13話
「……それで? カエデが選ぼうとしてたクエストってどれなんだ? 持ってきてくれるか?」
「私がクエストの用紙を取りに行った隙に逃げる気でしょ。そうはさせないんだからね」
「しねぇよ。俺も反省したんだ、だから一旦離れてくれよ。これじゃあ、クエストも選べないだろうが」
もう俺の精神力は限界を迎えつつある。
なんでじいさんは俺のメンタルも強化してくれなかったんだよ。このままじゃあ、俺は魔王討伐なんて忘れてカエデと仲良く冒険者生活を送ることになっちまう。
少し落ち着け俺。
まだ全然だろ、こんなちょっと抱き着かれたくらい……大事だ!! 感覚を遮断しろ、そして心を無にするんだ。
「このまま行くよ。ほら、こっちに歩いて。ちょっとぉ、聞いてる?」
心を無にすればこの状況ですらなんて事のない日常だ。
俺は今、森林浴をしているくらいリラックスしている……無理だろ!!
「どうしたの? ほら、ねぇ?」
「うわっ、なんだよ。ビックリさせんなって」
いきなり頬をツンツンされ、無様にも悲鳴をあげてしまった。
これも、俺の精神力が弱いせいだ。これからは精神面から自分を成長させていこう。こんな調子じゃ、またいつ同じことが起きるともわからない。まだ、解決してないのにこんなこと考えても仕方ないか。
「お願いします。離してください」
「声が大きいよ。耳元で大きい声出さないで」
「そんな理不尽な……カエデがくっついてるからだろ。嫌なら離れてくれよ」
「無理。私はマグトを逃がすつもりはないからね。折角見つけた強くて面白そうな人材を捨てるほど私に余裕はないんだよ。絶対一緒にパーティー組んでもらうから」
面白そうって言うのがすっげぇ引っかかるんだよな。
しかも、殴りかかってきた時と違って今は割とまともに見えるんだから不思議でしょうがない。カエデは戦闘の時だけ人が変わっちまうタイプなのか?
もう観念してこのままクエストを選びに行くしかないってのかよ。周囲の視線は痛いし、俺のメンタルは削れるし何もいいことねぇよ。いや、美少女に抱き着かれているっていうだけで爆裂にプラスか。
「わかった、一緒にクエストを選びに行けばいいんだよな。そしたら離れてくれるか?」
「うん。クエストを受注したら離れてあげる。それまでは、信用できないからこのままね。言っとくけど、マグトが悪いんだからね」
「納得いかねぇ。とりあえず案内頼む」
俺はカエデが腕に抱き着いたまま冒険者ギルドをうろついているが、これってどうなんだ?
はたから見たら羨ましい限りの状況だよな。変な噂も広まりそうで怖い。はぁ、勘弁してくれよ。
「これがクエストボードだよ。ここにはAランク以下のクエストが張り出されてて、私以外の冒険者みんなここからクエストを選ぶの」
「カエデはSランクだから特別ってことか? でも、ここ以外にクエストボード何て見当たらないぞ」
「Sランク冒険者は基本的にギルドから直接指名が入ってクエストを受けるんだよ。緊急を要するものや、危険度が高すぎるクエストがメインかな。だから、Sランク冒険者になると自由が聞きずらくなっちゃうんだよ」
「そりゃ大変だな……待てよ。それなら、カエデがクエストを頼まれたら俺は一人でクエストに行けるってことか」
強いものにはそれ相応の責任が生まれるってやつか? それにしてもSランク冒険者ってのは面倒なシステムだな。誰もなりたがらないんじゃないのか? そう言えば、ギルドマスターに俺もSランク冒険者にしろとか言ってたよなカエデ。こんな話一つも聞いてなかったぞ。あぶねぇって。
「マグトも同行してもらうよ」
「……は?」
「だから、マグトも私が受けたクエストに同行してもらうって言ってるの。そのためのパーティー何だから」
「待ってくれ、俺は確かBランク冒険者になったんだよな? 俺は普通にここからクエストを選ぶ側の冒険者だよな?」
Bランク冒険者がSランク冒険者のクエストについていくなんぞ自殺行為以外の何ものでもないだろ。ギルドマスターだって絶対に許可しないに決まってる。
実際の強さを知られてたら話は別なんだろうが、俺はまだカエデ以外に戦うところを見せてないからな。
「ギルドマスターにお願いしたら大丈夫だよ。マグトの実績にもつながるし、いいこと尽くめだよ」
「そうはならんだろ。そもそも、ギルドマスターがそんな無茶な話を許可するわけないだろ」
「許可を出さざる負えないんだよね。私たちSランク冒険者に頼むようなクエストはほかの冒険者じゃ達成できないようなものしかないから、なんとか受けてもらわないといけないんだよ。Sランク冒険者は自由を代償にある程度の権力を手にしてるの。ギルドマスターよりも偉いんじゃないかな?」
馬鹿な。ギルドマスターがカエデの無茶な提案を受け入れるしかないってことか? それじゃあ、俺はカエデに目をつけられた瞬間に終わってたってことじゃないか。もう諦めて、カエデとパーティーを組むしかないのかよ……。




