3話
徐々に視界が明るくなってくる中、俺は一人これからのことについて考えていた。
まずは魔王討伐の仲間探しから始めるのが無難かな。俺だけで討伐するってのは無茶だよなぁ。この世界の人間が太刀打ちできる存在じゃないってことは言ってたけど、それでも世界最強クラスの仲間たちを集めれば俺の力になってくれるだろう。
少しでも自分の負担を減らしておかないとな、俺って魔王に確実に勝てるわけじゃないんだ。そもそも、そんな力があるんだったら魔王の目の間に転生すれば済む話だしな。
「おっと、やっと視界が戻ってきたか」
俺はゆっくりと周囲を見渡した。
何の変哲もない森である。何か特筆すべきことでもあるのかと思っていたが、本当に何も語ることがない。周囲を見た限りではモンスター何ていないし、まだまだ平和な世界で生きていけそうだ。
「とりあえずは、この森の近くにあるって言う町を目指そうか。何となく町の方向がわかるのはじいさんのおかげかな」
不思議なことにどっちに向かって歩けば町につくのか何となくわかるのだ。
どういことなんだろうか……細かいところで困らないようにしてくれるって言っていたのはこういうことだったのか?
少しずつ町を進んでいると、今まで歩いていたけものみちとも呼べない森の中から、人が通っていそうな道に出てきた。
「やっぱりこっちであってたんだな。この道をまっすぐ進めば町につくんだろうな。マジで、この謎の勘みたいなの不思議でたまらないな」
頭の中で勝手に進むほうがわかるって言うのは相当不思議な感覚だ。
俺が町に行きたいと思った瞬間に進むべき方角が脳裏に浮かぶ。しかもこの様子だと、間違いないんだろう。
ガサガサッ。
「なんだ?」
俺が歩いているすぐ近くの茂みから草をこするような音が聞こえてきた。
もしかしたら、この世界に来てから初モンスターかもしれないぞ。町の近くだって話だし、それほど強力なモンスターじゃないかもしれないが、モンスターはモンスターに違いない。実戦経験を積むのに持って来いの相手だよな。
「おら、出てこいや!! いや、でもちょっと怖いな……出てくるんだったらゆっくり出てきてくれよぉ」
いくらじいさんから貰ったチート能力があるとは言っても、俺自身まだ一度も使ったことがないし、モンスターとも初の戦闘だ。どうしてもそれなりに恐怖がある。
俺が魔法が使えても、モンスターからの攻撃を喰らってしまえば関係ないもんな。痛いのは嫌だぞ。
「ギャギャ?」
茂みから出てきたのは、緑色の肌の子供のようなモンスターだった。
「ほんとに来やがった。こいつは間違いなくモンスターだよな。まぁ、俺よりも小さいし行けるか」
ちょっと肌の色がおかしいだけに見えるが、顔が明らかに人間のそれではない。不気味な表情に鋭い牙、視界に入れるだけで圧倒的に異質なオーラを放っている。
見たところ武器も持っていないし、相当下位のモンスターなんだろうな。こいつくらいなら普通の人間が戦っても平気で勝てそうだ。
俺からしてみれば、中級魔法を一発ぶち込んでしまえば終わりって言う話なんだが、まだ加減をする練習すらできていない。軽く放ったつもりでもうまく加減できていなければこの森を焼け野原に変えてしまう可能性があるんだよな。ここは、一旦身体強化魔法で試してみるか。身体強化なら少し加減をミスったくらいで大惨事にはならないよな? 炎魔法なんかで加減をミスった日には冗談抜きで焼け野原だ。
「こんな感じか? っせい」
自分の身体能力を強化するイメージでそれとなく、魔法を行使してみる。これも、何となく使い方がわかるんだよな。一応、すべての中級魔法を使えるって言うのが俺のチート能力だし、そのあたりはちゃんとしてくれているんだろうな。今回の魔法もうまくかかっているはずだ。どれくらいの魔力を消費してかけているのかわからないのが若干怖いが、物は試しだ。しっかり加減はしたつもりだ、これで何かやらかしたらそれは次回への反省として受け止めよう。
「いつでもいいぞ? かかって来いよ」
モンスターに向かって挑発してみるが、俺の言葉を理解している様子がない。
ただ不気味な目で俺のことをじろじろと観察しているだけだ。俺が圧倒的格上だと気が付いた様子はないし、仕掛けてくるのは時間の問題か?
「どうしたんだよ、来ないならこっちから行くぞ!!」
俺はサッと地面を蹴り駆け出した。
ほんの一瞬でモンスターとの距離を詰めきり、顔面へとパンチが吸い込まれて行った。
ドガッ!!
かなり鈍い音がして、モンスターの首はおかしな方向へ曲がってしまった。
ドサッ。
そのまま力なく地面へ倒れこみ、痙攣を起こしてやがて動かなくなった。
勝負は一瞬で、モンスターは反応すらできていなかった。これが、軽くかけたはずの身体強化魔法の効果だ。
「やべぇよ。この調子だと、魔王だって楽勝なんじゃねぇか? よっしゃー!! 俺が魔王を倒してこの世界を救ってやるからな!!」
でかい声で宣言して俺は気分よく歩き出した。




