表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

青天の霹靂

 

暗い。洞穴だろうか?洞窟だろうか?

そもそも洞穴と洞窟の違いって何だっけ?

進んでみる。奥に誰かいる。

一人や二人じゃない。たくさんいる。

大勢で何かを囲んでいる。何かしている。何だろう?

祠だ。祠の周りをたくさんの人が囲っている。

灯りがついた。

人は皆、同じ姿をしていた。

髪は無く首は弛んで幾つもの皺が鰓の様になっている。

眼球は大きく開きまるで魚の様だ。

いや、違う。あれは魚の様では無く本当に魚人なんだ。

魚人の一人が祠の前に何かを運ぼうとしている。供物だろうか?

何か長い物が垂れたボールの様な物…

見てはいけないと本能が警鐘を鳴らした。

だが瞼を閉じる事も視線を逸らす事も出来ず、金縛りにあった様に供物を注視した。

あれは首だ。人の生首。

垂れた長い物は髪だった。

切り落とされた直後なのか、首の断面からはまだだらだらと血が流れ落ちていく。

そして首の顔がはっきりと見えた。

あれは私だ。

 

いあ!ようぐそうとほうとふ!いあ!くとひゅーるーひゅー!

おうぐとふろうど えいあいふ ぎーぶる いーいーふ!

ようぐそうとほうとふ んげいふるぐ えいあいゆ ずふろう!

 

 

いやぁぁぁぁ!

 

 

早川葵は悲鳴と共に跳ね起きた。汗をぐっしょりとかいている。ベッドの上で呼吸が落ち着くのを待った。ようやく落ち着いてきた頃、目覚ましが作動していない事に気がついた。部屋のカーテンを開けるといつもより日が高い位置にある。慌てて時計を見ると針は8時40分を示していた。大学の1限目は9時半からだ。どんなに速い手段を用いても大学まで30分以上かかる。

遅刻じゃん!

最悪、朝食を抜くとしても現役大学生の女子が寝巻き姿のまま外出するのは容認できないと葵は思った。

兎にも角にも、さっさと着替えを済ませ1番早い手段である電車を使うしかないだろう。こんな事なら大学が始まる前に免許取っておけば良かったと葵は思った。それなりのコーデを選び講義に必要な物を一式確認して家を出る頃には9時を僅かに過ぎていた。最寄りの駅まで全力ダッシュを敢行し何とか電車に乗り遅れると言う最悪の事態だけは免れた。

とりあえずは一安心ね。

電車に揺さぶられながら葵はスマホのニュースサイトを開き、昨晩に近隣で地震が発生していた事を知った。

普段なら朝食をとりながら、テレビのニュースを見るのだが今日はその時間は無かったのでこの時間になるまで知らなかった。そして、葵にとっては最悪のニュースだった。電車は大学のある久都流布市の駅までは行かずに、幾つか前の駐車駅で停車するらしい。そこから久都流布市までは運行休止との事だった。

全然一安心じゃない!

葵は停車するや否や飛び出す様にホームを駆け抜け駅から飛び出した。ここから先は徒歩だ。絶対間に合わない。

ちょっと待って、どうせ間に合わないならこれ以上急がなくても良くない?

そう思うと途端に気が楽になった。

1限に間に合わ無くても2限に間に合えばいいじゃない。

葵は今まで電車の窓から眺めるだけだったこの町ー降星町ーを散策する事にした。それが葵の一生を左右する決断になるとはこの時は思ってもみなかった。

 

午前9時40分頃 降星町郊外 多々良山

猛烈な地割れと共に巨大な影が粉塵を撒き散らしながら現れた。巨影は空気を震わせる咆哮と共に市内に向かって進行を開始した。小さな丘の上の公園で朝食代わりのメロンパンにありついていた葵はその姿をいち早く目撃した。

体調は4〜50メートルはあろうか。ごつごつとした岩肌の様な浅黒い肌を持ち瞳には白目だとか瞳孔だとかは全く無く意思があるのかどうかの判断はつかなかった。その漆黒の全てを吸い込む深淵の様な瞳は、見る者全てに恐怖の念を抱かせるには十二分と言った程だ。頭部が全身と比較してかなり小振りであったり、頭部を低く構えて四足歩行で移動しているのは地中から現れた事から類推出来るのだろうが、その姿を認めた大半の人間にはそんな余裕は無かった。

ここまで思案する余裕を持っていたのは、葵が生物学の知識を持ち合わせていたからに過ぎなかった。しかし、葵も尋常ならざる速度で真っ直ぐ向かってくる巨体を前に悲鳴をあげて逃げ惑う他に無かった。

 

怪獣と言う通称が用いられる様になるのは、全てが解決してから政府の緊急発表が行われたーその日以降だ。

一説によると「怪獣」の名が歴史上最初に登場したのは、中国の怪異についてまとめられた「山海経」であると言う。

怪獣等と言うものはこれまで御伽話だとか映画の中に登場するフィクションー架空の産物ーに過ぎない存在だった。

そんな存在が現実に姿を現し大地を踏み咆哮を震わせ、人を踏み、家を壊し、町を壊し、人々の生活を壊し、幸福を奪っていた。

そう、これは正に

 

ー青天の霹靂ー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ