3.聖女の制約
私、クリスティーナはこの国の王女である。
しかし王女としての仕事はしておらず、ひたすら聖女としてお祈りを捧げる日常を送っている。
代々王家に生まれる女は聖力という力を強く持って生まれくる。
聖力がなんなのか、というのは研究途中ではっきりとした答えはないけれど、神から与えられている力だということは確かだろう。聖力があれば、聖術という人智を超えた業を使うことができる。
姿を変えたり。
呪いが見えたり。
土地を豊かにしたり。
そして、聖力を持つものが祈りを捧げることによって、国が安定すると言われている。実際、この国は他国に比べて天災がなく豊かだ。
というわけで聖力が他者と比べても飛び抜けて多く生まれてきた私は、筆頭聖女としてほとんど全ての神殿で過ごし、決まった時間に祈りを捧げる仕事をしているのだ。
神殿での日々はつまらない。
決まったメンバーで決まった時間に決まったことを繰り返す日々。清貧をモットーとする神殿ではご飯も大したものが出ないし、掃除、洗濯などは自分達の仕事。王女なのに私の手は荒れ放題だ。
外には出られないし、持ち込めるものにも検閲がある。犯罪者を収容する牢屋かよ、と思ったことは数え切れない。
私はまだ父の計らいで週に一度の夕食だけ豪華な王族のご飯が食べられるし、ちょっと過激な恋愛小説くらいなら持ち込んでも目をつぶってもらえるのでマシなほうなんだけど。
そんな私にとってお兄様からの「学校に行かないか」というお誘いは魅力的すぎた。
「行きたい行きたい行きたい!!けど…。」
めちゃくちゃ行きたい。行きたいけど、聖女としての仕事を放棄したいわけではない私には、無理なことだと分かっていた。
成人する前の聖女にはとある制約がある。
それは、家族以外の男と関わってはいけないこと。
喋るのはもちろんダメだし、顔すら見せてはならない…。そのため女や家族しかいない場面以外では常に黒のヴェールを被って生活している。
今のような夕食の時だって家族しかいないわけではなく、給仕係や護衛で男もいるのでヴェールを被ったままでしか食べることができない。美味しそうな肉の色合いを見ることは叶わないのだ。
この国での成人は17歳で、私はまだ15歳。あと2年はこれが続く。
お兄様が通う学校はもちろん共学。絶対男の人の目に触れるし、喋らないなんて不可能だろう。先生ともコミュニケーションが取れない。
「…私が学校に通うことは難しいよね。」
しゅん、とする私にうーん、と考え込むお父様。
「そもそも、学校に行かなくてもいいのではなくて?ここでオーフェンを見るだけならダメなの?」
自己判断でお喋りを解禁したお母様がお兄様に問いかける。
「それはもちろん後で見てもらうけど、彼女に引っかかってるのは俺だけじゃないんだ。騎士団長の息子とか、宰相とこの次男とか、神官長の孫とかも夢中になってる。これが魅了なら、証拠を集めて処罰しないと危ないと思う。」
それは十中八九魅了に確定でしょ…。逆に魅了じゃなければ、傾国の美女に違いない。
私が無理して出張るまでもない案件に思われて、より一層しゅん、とする私。
「オーフェンのいうことも一理あるし、神官長と少し話してみるよ。」
お父様の思ってもみない前向きな回答に、私は目を丸くした。