12話
「さっそくクエストに行こうよ。私が選んでもいい? てか任せて。マグトの実力を見極めるのに最適なクエストを選んでくるからね」
「任せたと言いたいところだが、本当に大丈夫なんだよな? とんでもねぇ難易度のクエストにいきなり連れて行こうなんて考えてねぇだろうな? 俺はそこだけが心配だ」
「人聞きが悪いよ。私がそんなことするわけないじゃない。私はただマグトが冒険者ランクを上げるのに最適なクエストを選んであげようって気持ちしかないよ」
俺はカエデの言葉を信じてもいいんだろうか?
だめだだめだ、こいつに殴りかかられたのを思い出せ。クエストの難易度がいくら高かろうが問題じゃないが……ならよくないか? だって、俺魔王と同じくらいの強さだぞ。普通のモンスターに負けることなんて絶対にありえないだろ。むしろ、一番難しいぐらいのクエストに行かないと俺の力は発揮されないな。
「しょうがねぇな。今回はカエデが選んだクエストに行ってやるよ。その代わり報酬は全部俺によこせよ。どうせ、相当金持ってるんだろ?」
「えー? それじゃあ私は何のためにクエストに行くの? 時間の無駄だよね? そうだっ!! マグトが私と戦ってくれるって言うんだったら私はお金を払うよ。これでも、Sランク冒険者だからね。お金は持ってるんだから」
「遠慮しときます。やっぱり今のもなしで。それじゃあ、俺は自分で選んでクエストに行ってくるから。また機会があれば」
「ちょっと待ってよ。冗談だから!! 今のは冗談。私なりのジョークだよ。だから、ちょっと待ってって!!」
言い訳が聞こえてくるが、それも無視してこの場から離れようとしたら急に後ろから抱き着かれた。
「絶対逃がさないから。私とまともに戦えるような人滅多にいないんだよ。マグトはもう少し私に優しくするべきだよ」
うわぁぁぁぁ!! 胸が当たってるってぇぇ!!
やばいぞ、カエデのやつハニートラップでも仕掛けるつもりかよ。どうして、俺がこの手のことに耐性がないことを知ってるんだ? それに近ぇよ。
「おい、見ろよ。カエデ様が見たことない奴に抱き着いてるぞ!!」
「嘘だ!! カエデ様はみんなのアイドル……誰だ、あのくそ野郎は!!」
「誰か知らねぇのかあいつ!! ふざけやがって、誰の許可を得てカエデ様に近づいてるんだ」
冒険者ギルドにいた男冒険者たちからものすごい圧を感じる。
圧というかもうほとんど殺意だろこれ。今にでも殺されそうな勢いを感じるんだけど。
ってか、これ俺も被害者だからな。俺がカエデにつきまとわれてるんだからな。
「もう逃げないから一旦離れてくれ。男どもの視線がきつい」
「え? どういうこと? うーん、本当に逃げない?」
「逃げないって。俺は嘘はつかねぇ主義なんだ。カエデの話を聞いてやるよ」
これは決してカエデに屈したわけではない。
俺なりの攻めの一手だ。これから、俺はカエデに振り回される人生とはおさらばするんだ。でも、カエデすげぇハイスペックだよな。滅茶苦茶可愛くてしかも強い。男なら絶対パーティーを組みたいほどだ。俺も殴りかかられてさえいなければカエデに惚れていた可能性はあるな。
「いいよ、離してあげる。でも、次逃げたりしたら許さないから」
「いや、元はと言えばカエデが俺を金で買収しようとしてきたのが悪いんだろ。俺が金でいうことを聞くと思ったら大間違いだぞ」
「いいもん。私の方が先輩だからこれくらい許されるもん」
ここで自分が先輩アピールを始めやがった。確かに冒険者としてはカエデのほうが先輩かもしれないがついさっき冒険者になったばっかりの俺に先輩風吹かせるなんて大人げなさすぎるだろ。
これでもSランク冒険者なんだよな。精神的に幼すぎるだろ。よく国を滅ぼすようなモンスターを倒してるもんだな。純粋な強さだけの押し切りだなこれは。
「先輩なら当然、後輩に飯を奢ったりしてくれるよな。俺は今日は何も食ってねぇから腹減ってるんだよな」
「そのくらいならいいよ。でも、その代わり食べ終わったら私と戦ってもらうからね。え? 嘘だって、ちょっと逃げないでよ」
「うるせぇ!! わざとやってるのかそれ。なんで俺がカエデと戦わなくちゃいけねぇんだよ。何の得があってそんなことしなくちゃいけねぇんだ。こら、離せっ!! 抱き着くんじゃねぇ!!」
「もしかしてマグト私に抱き着かれて恥ずかしいの? フフッ、そうなんだぁ。私次はないって言ったよね? もうこのまま離さないから」
こいつ正気か!? こんなギルドのど真ん中で何やってんだよ。うわぁぁぁぁ!! だから胸が当たってんだって!!
何かこいつを離れさせる方法はないのか? おい、そこの男ども俺に殺気を向けてる暇があったらカエデを離れさせろよ。俺が離れろって言ってるの聞こえてるだろうが。
「もう許せねぇ。誰だか知らねぇが、俺たちのカエデ様を奪いやがって」
「やっちまおう。見たことねぇ顔だしどうせ初心者だ。出る杭は打たねぇとな」
「俺にいい作戦がある。あいつを呼び出してモンスターの餌にしちまおう」
全部聞こえてるからなお前ら。
新人にとんでもねぇ奴らばっかりだ。ああ、嬉しいんだけどやばいってぇぇ!!




