22.笑顔
「王子殿下、アリシア=シードランの処遇はどうする予定なのですか?」
サルファさんがお兄様に尋ねる。確かにその辺は気になるところだよね。
「それは今考え中だ。中々難しいんだよ。誰か後ろにいて彼女を操っているわけでもなく、ただただ彼女はモテたいという私欲のために魅了を使っている。魅了の証明は物的証拠がなく難しい。」
「王女殿下でも分からないのですか?」
「分かるんですけど、私の証言だけで貴族令嬢を罰するのは禍根を残すかと。」
「しかも男爵家とはいえ、彼女の家は大商会で、多くの貴族が懇意にしており影響力は大きい。その上、彼女の父親は娘を溺愛している。簡単には処罰できないんだよ。」
サルファさんは考え込む。
「今は神殿にも協力を仰いで、魅了の罪で拘束しようとは動いている。ただ少し時間がかかりそうだ。」
お兄様曰く、魅了の罪で処罰された例はほとんどないらしい。皆、魅了は手段でしかなく、魅了を使って国家転覆とか王属暗殺とかを企んでいたので、そちらの罪で裁かれてきたのだ。だから前例が少なく対処も悩ましいとのこと。
「そうなのですわね…。教えてくださってありがとうございます。とりあえずクライス様には彼女に近づかないよう口酸っぱく言っておきますわ。」
「そうだな。サルファ嬢がピッタリと横についていてやってほしい。」
「ふふ、そう致しますわ。」
サルファさんはそう言って「失礼したします。」と退席した。
「なんか企んでそうな笑顔だったなー。」
サルファさんが退室して開口一番お兄様が言う。
「そう?私には分かんなかったけど…お兄様は人を疑いすぎなんじゃ?」
「王族は人を疑って生きていかなきゃ死ぬんだよ。」
「え?じゃあ私死んじゃうじゃん?」
「そうならないためにも、人を疑うことを覚えなさい。辛いことだけどね。とりあえず、サルファ嬢は警戒しておいて。何をしでかすか分かんないわ。」
そんな感じ全くなかったし、何よりもう彼女の婚約者は魅了からほとんど解放されたんだから、何をするってこともないと思うんだけど…。
私はそう思った。
だけど結果的にお兄様の言うことが正しかったのだ。
彼女の婚約者への愛は私たちの想像よりも遥かに深く、苛烈で…。
彼女は自分の婚約者の心を弄んだ女を許しはできなかったのだ。




