表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

巨神現る

 

最初は隕石かと思った。

 

山岳から突如として現れた怪獣を前に、朝食代わりにする筈だったメロンパンを投げ捨て一目散に逃げ出した葵は絶望の最中にあった。怪獣のその巨体故に人間がどれだけ本気で走ろうと一瞬で追いつかれてしまうのだ。人がたった一歩で蟻の数百歩を簡単に通り越してしまうかの様に。幸い、スタートラインに大きな差があった為まだ追いつかれてはいない。しかし時間の問題だろう。葵は逃げ始める前の茫然としていた時間ーその間に、十数分前に葵がメロンパンを買ったパン屋の店員が踏み潰されるのを見た。怪獣のその力を持ってすれば万物の霊長なぞ一瞬にして肉片と化すのだと思い知らされた。

怪獣は商店街の道を覆うアーチ状の天井を簡単に突き破り、飛散した天井の一部が特撮のミニチュアの様に四方へ飛んでいった。正しくそれは怪獣映画のワンシーンを思わせる光景であった。

ーミニチュアの町に立つ巨影ー

だがそれは紛れもなく現実だった。怪獣が一歩踏み出す毎にアスファルトの大地に亀裂が走り、一瞬の内に土煙と共にプラ板の様に細かくなったアスファルトが宙を舞い、巨大な足跡が連なっていった。怪獣が何十本と電柱を吹き飛ばしたので近隣一帯は停電になっていた。

葵はこんな事ならちゃんと大学まで急いでおけば良かったと思った。呼吸を整える為に立ち止まったーその僅かの合間に怪獣は数メートル以上を移動していた。このままではジリ貧だと葵は思った。どうにかして生き残る為には?

 

突如、空が曇った。

 

いや、そうでは無い。何か巨大な物が降ってくるー

ドキュメンタリで見た原子爆弾が落とされた瞬間を想起させる様な轟音、火山の噴火を思わせる途轍もなく巨大な土煙と粉塵。

全身に叩きつける様な強風を感じたーその直後、一瞬にして葵は数十メートルもの距離を宙を舞って落下した。

ぐしゃりと嫌な音が全身から鳴ったのを葵は聞いた。

 

土煙がおさまるとクレーターの中に巨大な人が立っていた。

 

身の丈は50メートル以上あるだろう。

特筆すべきは全身が白かった。まだ何も塗られいないキャンバスを思わせる白だ。表皮はのっぺりとしていて更に体つきは男性とも女性ともとれない。性別を表すものはー男性器も女陰も乳房の類も一存在し無かった。顔は地球人のそれとかけ離れている。鼻と耳は退化して小さな出っ張りの様な痕跡器官を残すのみとなっている。眉毛やまつ毛はおろか瞼も無く、恐らく眼球を保護する為と思わしきゴーグル状の器官が存在している。口はあるが唇は痕跡すら見出せず、真一文字にきつく閉じられていた。頭部には長髪の様な触手が何本も生えており、それぞれが独立した意思を持つかの様に蠢く様は伝承上の怪物ーメドゥーサを想起させた。

 

怪獣と巨人は時間が停止したかの様に一ミリたりとも動く事なく睨み合った。数瞬の間をおいて先手を切ったのは怪獣だった。巨体を震わせ前後に動いて勢いをつけると、巨人目掛けて猛烈な勢いで直線上のあまねく物体を踏み潰し吹き飛ばしながら突進した。粉塵で怪獣の姿は目視出来なくなった。巨人は一飛びで山を飛び越える程の高さまで軽々と跳躍し相手の元居た位置に降り立った。怪獣は巨人の方へと向き直り再度突進攻撃を行った。巨人はまたも跳躍した。怪獣が向き直り三度突進を行い巨人は三度跳躍した。街にクレーターを増やすだけのループが行われたが四度目は無かった。三度目の降着を済ませた巨人は怪獣へと向き合い、今度は突進を敢行せんとする怪獣に対して腰を低く落とした姿勢で正面から向き合った。果たして、怪獣は四度目の突進を行ったが巨人の髪の様な触手が鞭の様にしなり横っ腹を突いて吹き飛ばした。

 

自分が相手の手玉に取られている事を理解した四足歩行獣は作戦を変更し鉤爪で相手を引き裂く事にした。

怪獣は全力で大地を駆け、巨人の手前で立ち上がり自慢の鉤爪を持った前足を力の限り振りかぶった。巨人は棒立ちと言っても差し支えない体勢でそれを眺めている。このまま相手の攻撃を受け入れれば致命傷は免れない様に思えた。

 

突如、一文字に閉じていた巨人の口が開き口腔から管が突き出された。管から青白い液体が猛烈な勢いで噴出し、巨人の眼前で仁王立ちする怪獣の顔から腹部にかけてかかった。巨人はバックステップで怪獣から距離を取った。液体を掛けられた怪獣は酷く苦しみ出し、周囲一帯に据えた臭いが充満した。

巨人が放ったのは強力な溶解液だったのだ。

 

怪獣はもがき苦しみ続けている。顔から胸にかけて溶解液が直撃した箇所は酷くただれ、特に頭部においては右側の眼球が外側に露出しかけている。

怪獣は胸部を掻きむしり、くぐもった声をあげながらのたうち回った。四肢を振り回す力が徐々に弱まり、やがて全身を僅かに痙攣させるのみとなった。数分後、巨体は完全に沈黙した。

 

巨人は怪獣の死を見届け強烈な閃光と共に一瞬にして影も形も無くなった。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ