34.さよなら
「クリスティーナ?!」
アリシアは叫ぶ。敬称以前に、そもそも王族の名前を呼ぶのは不敬だがそれだけ動揺しているということだろう。
「わ、私、王女殿下になんて暴言を…!」
「サルファ侯爵令嬢は気にしないでください。貴方のおかげで自分のすべきことを思い出しました。」
サルファさんはこないだ私と会っているので、疑ったりせず、ただただ顔を青くしている。気にしなくていいのに。暴言なんて神殿ではよくあることだ。
「貴方が勝手に割り込んできただけじゃない!貴方を傷つける意図なんて…。」
状況を把握したらしいアリシアが自己保身に走るが、そうはさせない。
「その前に貴方が魅了を使うのが悪いんですよ。聖女たる私には、えーっと、名前は忘れましたけど、高位貴族の子息である3人や、お兄様に貴方が魅了をかけていたは分かりますからね。」
ぐっと言葉に詰まる彼女に、周りの視線が突き刺さる。魅了を使っていたことは、皆薄々気付いていたのかもしれないけど、私が明言がしたために確信を得たのだろう。
「クリスティーナ、これで良かったの?」
やってきたお兄様が心配そうにするが、私頷く。だって、このために私は来たんだもん。
「てゆーか、お兄様はこれを狙ってたんじゃないの?」
だから、お兄様と仲がいいアピールをするように言った。アリシアのヘイトをかうために。
「最終手段としては考えていたけど、実行するつもりは更々なかったよ。」
王子であるお兄様は、いざというときは身内を傷つけてでも任務を遂行しなければならない時もあるだろう。怒りは湧かなかった。
学園の警備兵がやってきて、アリシアに同行を求める。彼女はもう抵抗をやめていたが、また警備兵に魅了を使って逃げる可能性も捨てきれない。だから、魅了に対抗できる私もついていくことにした。
「王女殿下…。」
フランシスカとモニカが真っ青な顔でこちらを見ていた。
王女に馴れ馴れしかったなんて、後悔しているのかもしれない。そんなことないのに。
「フランシスカ、モニカ、楽しかったよ!ありがとう!また遊ぼうね!」
もう私はこの学校に来ることはないけれど、いつか会える日も来るだろう。
「お兄様、パージバルさんにもよろしく伝えといて。」
「分かった」
笑ってお別れできる自信がないから、今パージバルさんがいなくて良かった。
「じゃあね!」
私は最後にもう一度モニカとフランシスカに手を振って、アリシアや警備兵たちと共に歩き出す。
こうして私の短い学園生活は終わった。




