2.聞きたくなかった
「…はい?」
「俺の恋愛遍歴を語ると、初恋はまず5歳くらいの時。母上の侍女で俺のお世話をしていた、モリスちゃん。無邪気な顔して『抱っこ!』ってせがめばいつも抱きしめてくれて、あの大きな胸に顔を埋めるのが大好きだった…。」
恍惚の表情を浮かべるお兄様。ドン引きする私。
「モリスちゃんが結婚していなくなったあと、好きになったのは教育係のトニア先生。俺が上の空だと『もう、聞いてますか!?』って前屈みになって俺の顔を覗き込んでくるんだけど、その時に強調された胸が近くなるのがたまらなく好きだった。俺の外国語の成績がすこぶる良かったのはマジでトニア先生のおかげだと思う。」
え?私たちなんでこんな話聞かされてるの?
「トニア先生が子どもができたからと仕事を辞めたあと、好きになったのはマーガレット=クレンベール公爵令嬢だった。おっとりとした性格に、大きな胸…。夜会とかでダンス踊る時、胸が大きいから当たりそうになるんだよね。あれに紳士的に対応するのにめちゃくちゃ理性使ってます。」
そこでお兄様は水を飲んで一息ついた。とりあえず話が一段落したようだけど…。
「思春期の妹に話すべき内容だった?」
「まぁ待て。貧乳であるクリスティーナが不快になるのはわかるが、本当に大事な話なんだ。」
「そういう理由で怒ってるんじゃないから!貧乳だって気にしてないし!」
本当はめちゃくちゃに気にしているけど、強がる。人間の価値はそんなところにはない。そのはずだ。気にすることじゃないはずなんだ!
「まぁまとめると、俺は年上で巨乳で、どちらかというと母性?包容力?がある女性がタイプなんだ。」
私は貴族について詳しく分からないけど、マーガレットという令嬢も年上のよう。お兄様は甘えたいタイプのようだ。国王になる人間にも関わらず。
「でも、今回俺が好きになったのは、俺が通う学校の1つ下の学年に転入して来た年下の男爵令嬢で、小柄で胸もなく、どちらかというと庇護欲をくすぐるような女性だった。」
ふーん、タイプ変わったんだね、と私は思っただけだったが、お父様の雰囲気が変わった。さっきまで面白おかしく笑っていただけだったのに、目を細めて真剣な様子になる。
「彼女に初めて会った時、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。そして彼女の一挙手一投足が気になるようになり、彼女と目が合うだけで幸せな気持ちになった。挙句の果てには彼女の全てが欲しくなり、彼女が望むもの全て叶えてやりたいとまで思うほどになったんだ。」
「いいなぁ…私もそんな恋がしてみたい。」
「そうだな…俺も心地よかったし、王子じゃなければこの恋に溺れてもよかったんけど…。」
「えー王族でも恋してもいいでしょ。そりゃ子供ができるようなことは結婚してからじゃないとダメだと思うけど」
それはお兄様をフォローするためのものではなく、自分が自由に恋したいという下心からの発言だったが、お兄様は苦笑いを浮かべた。
「王女に過ぎないクリスティーナは好きにしたらいいと思うよ。で、今回の話の本題はそこじゃないんだよね」
「うん?」
「おかしいと思わない?全く好みではない女性に一目惚れするか?好みではなくても交流するうちに好きになる可能性はあると思うけど、見た目で好きになり、しかも短時間で深く愛するものか?」
知るか。こちとら恋愛未経験者である。
そこで、ずっと言葉を発さなかったお父様が口を開いた。
「つまりオーフェンはこう言いたいんだね?『もしかしたら自分には魅了の魔法がかけられているのかもしれない』と。」
「そーゆーこと。それを筆頭聖女たるクリスティーナに確認してほしいんだよね。」
お兄様はそう言ってニヤリと笑った。
「クリスティーナ、学校行ってみないか?」