5.友達ができそう
わけが分からなくても、時間が経てば授業は終わるものらしい。
授業が終わった後、私は絶望していた。
これが外の世界…!
と。
聖力を持つものは誰でも聖女になれて、聖力を持つものは貴族に多いのに、神殿の聖女は平民出身が多い。
聖女という仕事は給金が払われ、また良いところに嫁げると言った理由から平民には大人気のお仕事だ。
だが、貴族にとっては違う。貴族とっては給金も微々たる金額だし、侍女もいないような平民と同じ生活を送らなければならないわけで。…よほど金に困っているか、信心深いか、娘が嫌いかと言った理由がない限りは、貴族は娘を神殿には送らないのだ。
だから自然と、神殿で行われる勉強も平民に合わせたものになる。
…しかし、こんなに差があるものとは。
机に突っ伏していた私は「ねぇねぇ」と呼びかけられていることに気づいて慌てて顔を上げた。
「ふふふ、授業難しいよねぇ。」
顔を上げた先には2人の女生徒が立っていて、1人の小柄な生徒の方がそう私に問いかけて来る。
「えっなんでそれで悩んでるって分かったの?」
難しいなんて口には出してないはずだけど。
「授業中に頭抱えてたから、すぐ分かったよ。私も最初そうだったから〜。」
そうウインクしてくる彼女はきっといい子なのだろう。ぜひお友達になりたい。ただ、横で仁王立ちしている女生徒が怖いんだけど…。
「貴女、大神殿にいたの?」
仁王立ちのキツめの顔立ちをした女生徒が問いかけて来る。
「うん。」
「では、フィルア=オカッタータという名前を知ってる?」
親しい友達の名前が出てきてびっくりする。
「知ってる知ってる!筋肉大好き星人でしょ!」
「きんにくだいすきせいじん…?」
「フィルアはね、筋肉が大好きで、神官のことを筋肉の有る、無しでしか判断しないの。夢は騎士団の寮母になって、騎士たちの裸を見まくることなんだって!」
「えぇ…。」
フィルア=オカッタータは私の2つ上の聖女で、確か子爵家の出身。聖女の上下関係は身分や年齢によるものではなく、聖女としての経験の長さによって決まるものなので、最近入ってきた彼女は後輩にあたる。
ちなみに現状、私が最も聖女歴が長い。たまにお局様と呼ばれる。結婚のために出て行く聖女たちを歯軋りしながら見送っているからかもしれない。
仁王立ちのまま口をパックリ開けて呆然としている女生徒を見て、私は首を傾げる。どうしたんだろう。
「あ、自己紹介が遅れたね。私はモニカ=モルデウス。貴女と同じ男爵家だよ。この怖い子はフランシスカ=オカッタータ。よろしくね。」
人当たりの良い女生徒の方が自己紹介をしてくれる。
って、ん…?
「オカッタータ?」
「えぇ…フィルア=オカッタータは私の姉よ…。」
「あー確かに言われてみれば似てる!」
濃紺の髪に同色の瞳は確かにフィルアと同じだ。確かに優秀な妹がいたとか言っていたかも。
「姉様にそんな欲望があったなんて…。」
「あ、知らなかったの?じゃあ私がベラベラ喋ったって知ったら怒られそう…秘密にしといて。」
「こんな重要な秘密…絶対に黙っておくわ。」
「…そんな重要でもないと思うけど。」
貴族のお嬢様の価値観は分からない。このくらいの性癖の暴露、神殿では当たり前なんだけど。
ちなみに私は、自分だけを愛してくれるお兄様よりもいい男が迎えにきてくれるのを待っていると言ったら、高望みがすぎると皆から言われた。王女にひどい言い草だと思う。