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【単】羊と魔王の【統】べらない話

作者: ラじさん
掲載日:2026/02/08

連載中小説のプロローグ+1話です。

思いの外まとまったので読切で投稿します。






一人の男が、玉座に深く腰掛けて物憂げな表情で上方を見上げている。

その視線の先には絢爛なシャンデリアが光も灯さず吊り下がっていたが、しかし彼の視線は何を捉えるでもなく彼方を移ろうばかりであった。

彼の者は、魔王。

彼は今、激動の時代の真っ只中にいた。






―――――――――――――――――






5年前、暴虐の限りを尽くした前魔王を打ち倒し、実力至上主義である魔界において新たなる魔王の座を勝ち取った。



「うおおお滅せよ!!セイントテラインパクトオオォォォ!!!!!」

「ぐあああああ!!なんと神々しい正拳突きだ、魔族のくせにいいぃぃぃ!!!!!」





3年前、当時統率の取れていなかった魔族をまとめあげ、魔王軍として編成。

無法であった魔界の世を平定した。



「魔王様、城下再開発の案を確認させていただいたのですが」

「どう?」

「魔王城の周りを全て飲食店で固めるのはちょっとどうかと思います」

「え〜でもその日の気分で店変えたくない?」

「1ローテするのに1シーズンかかります。あと遊園地作るのは百歩譲っていいとして、2つもいりません。ランドとシーじゃないんですから」

「え〜そこはじゃあほら、アダムとイブみたいな」

「神話かよ」





そして1日前

魔王城下の再開発は完了し、完成を記念した盛大なパーティーが行われた。

それはもう宴の中の宴と呼ぶに相応しい宴であった。



「うわははは!うわははは!」

「よっ、魔王様!魔界一!宇宙一!なろう一!」

「いや〜ワシなろう一…なろう一!?ワシなろう一か〜!うわははは!」

「魔王様?コチラもお飲みになってください」

「おおっとぉ!おっとぉ?おっとっとっとぉ〜(笑)」

「やだ〜魔王様!スケベ!」


両手にサキュバス、肉に酒。

そりゃあもう魔王はこれ以上ないぐらいにご機嫌であった。

その様子を少し離れた所から、瞳孔が細長い特徴的な瞳がジットリと()()()()()いるが、魔王はトンと気付かない。

そりゃあもう魔王はこれ以上ないぐらいにご機嫌だったからである。そりゃあもう。



「いやぁ魔王様、魔王様のお力のおかげで魔界は安泰、この魔王軍も磐石となった訳ですが…」

頃合を見計らい、そう話を切り出す1人の男。

この宴の間魔王と共に語らい、散々持ち上げてきた男は、声のトーンを抑え顔を突き合わせるようにして続けた。


「魔王軍はこの先、どのように動くべきでしょう?」

「うん?」

「魔王様のお力があれば大抵の事は容易いかと思いますが、魔族の力が1つとなった今…やはり人類滅亡に向けて攻撃を仕掛けるべきでしょうか?」

「ん〜?あ〜そうねえ〜」

調子良く酒を飲んで顔を赤くしていた男の目は、しかしその奥で鋭さを湛えていた。

そんな男の事など一瞥もせず、魔王は顎に手をやり思わせ振りに唸る。


「まあワシがちょっと本気出せば人類なんてちょちょいのちょいだと思うけどね〜」

「勿論でございます。そして人類滅亡は私ども魔族の悲願…!」

「ん〜」

深く考え込むように瞼を閉じる魔王。

その様子を焦れる事なくジッと伺う男。

そして、魔王の目が勿体つけるように開かれた。


「ワシの力があれば?」

「魔王様のお力に比肩するものなど、この世には存在しません!」

「魔族的にはやっぱり?」

「魔族的にはやはり、真に目指すべきは人類滅亡かと存じます…!」

「ん~まあ〜…そうね!魔族的にはそういう高みを目指すのも悪いことじゃないと思うし、まあいいかもね!」

「おお…!では魔王様、今日より魔族は人類滅亡に向けて一丸となって歩み出すという事よろしいですかな!」

その男の言葉が耳に入った周りの魔族は一様に色めき立つ。


なに、戦争か!?

遂に人類と戦う時が来たか!

魔王様が開戦するおつもりらしいぞ!

ヤッテヤルデス!

………

……



周囲が異様な盛り上がりを見せる中、しかし魔王は意に介さない。

隣のサキュバスにお触りをして怒られないギリギリのラインを探る事に集中していたのだった。





―――――――――――――――――





それが、1日前の事。昨日の事である。

正確に言えばそれは昨晩の22時頃の事なので、18時間前の出来事であった。


魔王は耳を澄ます。シンとした玉座の間に、外の音が響く。

今、魔王城には数万を超える魔族が集結し、広場は興奮した魔族で溢れかえっていた。

その者たちの怒声が、嬌声が、歓声が、この玉座の間に届いてくる。

魔王が人間に宣戦布告せり―――

それを聞き駆けつけてきた者達であった。



魔王は上を見上げた顔を、両の手で覆い隠す。

深く息を吸い、そして、吐いた。



どーーーーーすっかなぁ…



彼の者は、魔王。

激動の時代の真っ只中にいる彼は、そりゃあもうこれ以上ないぐらいに狼狽しているのであった。






―――――――――――――――――





魔王城


見上げる程に巨大なその城には凶悪な魔族が控え、魔王に挑まんとする愚かな侵入者を容赦無く屠る文字通りの"魔窟"であった。

濃密な瘴気が漂っているため付近には草木一本足りとも残らず、見る者の精神に死と畏怖を深く刻み込む恐怖の象徴であった。







と、いうのは5年前までの話。

瘴気を撒き散らす毒沼や特定の魔族は撤去・移動させ、とりあえずそこら辺の木や植物を移設させて緑化に努めた。かつては低級魔族もその敷地を跨ぐことを許されていなかったが、簡単な検問だけ付けて全面的に開放した。(今のところ立寄る者などほとんどいないが)

因みに開放時間は朝9時から夜6時まで。土日休みである。

オープンでクリーンでホワイトな魔王軍、とりあえず目指したのはそういうイメージ戦略だ。

本当は城そのものも建て替えて、東方の国ジパンヌ基準で言うところのちょっと控えめなタワーマンションぐらいの高さにしたかったのだが『魔族を統べる者としての威厳が無くなる』という理由で却下された。

それにしたってそこらの山を軽く超えるような高さは要らなくないか?

隠居後は平屋の一戸建て暮らしに憧れる魔王的にはそういう感覚だった。



1回、2回。

ノックの音が響く。

魔王城の最深部に位置する玉座の間は、部屋の主たる魔王の希望にある程度沿って改築がされていた。


何しろ以前の玉座の間など4000坪程(※1)あったのである。周囲には建物への被害を防ぐ結界こそあれど、部屋に鎮座するのは玉座がポツンと一脚のみ。

前魔王が自身の戦闘に耐えうるよう究極的に実用化した結果らしいが、冷暖房効率は最悪だし天井の埃の掃除は大変だし、来客が来た時に入口から玉座まで来るまでの()が持たなくて気まずいしで最悪だった。『玉座の間に辿り着いたんだが何歩目で魔王に話しかけるか安価(※2)で決めようぜ』というネタスレが建ったこともあったとかなんとか。


現在は玉座に机、書類を納める棚に来客用の応接スペースが100坪程の部屋に納められている、広めの執務室の様な形に設えてある。

本当は行き来が面倒なので魔王城の最奥から出入口近くに移動したかったのだが却下された。

理由は推して知るべし。



そんな玉座の間に響いたノックの音に続くのは、静寂。

しかし悠長な事は言っていられないのか、許可を待たずして扉は開かれた。

「失礼します」

部屋に入って来たのは一人の女性であった。

人であれば年の頃は20歳前後の見た目であろうか。

しかし魔王城の、それも最奥ともなれば人の出入りなど滅多に無い。

彼女は部屋に入ると、一礼もそこそこに部屋の奥へと足早に向かっていった。


「魔王さ」

ま、と続くべき言葉は、しかし視界に飛び込む光景に飲み込まれて消えていった。


「そんなに真剣な表情で何をされているのですか?」

「ジェンガ」

右に左に、不安定に揺れながらそれでも倒れない塔を身の丈ほどに積み上げる魔王。

頭痛を堪えるように皺の寄る眉間に手を当てて、女は溜め息を一つついた。


「やりたくない事から目を背けても状況は悪化する一方ですよ」

「くっ…夏休み最終盤に子を諭す母親の様な事を言いおって」

「私は最初の方にあらかた片付けておくタイプでしたので」

現状を放置して状況が良くなる訳ではない事、まして放置しておける状況ではない事くらいは流石の魔王も理解している。

渋々といった感じで一思いに塔を崩し、目の前の女性と向き合った。


彼女の名はカペルコと言う。

少しくすんだ白の癖っ毛は肩口あたりで揃えられ、頭には下向きにくるりと弧を描く角が上方に、筒のような耳が下方に向かって生えている。魔王を見つめる瞳には、有蹄類(※3)を思わせる横に長い楕円形の瞳孔が備えられていた。

それらの特徴は消炭色の肌と相まって彼女が人ならざる者である事を示している。

白のシャツはボタンを1番上まで留めてあり、胸元には赤いリボン。そこに合わせるのは黒のスラックス。

飾り気も化粧っ気も無いが、そこがかえって好感が持てて良いねと魔王は思っている。

いつも気苦労が多そうな表情をしているのが勿体ないのだが、その原因は大抵他ならぬ魔王が大部分を占めているので何も言えなかった。


本人曰くサキュバスの血が混ざっているらしい。

サキュバスと言えばその豊満な身体と蠱惑的な仕草で男性を魅了する魔族として有名だが、実際の彼女は…



まあ今はまだ発展途上なのだろう。魔王的にはそういう、出るべき所の大きい小さいにはこだわりが無いので特に気にしていなかった。

魔王は今しがたの塔のように崩れてバラバラになりそうな威厳を取り戻そうと、咳払いを1つして厳めしい表情を作った。

「今の状況は?」

「魔王様、本題に入る前に1つよろしいでしょうか」

若干眉間に皺を寄せてカペルコは言う。

「さり気ないつもりでも、女性の胸元を見る行為は案外気付かれていますので今後は気を付けてください」

「…」



いや、違うんよ…

今のはこう、初登場となるキャラの詳細を少しでも掘り下げるためにさ…

悪魔っ娘でサキュバスと続いたら、やっぱり押さえておかない訳にはいかないじゃん…



「違うんよ…」

「何が違うのかは分かりませんが、とにかく違うという事だけは伝わりました」

カペルコは閉目してため息を一つつく。こんな事は日常茶飯事なようで、気を取り直して話を戻した。

「改めて現在の状況をお伝えいたしますが、今現在1万程の魔族が魔王城広場に集結し、納まりきらない魔族が城外に溢れています。『魔王が人間に宣戦を布告する決起会』に集まったようです」

「うん、横断幕があったの見た。思わず二度見した」

重ねて言うが、魔王が酒の場でポロっと口を滑らせたのが昨日の事。

それが一晩でこのセレモニーが企画され、そして実行されたのである。

そのバイタリティを他の事に使ってくれよと切に思う魔王であった。


「そして、魔王様の演説が予定されていたのが1時間前です」

「あ~もうそんなになる?今どんな感じ?」

「一先ずは無理を言って四天王のディリゲス様に場を繋いでいただいていますが…」

「ワシが悪いんだけど申し訳ないなあ…でもこの1万の群衆を前にして今何やってるの?」

「そうですね…」

閉じられたカーテンからこっそりと広場を覗き見るカペリコ。その状態のまま、魔王の問いに答えた。

「小島よしおのモノマネをやってますね」

「え~~~この1万の群衆を前にして?勇者過ぎない?」

「私もちょっとびっくりしました」

「群衆の反応は?」

「普通に盛り上がってる所もあれば、『カ・エ・レ!カ・エ・レ!』って野次を飛ばす集団もありますね」

「たとえ少数でも盛り上げられてるという事実がディリゲスの心の支えになっているんだろうなあ」

「あ、こちらに気付いたようでチラチラと視線を寄こしてきますね。助けを求めているみたいです」

「ワンチャン『俺の雄姿をそこで見ていてくれ!』とかじゃなく?」

「『ダイジョブダイジョブ~』を逆立ちしながらやってる所に、多分タロットの逆位置的な意味合いを込めているんだと思います」

「めんどくさっ。お前もよくそこに気付いたな」

「いかがなされますか?」

姿勢はそのままに、チラリと魔王を一瞥するカペリコ。

小島よしお(ディリゲス)を本気で心配する素振りが無い所に、結構こいつも人が悪いよなと思う。


「う~ん他の四天王にも頑張って出てもらうか。ウェーロは?」

「今も他の魔族に片っ端から声をかけて魔王城に集めているみたいです」

「アイツか!どおりでこうも際限無しに集まりよると思った」

「亜音速で飛び回れるんでこういう事に適任なんでしょうね」

「アイツの事だからある事ない事言って集め回ってる気がしないでもないな…じゃあドルスは?」

「集まった魔族の誘導や部下への指示出しで手一杯かと思われます」

「あ~、まあそもそも今回のきっかけもドルスとの会話がきっかけだったし、このセレモニーの企画も主導したみたいだしね」

「飲み会の時の魔王様、楽しそうでしたからね」

「ああいや、まあうん」

「隣のサキュバスのおしりを触ろうとして手をはたかれていましたよね」

「いやまあ、それはその」

「鼻の下伸びてましたよ」

「いやうん、あの、ほんとごめん」

「魔王様といえど訴えられたら負けますからね」

「ごめんって!ごめんって!」

しどろもどろになる魔王を半目で見るカペリコ。

彼女としてはドルスについてもう少し思うところがあるのだが、口に出す立場では無いと弁えている。


「じゃああの…エフレナは?」

「エフレナ様は…」

カペリコは視線を群衆に戻した。

「野次を飛ばす集団を先導しています」

「あいつホンマ!ホンマあいつ!」

「今は場を収集させようとしているドルス様と言い争っているようですが…」

「ドルスも苦労が耐えないな…でもこれでディリゲスもやりやすくなったか?」

「というか群衆の関心が四天王2人の口論に移って、ディリゲス様はほとんど注目されていませんね」

「ディリゲス…」

四天王を編成した時のディリゲスの表情が目に浮かぶ。

真面目で堅い男であった。『魔王様の為なら、この命に代えても命令を遂行いたします!』と力強く頼もしい意気込みを語ってくれた。

その時はまさか海パン一丁になって群衆の前で芸を披露(そんなの関係ねえ)することになるとは夢にも思わなかっただろう。ワシも思わなかった。


「魔王様、最早ディリゲス様で場を収めるのは限界です」

「まあそれはそうだろう。むしろここまで良くやったと感心してる。本当に」

「最早魔王様に出ていただくしかないかと」

「う〜んそれはそうかもしれんが…別にワシ戦争したい訳じゃないしなぁ」

「それならむしろ『戦争はしない!』ってはっきり言ったらどうですか?」

「散々待たせた挙句にのこのこと出て行ってそれ言ったらワシここに集まった1万の群衆に殺されない?」

「正直言って身の安全は保証できませんね」

「う~ん…それに今頭ごなしに対人類を否定しちゃうのも、魔族の根幹的なモチベーションに関わっちゃうと思うんだよなぁ」

腕を組んで唸る魔王。

魔王とてこの1時間何もせずに問題を先延ばしにしていた訳では無い。

どうすれば開戦を免れるか、しかしこの集まった魔族にどのような言葉をかければそれが実現されるだろうか?

それとも開戦をした上で落とし所を作って被害を抑えるか、しかし開戦をすれば魔族と人類双方に少なからぬ被害が出るだろう。

それとも武力でもってこの場を制圧するか、それでは前魔王とやり方が変わらないし、そもそも出来るかどうか分からない。最悪死ぬ。

そんな事で堂々巡りをしていた所、視界の隅に移ったジェンガをちょっと触ってみたら思いの外熱中してしまっていた。

つまるところ言ってしまえば、ジェンガで遊びながら問題を先延ばしにしていた訳であった。


「まあ…仕方あるまい。嫌だけどワシが出よう。ホント嫌だけど」

「魔王様、言葉の節々に情けなさが滲み出ていますが英断かと思われます」

「ありがとう。それ褒めてる?」

「しかし一体どうされるおつもりですか?」

「とりあえず集まった者達の前に出て、あとはまあ、流れでなんとかする」

「当たって砕けろとは言いますがそれにしたって無鉄砲というか、考え無しすぎませんか?」

「最悪サンボマスターでも歌ってごまかそうと思う。昨日の二次会でも盛り上がったし」

「やめてください。おそらくは普通に想定し得る最悪の状況を軽く超える悪手かと思われます」

「まあ任せておけ、一回決心したらなんとかなる気がしてきた。今出ようと思うが状況に変わりはないか?」

「そうですね…野次が『コ・ロ・ス!コ・ロ・ス!』に変わりました」

「やめてよ~僅か一行で魔王の決心を揺るがすの」

「人間を殺すなのか、いつまでも出てこない魔王様を殺すなのか、二つに一つじゃないですか?」

「そんなリスキーなニブイチ踏みたくないよワシ」

「諦めないでください、どんな時も」

「いやそんなサンボマスター風に励まされても響かんよ…は~もうホントどうしよう。いっそ集まった魔族が飽きて帰るまでこのままディリゲスに粘ってもらおうかな」

「それはディリゲス様にあまりにも酷だと思うのですが…」

群衆の状況を様子見続けるカペリコだったが、おや、と驚いたように眉を持ち上げた。


「魔王様、群衆に動きがありました」

「お、なんだ?良い知らせか?グッド・ニュースか?」

「集まっていた群衆が帰り始めました」

「え~えええ?帰り始めた!?」

「はい」

「え~いやまあ、正直これ以上ないぐらいグッドな気もするんだけど、なんでだ?」

「定時ですね」

「え~~~~~定時て、定時オチて。いや確かに普段から守るように奨励してたけどさあ…」

「正確に言うと一部の魔族が定時だから帰り始めて、周りの魔族もなあなあで帰り始めているみたいです」

「あ~分かる。周りが帰り始めると『あれ?帰った方がいいのかな?』って気分になるよな」

カペリコの傍に寄ってそっと外を覗き見る魔王。

そこには確かに魔王城の外に向かって動く群衆の流れがあった。その中には今回の騒動の中で思い思いに動いた四天王達の姿が見える。

エフレナはまるで祭りの後のような晴れやかな笑顔で周りの魔族と肩を組み飲み屋街に向かっていく。

ドルスは帰ろうとする魔族達を涙目になりながら引き留めていた。

空の彼方に見える高速で移動する物体はおそらくウェーロだろう。

そしてディリゲスはステージの上で膝立ちになり、燃え尽きたように頭をがくりと落とし項垂れていた。


「冒頭のオープンでクリーンでホワイトな魔王軍のイメージ戦略がここで活きましたね、魔王様」

「冒頭のオープンでクリーンでホワイトなイメージ戦略はここに繋がっていたんだな…」

ただ少なくとも一人にとっては暗黒ですら生温い超絶ブラックである事には間違いないだろう。

「今回ばかりは人間界のノー残業という概念に助けられたなあ…」


魔族には無いものを人間は持ち、人間に無いものを魔族は持っている。

お互いが対立し、疲弊し、消耗するよりも、認め合い、手を取り合い、研鑽し合う事を魔王は理想としていた。

その理想を実現させる為の障害の数は、少なくとも魔王には見当もつかない。

ただし、少なくとも魔族間の争いは治めさせた。それだけの力が魔王、ロムレクスには有るのである。

(とてもそうは見えないけど)

群衆が散り散りになる様を見て喜ぶ魔王を、横目で見つめるカペリコ。

多分この方は自分の胸元を見られても全く気付かないんだろうな、と思うのであった。










「魔王様、今回の事態は一先ず収束しましたが、仕事があります」

「ん、なんだ?」

「この床に散らばった数百のジェンガ、片付けましょうね」

「あ~」







――――――――――



※1 4000坪

4000坪はジパンヌ基準で東京ドーム1個分、100坪は4LDKマンション1部屋分程度

誰にでも分かりやすい、それがジパンヌ基準


※2 安価

古のネットスラング

掲示板の書込みには番号が付くので、『何番目に書込みした人の指示に従おうぜ』という知的で高尚な遊びをする際の『何番目』を示す言葉。

因みに魔王は過去同一スレッドにおいて50連続でアンカーを踏み抜き、そのコテハンから「スナイパーロムぽん」として恐れられた。


※3 有蹄類

文字通り(ひづめ)を持つ動物。馬や鹿、羊や山羊など。

瞳孔が横長な事により視野角がほぼ360°にまで広がるというが、しかしそれは顔の両側面に目が付いていてこそ。

人型のカペルコはどうなのか聞いてみると「他の人よりも若干視野が広いぐらい」という事だった。

それにしては後ろを向いているときにサボろうとするとすぐバレるので、多分嘘を付いているんだと魔王は思っている。

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