦ったように、戦域の支配力が高い。
彼女らの姉妹達は、当然無制限のロミネンシアで、現在も殺戮を行なっている。
「あなた」は月軌道空域でΔの侵攻艦隊を叩くため、一般兵の彼らが陽動としてイールアンゼ、フィカスシリーズと戦う事になる。
死は免れない。
それでも─、
ジジ、
通信が入る。
「保護ー!」
隊員達の手で、燃える薪の近くへ運ばれたアオバズクは、茹でられたレーションを啄む。
「あなた」たちは、明日のために今日を生きる。




