16話
「ほら、固まってないで行くぞ」
「え? ああ、うん。ほんとに違うからね」
「はいはい、わかってるから。行ってらっしゃい」
去り際にカエデが訂正しようとしたが、もうお姉さんたちは完全にそう言うことだと判断してるみたいだな。
こりゃ誤解を解くのは時間がかかりそうだ。俺に不利益が生じない限りは気にする気はないけどな。
カエデからしてみりゃ気にしないとか言っておきながらすげぇ気にしてるからな、早く誤解を解きたいだろう。俺は協力する筋合いはないけど頑張ってくれ。
ひとまず、冒険者ギルドを出た。
カエデもギルドを出てからは少しずつ落ち着きを取り戻しているな。ずっと、あの調子でも見ていて面白かったから良かったのにな。むしろ、可愛げがあってあっちのほうが断然良かった。あの状態だったら殴りかかってくることもなさそうだったし。
「ひどい目にあったよ。どうしてみんなあんな勘違いするんだろうね。マグトももっと否定してよ。おかげで私ばっかりからかわれたんだからね」
「自業自得としか言いようがないだろ。俺は離せって言ってたよな? それを離さなかったのはカエデだぞ」
「ううぅ……まさかこんなことになると思わなかったんだもん」
俺も正直ここまでからかわれるとは思わなかったけどな。でも、それも俺が職員のお姉さんたちについて何も知らなかったから予想できなかっただけで、普段から関わりのあるカエデはある程度予想できただろ。
「もうこの件はいいから、さっさとクエストに向かおうぜ。そっちがメインだろ、しょうもねぇこと気にしててもしょうがねぇよ」
「マグトはいいかもしれないけど、私は気にするんだよ……明日からも絶対からかわれるよぉ」
「自分で蒔いた種なんだから何とかしろ。明日といわず、今日帰ってからも言われるだろうな。もういっそ、俺とパーティー組むのやめたほうがいいんじゃないか? それが一番手っ取り早く解決する方法だと思うぞ」
「それじゃあ、意味ないよ。折角マグトとパーティー組めてるのに、それをやめるなんてもったいないことはできないんだから」
何とも言えないな。あれもこれもダメじゃあ、どうにもならん。
これ以上この件について考えても時間の無駄だ。俺がどうこうするべきことでもないしな。
「クエストの遺跡に案内してくれよ。まずは、アークデーモンを討伐してから考えたほうがいいだろ?」
「問題を先送りにしてるような気もするけど……そうだね、一旦さっきのことは忘れるよ。切り替えて楽しくクエストに向かおう」
「そう来なくちゃな」
カエデに案内され、さっき通った道とは別の道を通り、町の外へと出た。
「遺跡はこっちの入口から行くのが近いのか?」
「うん。ここ以外から出ても結局町の周りをぐるっと回ることになるだけだから。わざわざ遠回りする人もいないよ。マグトも一回通ったら道を覚えて言ってね。冒険者には必要なスキルの一つだから」
「善処する」
俺の記憶力では、そこまで完全に覚えてみたいなことはできそうにないだろうが、これも慣れだろうし気が付けばできるようになっているんだろう。でも、それこそカエデとパーティーを組むんだったら俺が全部覚えておく必要なさそうだけどな。
「こっちの森に遺跡の入口があるんだよ。森のモンスターは弱っちいのに遺跡の中だけ妙に強力なモンスターが多いんだよね。遺跡の外に出てくることはないから、そこは安心なんだけどそれでも定期的に討伐しなくちゃいけないんだ」
「へぇ、そんなこともあるんだな。Aランク冒険者が受けるようなクエストのモンスターがうろちょろしてるって考えると相当すげぇ遺跡だな。それを知らない冒険者が迷い込んだりしないのか?」
「遺跡の目の前に看板が置いてあるから、よっぽどのことがない限りは大丈夫だよ。新人のうちは森の入口に近いところでモンスターを討伐するのが基本だし、まずそこまで行くこともないと思うなぁ」
しょうもない死に方するのは流石に可愛そうだからな。
新人君たちが頑張って冒険者活動をしているのに、いきなり高ランクのダンジョンに迷い込んでしまう的なことはなくて一安心だ。
「途中出てくるモンスターは構わないくていいからね。全部相手にしてても時間かかるだけで報酬にはならないから。低ランクの冒険者の獲物を狩りつくすのも大人げないし」
「逃げるってことか? なんかそれは嫌だな」
「違うよぉ。向こうが勝手に逃げていくんだよ。だから、追ってまで倒す必要もないってわけ。私がオーラを抑えなかったら力の差がわかって逃げてくからね」
オーラって何だよ。魔力とは別物なのか?
モンスターには相手の力量がわかるんだな。それじゃあ、俺にはモンスターなんて寄ってくるわけなくないか?
「森に入るよ、遺跡までは止まらず進むからついてきてね」
「わかった。案内は任せたぞ」
カエデの案内の元、森へ入り遺跡を目指して進み始めた。
近いって話だったしすぐに着くよな。あんまり遠いのは面倒だぞ。




