5.やけくそだ
魅了をかけてしまったのは、最初は本当にたまたまだった。
彼らとぶつかって「大丈夫か?」なんて至近距離で声をかけてもらったら『めっちゃイケメン&イケボじゃん!』ってなっちゃったんだよね。
それで多分発動しちゃった。好かれたいって思ってしまった。
最初の頃は自覚がなかった。やたらと王子たちが私に優しいのを、周りの人たちは不思議がっていたけど、ゲームの記憶がある私からすれば、ヒロインが好かれるのはストーリーが変わっても同じなんだなぁ、くらいだった。
ただそのうちに流石に異常だなって思った。だって私はゲームのヒロインみたいに、彼らの心の傷を癒したりしてないし。何故ここまで彼らは好いてくれてるんだろう?って。
『サーチ』をかけてみれば、全く私に惹かれていないセオドア=パージバル以外、魅力に侵されていることが分かった。
本来なら、気付いた時点でやめるべきだったのだ。辞めて謝るべきだったのだ。
だけど、もうこの幸せな日々を私は手放せなくて。
これは夢だし!
と心の中で言い訳を作って続けてしまったのだ。
本当はもうとっくに、これが夢の世界ではないと気付いていたのに。
「何か申し開きはあるか?アリシア=シードラン。」
「特にないですよ。」
もう諦めムードである。肉なり焼くなり好きにしてくれ!
悪いことをしたとは思ってるんです!
ただし家族にだけは手を出さないでほしい。
「意外だな。クリスティーナを救った功績を主張するかと思った。」
王子の言葉に一瞬キョトンとする。
「えっなんでそのことを…。」
「神殿でクリスティーナの居場所を叫んで居なくなったのは君だろう?アリシア=シードラン。」
確かにその通りだ。王子様ってなんでもお見通しなんだね。
「何故、あの時クリスティーナがあそこに囚われていると分かった?聖力を持つ君なら、誰かが聖力を使っていることまでは通りすがれば分かったかもしれないが、それがクリスティーナで、かつ誘拐されているなんて分かるはずがない。そもそも貴族令嬢が何故あんなところにいた?」
その目は『お前も共犯者なのではないか?』と言っている。
確かに魅了事件を起こしてしまった私は、国家転覆を目論んだ犯人たちとの繋がりを疑われて当然だろう。
しかし、それは違うのだ。
かと言って信じてもらえるような嘘をつける気もしない。
「実は私は…。」
ヤケクソだ。
気づいたらアリシア=シードランだったこと。
この世界はゲームでやっていたから知っていたこと。
全てを王子に話そうと思った。




