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15話

「いいんだな? 後から後悔しないんだな?」


「いいよ。私に何か言ってこれるような人、この冒険者ギルドにいないから。陰で何を言われたって私は知らないよ」


 もう俺の知ったことか。俺がものすごい視線を向けられようが、このまま行ってやる。むしろ、俺のほうからも抱きしめてやろうか?

 俺の頭は残念なことに普段の落ち着きを完全に失ってしまっている。この調子じゃあ、もっとカエデに乗せられてしまう可能性がある。


「もう次だよ。さっさとクエスト受けて行こうね」


 順番が回ってくるというのにこの余裕、こいつは将来とんでもない悪女に育つとみた。なまじ顔がいいせいで大勢の男たちがカエデに騙されて散っていくんだろうな。その一人目が俺ってことか。なんとか、正気を保ってやり過ごさないと。


「あれ? カエデさん? ……ど、どうしたんですか? まさか冒険者ギルドに彼氏同伴で来たんですか?」


 ちょっと待ってくれ。このお姉さん無駄に声がでけぇ。

 既に何人かこっちを向いてるんだけど……。


「私のパーティーメンバーなんだ。すっごい強いから私から誘ったの」


「彼氏なんですか?」


「違うよ。パーティーメンバーだよ」


 受付のお姉さんたちからキャーーーという黄色い悲鳴が聞こえてくる。

 完全に勘違いされてる。Sランク冒険者のカエデが彼氏を連れてきたと思ってるんだ、そりゃ興奮してもしょうがねぇよ。それに、可愛いもんな。今までそういう話はなかったんだろうか?


「誤解だ、カエデが言ってることは全部ほんとなんだよ。俺は今日冒険者登録したマグトだ。Bランクからスタートってことになってる」


「私の目は誤魔化せません。それでは、カエデさんがマグトさんにくっついているのはどう説明する気ですか? 動かぬ証拠です」


「これは……」


 言葉につまってしまった。

 この状況を見られて俺は何って言い訳をすりゃいいんだよ。何て言っても火に油を注ぐようなもんだろ。


 どうにかしてくれという思いを込めた表情でカエデを見てみる。


 すると、カエデも俺のほうをちょうど見ていたようで一瞬目があった。

 直後、カエデはすさまじい速度で目をそらしたかと思うと、そのまま俺から距離を取った。


「これは、マグトが私とはパーティーを組みたくないっていうから仕方なく……そう仕方なくなんだよ」


「皆さん見てください。あのカエデさんが照れてますよ。この素晴らしい光景を記録に残す方法はないんですか!!」


「すいません。私たちは映像記憶用の水晶は持ってません」


 何がしたいんだよ。

 俺の世界でいうビデオカメラみたいな水晶がこっちの世界にも存在するんだな。てか、カエデが照れて俺から離れるって何で今更?


「二人は登録に来た時から仲がよさそうでしたよ。私がこの目で見ました!!」


 え? レニーさん? どうしてこっちにいるんだ。レニーさんは登録の仕事をしてるはずだろ。

 暇だからってこっちの話に入ってきたのか?


「それは本当? 二人は未来を約束した仲なのね」


「カエデさんがモンスター以外に恋をするなんてね。私たちの妹みないな存在だし、本当に良かったわ」


「おめでとうカエデさん。末永くお幸せに」


「だから、違うってぇぇ!!」


 カエデの大声が冒険者ギルドをこだまする。

 俺も初めて、こんなに大きな声を出すカエデを見たぞ。これは相当利いてるみたいだな。お姉さんたちとも長い付き合いだろうに、なんでこうなることがわからないんだろうか。


「恥ずかしがらなくてもいいのよ。カエデさん。別に恥ずかしいことではないわ」


「そうよ、幸せなことじゃない。でも、先を越されて悔しい気持ちもあるのよね」


「もういいから!! このクエストを受注させて!!」


 バンと持っていたクエストの用紙をテーブルに叩きつけた。

 さっきまで気にしないとか余裕だとか言っていたカエデがこうも追い詰められている。


「アークデーモンの討伐ですか? 彼氏さんは今日冒険者になったばかりなのですよね? 最初のクエストに選ぶ難易度ではないと思うのですが」


「大丈夫よ、カエデはSランク冒険者よ。これも、彼氏にいいところを見せる作戦なの。ちゃんとカエデの作戦の後押しをしてあげなくちゃ」


「ごめんなさいね。私ったら、そこまで気が利かなくて。わかりました。このクエストをお二人で受注します」


「……だから違うってぇぇ……」


 もう、大声を出して反論する気力も残ってないみたいだ。

 それにしても、受付のお姉さんたちはカエデのことが大好きなんだな。この光景を見てるだけでもひしひしと伝わってくる。


「彼氏さんもカエデさんにいいところを見せてあげてください。それでは、クエストの達成をお祈りしております」


「えーと、カエデの言う通り本当にそういう関係じゃないからな。まぁ、頑張るよ」


 なんか俺まで恥ずかしかったな。

 カエデも俺の腕から離れているし、このまま全力で逃げ出したい。その後が怖いしやめとくんだけどな。


それじゃあ、金を稼ぎにクエストに向かうとしますか。

 カエデもすぐに復活するだろうしな。

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