16.花畑
教室に戻ると、モニカとフランシスカが心配してくれていた。話し声は聞こえたものの、何を言っていたかは分からなかったらしい。安心させるためにパージバルさんが助けてくれた話をすると、何故かニヤニヤし出して、パージバルさんと一緒に図書館に行くように勧めてきた。
「モニカとフランシスカは図書館行かないの?」
「あーえっと、ちょっと用事があって、後から行くわ。」
「ターニャ1人だとまた絡まれちゃうかもしれないし、パージバル公爵令息と一緒に行ってもらったらいいと思う!」
お兄様が待っている以上、図書館に行かないという選択肢はない。かと言って1人で行くのも確かに怖いので、2人の勧め通りパージバルさんに付き合ってもらうことにする。
廊下で頭を抱えてクネクネと不思議な動きをしていたパージバルさんを見て、やっぱ1人で図書館行こうかな、と考える。さっきのかっこよさは幻だったのだ。
「トラパルト嬢、図書館ならお供しましょう。また何かあると殿下に顔向けできませんので。」
「あ、ありがとうございます…。」
見つかってしまって、キリッとした顔でそう言われると一緒に行かざるを得ない。
2人で図書館に向かっていると、途中でパージバルさんが立ち止まった。
「あちらに行くと、以前に話した花畑がある丘です。」
「そうなんですね。」
なんで行きたそうな顔でこちらを見る?
「行きたいんですか?」
「ええ、あの、まぁ、そうです。」
歯切れ悪いな。どういうことなんだろう。
「行きますか?」
さっき助けてもらったし、行くぐらいなら全然構わないから、私はパージバルさんに尋ねる。
「え?いいのですか?」
「殿下も多少遅いくらいで何も言わないでしょうし、付き合いますよ。そんなに遠くないんですよね?」
「3分ほどで着きます!いいところですよ!」
パージバルさんの目は分厚い眼鏡のレンズで分からないけれど、口元や挙動だけで嬉しいというのが伝わってくる。何故そこまで喜んでいるのかは分からないけど、こちらも少し嬉しくなってくる。
パージバルさんの後ろをついていくと、本当に3分ほどで丘に着いた。
花の季節ということも相まって、さまざまな野花が咲き誇っている。確かにいい景色だ。
「よく来るんですか?」
私は訊くと、パージバルさんは首を横に振った。
「数えるほどしか来たことがありません。」
てっきり、パージバルさんのお気に入りの場所なのかと思ってたのに、違うのか。
「じゃあ、なんで来たかったんですか?」
「そっそれは…。」
パージバルさんは口籠る。そして数秒の逡巡のあと、口を開いた。
「この風景に貴女が似合いそうだな、と思いまして…」
ん?
「でも、思っていた以上でした。とても美しいです。」
それは私が?花畑が?
そう疑問に思ったけど、それを訊く勇気は出なくて…。
私は真っ赤になった顔を隠すように、しゃがみ込んで花を摘んだ。




