6.生きていくしかない
「荒唐無稽すぎて信じられない。」
「ですよねー。」
呆れ顔の王子に、そりゃそうだよね、と思う。
乙女ゲームという概念も理解できないだろうし。
「ただ、君は嘘をついていないのだろう。」
王子はそう言って、自分の耳から何かを取り出した。
何だろう?木製でイヤホンみたいな形をしている。
「クリスティーナに頼んで、嘘を見抜ける聖道具を作ってもらった。嘘だったら声が歪んで聞こえるものだ。」
わー聖力って万能!
クリスティーナが最初に殺されたのはこういった理由もあるのかもなぁ。
「君の声は一切歪んで聞こえなかった。つまり真実を話したのだろう。君の頭がおかしい可能性もあるが…だとしたらクリスティーナを助けられた理由や、知るよしのない事実を知っている理由が分からない。」
もしかして、信じてもらえた?
「事前の調査で君の背後に誰もいないことは分かっていたしな。まぁどちらにせよ、君には恩がある。」
王子は私の前に片膝をついて私の手を取った。
「クリスティーナを助けてくれてありがとう。君は俺たちの救いの女神だ。」
思わず涙がこぼれた。
だって、キツく責められて下手したら殺されるかと思ってたんだもん。なのに、私の話を最後まで聞いてくれて信じてくれて、感謝までしてもらえたから、嬉しすぎて。
「ただ、魅了の件はなかったことにはできないからな?」
「…はい。ごめんなさい。」
「もう分かっているだろう?ここは君の夢の中じゃない。現実だ。」
そんなこと、ずっと前に気づいてた。領地から出たいって言っても全く出してくれなかったりとか、私の思い通りなんていかないんだもん。
でも、それでもずっと夢の中だと思い込もうとしていたのは。
「夢の中じゃないとしたら、あの私は、死んだってことじゃないですか。」
日本という国に住む、19歳の専門学校生の私は、死んだってことだ。
家族も残して、夢の半ばで。
「死にたくなかった。生きていたかった。」
王子は優しく、頭をポンポンと叩いた。
「すまないが、荒唐無稽すぎて共感してやれない。言えることは、この世界で君は生きていくしかないということだ。」
「冷たい。」
「そして罰は受けなければならないということ。」
「本当に冷たい。クリスティーナを助けたことと相殺できないの?」
「それは本当に感謝しているが、魅了という大罪を犯した人間が罰を受けなければ示しがつかない。」
そりゃそうかぁ。
「まぁ悪いようにはしない。」
そういう王子は悪い笑みを浮かべていた。
そうして私は、クリスティーナと共に神殿で聖女として働くようになった。
クリスティーナはいい子だった。私が自分を助けたことがあることは知らないらしいのに、親切にしてくれる。周りからも慕われていて、明るく笑う彼女の周りにはいつも人がいる。
そんな彼女を見て、何となく分かった。
自分が、記憶を持って生まれ変わった理由。
きっと神様が、彼女を救いたくて、私をここに呼びつけたのだ。
それだったら、記憶を取り戻したのが丁度彼女の生死に関わる場面だったのも納得がいく。
「この世界のヒロインは彼女だったかー。」
私はモブとして生きていくとしよう。




