2話
「無理って何だよ。俺は魔王を倒せるくらいのすげぇ適性を持ってるんだろ? それが、どうして何でも選べるっていったチート能力が無理って話になるんだよ」
「まぁ、話を聞くんじゃ。確かにおぬしの適性は過去類を見ないくらいに凄いものがあるんじゃが、それがどうしたことか魔法だけで見たらじゃな、なぜか中級魔法しか使えんのじゃよ。こればっかりはなんでかわしにもわからん。その代わりおぬしの魔力はほぼ無限みたいなもんじゃからそこを考えると魔法を能力にするのは全然ありじゃぞ」
「いや、中級魔法って聞くだけで弱そうな雰囲気が漂ってるじゃねぇか。絶対普通の人でも使えるような魔法だろ? その魔法でどうして魔王を倒すなんてことができるんだ? じいさんふざけてるだろ」
これは俺の適性が凄いってのも嘘なのかもしれない。俺は体よく利用されているに過ぎないのかな……魔王に挑ませて即死する無様な姿を晒すためだけに転生させられるんだ。
よく考えてみたら、俺がそんなすさまじい適性を持ってるわけがないんだ。だって、俺は今まで普通に生活していただけの高校生だぜ? どこにそれらしい心当たりがどこにあるって言うんだ。
「おぬしは魔法について正しく理解しておらんようじゃの。魔法の威力のすべてが魔法のレベルで来ますわけじゃないんじゃぞ。大きな要因の一つであることは間違いないが、魔力というもう一つの要因があるんじゃよ。その点おぬしは、魔法のレベルは中級かもしれんが、魔力は無限じゃ。つまり、一発の魔法に使える魔力は膨大なものになるというわけじゃ」
「俺の中級魔法は誰の魔法にも劣らないってことか?」
「そうじゃ。おぬしが魔力を込めた中級魔法は上級魔法はもちろん、超上級魔法すら軽く凌駕するほどの威力を出せるんじゃよ。魔法は込める魔力によって無限の可能性を秘めておるんじゃ。ただの魔導士であれば、一発の魔法にかけることのできる魔力なんぞ、高が知れておる。おぬしに勝てる道理がないわい」
待ってくれよ。俺が異世界最強の魔導士になれるって言うことか。実感は湧かないが、じいさんがこれほど力説してるんだ。そう言うことなんだろう。俺は信じよう、この熱量は嘘をついている人が放つには熱すぎる。
「早とちりして騒いで悪かったよ。俺が異世界でやっていけそうだってことはわかった。でも、俺がどんな魔法だろうが自由に使いこなせてたらもっと強かったってことだよな?」
「それはそうじゃが、そこまでしてしまったらおぬしは強すぎじゃわい。魔王なんぞ瞬殺してしまうほどの強さじゃぞ。おぬしの魔力に極大魔法なんぞあせたたもんなら……想像するだけでも恐ろしいわ」
「そ、そうか……そうだよな、何事もやりすぎはよくねぇよ。それに、強すぎてもそれはそれで面白くないしな。むしろ、中級魔法で良かったぜ。ありがとな、じいさん」
「誰がじいさんじゃ。神様と呼ばんか。わしはいくつもの世界を統べる偉大なる神の一人じゃぞ。じいさんなんて呼称はもってのほかじゃ」
「悪かったって、そんなに怒らないでくれよ神様」
そう言えば、最初に行った時もわしの機嫌を損ねたらとかどうちゃらこうちゃら言われたな。
どうやらじいさんって言うのは神様の地雷らしい。以後触れないようにしておこう。ここまで来て転生をなかったことにされてたりしちゃあたまらないからな。
「能力はそれでいいじゃろう。あらゆる中級魔法が使えるにランクダウンしてしまうが良いじゃろう?」
「ああ、それで頼むよ。俺も自分自身の魔法がどれくらいの威力が出るのか楽しみだ。適当にぶっ放していい威力じゃないんだよな?」
「町でも滅ぼす気か? おぬしが魔力を込めた魔法じゃったら一発で町どころか国を消し飛ばすほどの威力が出るぞ。決して、魔力を過剰に込めてはならんぞ。魔王ではなく、おぬしが異世界を滅ぼすことになっては本末転倒じゃ」
「肝に銘じておく……」
そうだよな、無限に近い魔力を持っている俺が全力で魔法を放ったりしたらそれは大層凄い威力になっちまうよな。
最初は軽めに打つところからならしていこう。俺も町を滅ぼして大量虐殺なんてした日には罪悪感で夜も眠れなくなるだろう。毎日神様に向かって懺悔する日々はごめんだ。
「細かいところは困らんようにしておるから、さっそく転生を始めるとするかのぉ。ちなみに、転生の初期位置は町の近くの森の中じゃからの。モンスターも当然生息しておるから気を抜くんじゃないぞ」
「わかった。俺の魔法で森ごと吹き飛ばすくらいの勢いで行くぜ」
「やめんか。さっきわしがいったことを忘れたのか」
「冗談だって、俺がそんなことする訳ねぇじゃねぇか。これでも常識くらいはわきまえてるつもりだ」
「まったく、先が思いやられるわい。わしを心労で胃腸炎にする気じゃったらその作戦は近々成功するかもしれんぞ。ではな、おぬしの成功を祈っておるぞ」
「任せろ。ここから見守っててくれ」
こうして、俺は異世界へと旅立った。