36.会いたい
「でも本当にいい人なの。ちょっと会ってみない?」
私が手を合わせて可愛くお願いすると「んー。」とターニャは考えるそぶりをする。
「逆にさ、会ってほしいの?」
「え?」
「クリスティーナにとってその人は大事な人じゃないの?さっきのその男の人について話している時のクリスティーナは、幸せそうで、普通の可愛い女の子だったよ。」
痛いところを突かれて、私は黙る。
そりゃあ会って欲しくない。
パージバルさんが顔がタイプであるターニャに惚れる可能性は高くて、私のことなんて興味をなくすかもしれない。
でも、それが本来正しい形だから、自分は異物だから…。
そこまで色々考えて、自分の愚かな考えに気付いた。
あぁ、多分私は、ターニャと会って、それでも私を選ぶことを期待してしまっているんだ。
最初を偽ってしまったから、愛される自信がないから、試すことで確認しようとしてしまっている。
「ごめん、ターニャ。この話、無しで。」
「オッケー。ま、他にいい人いた時は紹介してよ。お兄さんとか。」
「流石に王子は紹介できないわ。」
「あ、噂をすればお兄さん。」
「私より気軽な呼び方してるよね!?殿下って言いなよ!」
ちょうどお兄様が神官長と歩いている場面だった。アリシアが捕えられたことで事件が一段落したため、前に言っていたようにお兄様は謹慎になった。
それから城でぐうたらするかと思いきや、アリシアの取り調べや、何故か神殿に来て会談してたりと精力的に動いている。
「クリスティーナ。ちょっと。」
お兄様に呼ばれた私はターニャに断って駆け寄る。
「どうしたの、お兄様。」
「セオドアがお前に会いたいってうるさいんだが、会うか?」
当然だろう。私だって、別れの挨拶もなく、親しくしていた人にいきなり会えなくなったら、どうにか会えるようにと乞う。
当然のことなのに、それが嬉しくてたまらない。
会いたい。それが私の素直な気持ちだ。私だって、ずっと会いたいと、夢で見るほど考えている。
だけど…。
「会いたくない…。」
1番最初に出てきた言葉はこれだった。
やっぱりどうしてもこの顔で会いたくない。好みじゃない顔の私を見てがっかりしたパージバルさんを見たくない。
「そっか。じゃあとりあえずそう言っておくけど、会いたくなったらいつでも言うんだぞ。」
「うん。ありがと。」
思ったよりあっさり引き下がったお兄様に拍子抜けしつつ、これでいいのかと自問自答する。
パージバルさんはそろそろ婚約者を決めなきゃいけない時期で、さっさと結論を出したほうがいいに決まっていて、そのためには会うのが1番で…。
彼のよく通る声で自分の本当の名前を呼ばれることを夢想する。それはとても幸せなことだろう思う、どれだけ満たされるだろう。
だけど、拒絶される未来が怖すぎて、どうしても踏ん切りがつかなかった。




